2026年10月から、地域別最低賃金が全国で順次発効します。警備会社では、最低賃金の引き上げによって自社の賃金が基準額を下回らないかだけでなく、割増賃金や社会保険料などを含めた人件費、さらに発注者との警備料金の見直しまで確認する必要があります。
2026年度の地域別最低賃金は、47都道府県で54円~65円の引き上げが答申され、全国加重平均は1,177円となりました。発効日は都道府県によって異なり、2026年10月1日から12月2日までの間に順次発効します。
警備業では、警備員の労働力がサービス提供の重要な要素となるため、賃金の変動は現場ごとの原価や契約料金を考えるうえでも無視できません。
本記事では、2026年度の最低賃金改定のポイントを確認したうえで、警備会社の人件費にどのような影響が生じるのか、警備料金の見直しをどのように進めるのかを解説します。
2026年度の最低賃金は10月から全国で順次改定
2026年度の地域別最低賃金は、47都道府県で54円~65円の引き上げられ、全国加重平均は1,177円となりました。
2025年度の全国加重平均は1,121円だったため、2026年度は56円引き上げとなります。全国加重平均での56円の引き上げは、最低賃金の目安制度が始まった1978年度以降で2番目に高い水準です。
ただし、全国一律で10月1日に新しい最低賃金が適用されるわけではありません。都道府県ごとに発効日が設定されており、2026年度は10月1日から12月2日までの間に順次発効する予定です。そのため、警備員が働く地域に適用される最低賃金額と発効日を確認することが必要です。
「警備業の最低賃金」は地域別最低賃金を確認する

地域別最低賃金は、都道府県内の事業場で働く労働者に原則として適用される最低賃金です。
警備業だから全国共通の最低賃金が設定されているわけではなく、警備員が勤務する地域に応じて確認する必要があります。
また、地域別最低賃金とは別に、特定の産業に適用される「特定最低賃金」が定められている場合があります。
ただし、特定最低賃金の対象となる産業や労働者は都道府県によって異なるため、自社の事業や労働者が対象となるかを確認する必要があります。地域別最低賃金と特定最低賃金の両方が適用される場合には、高い方の最低賃金額が適用されます。
したがって、自社の警備員については、厚生労働省が公表する最新の最低賃金額を確認したうえで、実際の賃金が基準を満たしているかを確認することが基本です。
最低賃金の引き上げは人件費にどう影響する?
最低賃金の改定で最初に確認したいのは、対象となる警備員の賃金が新しい最低賃金額を下回らないかどうかです。
最低賃金法第4条では、使用者に最低賃金額以上の賃金を支払う義務が定められています。最低賃金の対象となる賃金は、毎月支払われる基本的な賃金であり、時間外・休日・深夜の割増賃金、賞与、通勤手当など一定の賃金は対象から除外されます。
ここで注意したいのが、最低賃金の判定と、実際の人件費計算は同じではないという点です。
割増賃金への影響を確認する
警備業では、施設警備や交通誘導警備などで夜間勤務や時間外勤務が発生する場合があります。労働基準法第37条では、時間外労働や深夜労働などに対する割増賃金について定められています。
最低賃金の計算では、時間外・休日・深夜の割増部分は対象から除外されます。一方、通常の賃金が引き上げられれば、その賃金を基礎として計算する割増賃金にも影響する場合があります。
そのため、最低賃金改定の影響を確認するときは、単純に「基本時給がいくら上がるか」だけで判断せず、時間外勤務や深夜勤務が多い現場についても確認する必要があります。
法定福利費などの事業主負担も確認する
賃金が上昇すれば、会社が負担する社会保険料や労働保険料などにも影響する場合があります。そのため、最低賃金の引き上げによる人件費を試算するときは、警備員に支払う賃金だけでなく、会社が負担する関連費用まで含めて確認することが重要です。
ただし、これらの負担額は会社の加入状況や賃金、各制度の料率などによって異なります。最低賃金の引き上げ額に一定の倍率を掛けて、一律に人件費増加額を算出することはできません。
自社の勤務実態と賃金体系に合わせて試算することが、正確な原価把握につながります。
既存の賃金体系も見直す
最低賃金の引き上げによって、新しく採用する警備員の賃金と、現在勤務している警備員の賃金との差が小さくなるケースも考えられます。
例えば、未経験者の時給を最低賃金に近い水準で設定している会社では、最低賃金の改定後に既存の賃金テーブルを見直す必要が生じる可能性があります。
資格手当や役職手当などを含め、自社の賃金体系全体を確認し、最低賃金改定後の採用条件や既存従業員の賃金とのバランスを検討することが必要です。
警備料金の見直しでは「労務費の上昇」を根拠にする
最低賃金の引き上げによって人件費が増えた場合、その影響を警備料金にどのように反映するかも、警備会社にとって重要な経営課題です。
ただし、最低賃金が引き上げられたからといって、警備料金が自動的に変更されるわけではありません。民間の警備料金は、契約内容や勤務時間、配置人数、業務内容などを踏まえて個別に決まるためです。
そこで重要になるのが、人件費の上昇を具体的な資料で示し、発注者と価格について協議することです。
公正取引委員会と内閣官房は「労務費の適切な転嫁のための価格交渉に関する指針」を公表しています。同指針は2026年1月1日付で改正され、受注者側が労務費の上昇を価格に反映するための行動などが整理されています。
価格交渉では公表資料を活用する
労務費転嫁指針では、受注者が価格交渉を行う際、労務費の上昇を示す根拠資料を準備することや、発注者から価格を提示されるのを待つのではなく、自ら希望する価格を提示することなどが示されています。
警備会社が価格を見直す際には、例えば次のような資料が考えられます。
- 自社の警備員の賃金改定額
- 都道府県別の最低賃金改定額
- 自社の現場別の人件費試算
- 国土交通省が公表する公共工事設計労務単価
- 契約更新時期や過去の価格改定状況
こうした資料を整理しておけば、「単に料金を上げてほしい」という要請ではなく、どのコストが、どの程度変化したため料金の見直しが必要なのかを説明しやすくなります。
また、労務費転嫁指針では、発注者側にも受注者から労務費上昇を理由とする価格転嫁を求められた場合には協議のテーブルにつくことなどが示されています。価格交渉を行う際は、こうした公的な指針も確認しておくとよいでしょう。
公共工事の警備料金を考えるときは「設計労務単価」の位置付けに注意
交通誘導警備など公共工事に関係する警備会社では、国土交通省が公表する「公共工事設計労務単価」も参考になる資料です。
2026年3月から適用された公共工事設計労務単価では、全国の交通誘導警備員Aの加重平均値は18,911円、交通誘導警備員Bは16,749円となっています。2025年3月との比較では、交通誘導警備員Aが5.8%、Bが6.7%上昇しました。
また、2026年3月から適用された公共工事設計労務単価は、全職種の全国平均で前年度比4.5%引き上げられ、14年連続の上昇となっています。ただし、ここで注意したいのが、公共工事設計労務単価は、そのまま警備会社が受け取る契約料金ではないということです。
国土交通省は、公共工事設計労務単価について、公共工事の工事費を積算するための単価であり、法定福利費の事業主負担分や研修訓練費などの現場管理費、一般管理費等の諸経費は含まれていないと説明しています。交通誘導警備員の単価についても、警備会社に必要な諸経費は含まれていません。
そのため、公共工事設計労務単価は、警備員の労務費の動きを把握するための参考指標の一つとして扱い、自社の実際の原価や契約条件とは分けて考える必要があります。
2026年の最低賃金改定に向けて警備会社が確認すること

最低賃金の改定による影響を把握するためには、会社全体の平均値だけを見るのではなく、警備員が実際に勤務する現場ごとに確認することが重要です。
1.警備員の賃金と勤務地を確認する
まずは、警備員ごとに次の項目を整理します。
- 勤務する都道府県
- 現在の基本賃金
- 2026年度の地域別最低賃金
- 新しい最低賃金の発効日
- 時間外・深夜勤務の有無
- 各種手当の内容
最低賃金は都道府県によって額と発効日が異なるため、複数の地域で警備業務を行っている会社ほど、勤務地ごとの確認が必要です。厚生労働省は2026年度の地域別最低賃金額と発効日を全国一覧で公表しています。
2.現場ごとの人件費を試算する
次に、最低賃金改定後の賃金を前提として、現場ごとの人件費を試算します。確認する項目は、例えば次のとおりです。
- 警備員の基本賃金
- 時間外・深夜などの割増賃金
- 社会保険料・労働保険料などの事業主負担
- 資格手当などの各種手当
- 教育・研修にかかる費用
- 採用や配置に伴う費用
こうした項目を現場別に整理すれば、最低賃金改定後にどの契約で原価への影響が大きくなるのかを把握できます。
3.契約内容と価格改定の手続きを確認する
人件費の試算ができたら、現在の契約内容も確認します。
特に、
- 契約期間
- 契約更新時期
- 料金改定に関する条項
- 料金変更時の協議方法
- 必要な通知期間
などを確認しておきましょう。
契約内容を確認したうえで、人件費の上昇を反映した警備料金について発注者と協議します。
4.価格交渉の資料を準備する
価格交渉では、「最低賃金が上がった」という事実だけでなく、自社の契約にどのような影響があるのかを示すことがポイントです。
例えば、
最低賃金の改定額
↓
自社の警備員の賃金への影響
↓
現場ごとの人件費増加額
↓
現在の契約料金との差
↓
改定を希望する警備料金
という形で整理すると、価格改定の根拠を説明しやすくなります。
公正取引委員会の労務費転嫁指針では、価格交渉の際に公表資料などを根拠として活用することや、交渉内容を記録・保管することなども示されています。
まとめ|最低賃金改定を人件費と警備料金の見直しにつなげる
2026年度の地域別最低賃金は、47都道府県で54円~65円の引き上げが答申され、全国加重平均は1,177円となりました。新しい最低賃金は10月1日から12月2日までの間に都道府県ごとに順次発効します。
警備会社が確認したいポイントは次の3つです。
- 勤務地ごとの最低賃金と発効日を確認する
警備員が勤務する都道府県ごとに、2026年度の最低賃金額と発効日を確認します。 - 最低賃金だけでなく、現場ごとの人件費を試算する
割増賃金や事業主負担の保険料、賃金体系なども含め、自社の実態に合わせて原価を確認します。 - 警備料金の見直しは根拠資料を準備して協議する
最低賃金の改定額、自社の人件費試算、公共工事設計労務単価などの公表資料を整理し、契約条件を確認したうえで発注者と価格について協議します。
まずは、自社の警備員が勤務する地域の最低賃金額と発効日を一覧化し、現在の賃金・勤務時間・契約料金と照らし合わせることから始めましょう。
最低賃金の改定を単なる賃金確認で終わらせず、現場ごとの原価と契約料金を見直す機会として捉えることが、今後の警備業務の適正な価格設定を考えるうえでの一歩になります。
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※本記事は公開情報をもとに編集部が作成したものです。特定の企業の法的判断を示すものではありません。
参考・出典
- 厚生労働省「令和8年度最低賃金額答申」
- 厚生労働省「地域別最低賃金の全国一覧」
- 厚生労働省「最低賃金の対象となる賃金」
- 国土交通省「令和8年3月から適用する公共工事設計労務単価」
- 公正取引委員会「労務費の適切な転嫁のための価格交渉に関する指針」