2023年9月、建設会社の株式会社孝栄産業が立ち上げた警備事業「孝栄セキュリティ」。ゼロからスタートした組織は短期間で約100名規模まで成長し、現在は20代が約半数を占めています。
急成長の背景には、求人広告営業の経験を持つ事業責任者・原尾大地氏による採用戦略と、立ち上げ当初から進めてきた業務のDXがありました。
なぜ若手が集まる警備会社をつくることができたのか。急拡大の先で、なぜ「数より質」へ方針を切り替えたのか。そして、AIやDXをこれからの警備事業にどう生かそうとしているのか。孝栄セキュリティの原尾氏に、採用、組織づくり、事業成長について聞きました。
インタビュー対象者プロフィール
原尾 大地氏
株式会社孝栄産業「孝栄セキュリティ」事業責任者。前職ではリクルートのパートナー企業で求人広告営業に従事。2023年9月の警備事業立ち上げにあわせて孝栄産業に入社し、警備業界未経験から事業運営を担ってきた。立ち上げ当初は、採用、営業、請求・経理、管制、現場対応まで幅広く担当。現在は若手を中心とした組織づくりを進めるとともに、DXやAIを活用した交通誘導など、新たな警備のあり方にも取り組んでいる。
孝栄セキュリティ
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発注者として感じていた警備の課題。「自分たちで人を集めた方が早い」
――まず、孝栄産業が警備事業を立ち上げた経緯から教えてください。
孝栄産業は建設会社で、社長は私の父です。警備事業を始めたのは、建設会社として警備会社へ仕事をお願いする中で、人材不足や高齢化という課題を感じることが増えていたからです。
「明日、何人お願いできますか」「来週から工事が始まるのでお願いできますか」と依頼しても、「もう人がいっぱいです」と断られる。極端な例では、5人お願いしていたのに当日2人しか来ないこともありました。そうなると、工事そのものを進められません。
当社の現場には、状況を見ながら機敏に動いてもらわなければならない案件も多くあります。そうした状況を見ていた社長が、「それなら自社で警備事業を立ち上げて、自分たちで人を集めた方が早いのではないか」と考えたのが始まりです。
――2023年9月に事業を立ち上げたときは、何人からのスタートだったのでしょうか。
本当にゼロからです。ありがたいことに、最初の1カ月くらいで10人ほど採用できました。
そこで、何とか事業として回せるようになってきたというのが最初ですね。

20代が約半数。若手が若手を呼ぶ採用をどうつくったのか
――ゼロから短期間で組織を大きくできた要因は、どこにあったと考えていますか。
大きく2つあると思っています。
1つは、私自身が前職で求人広告の営業をしていたことです。リクルートのパートナー企業で働いていたので、求人についてある程度の知識はありました。
近隣エリアを調べたり、警備業界の求人状況を見たり、どのような打ち出し方をするのか、どのキーワードを使うのか、どう運用するのか。そこにはかなり力を入れました。
もう1つは、同じ市内に競合する警備会社がほとんどなかったので、新しい警備会社として認識してもらえたことも大きかったと思います。
――若手が多いことも孝栄セキュリティの特徴ですね。
今は20代がだいたい半分くらいです。ただ、最初から若い人だけを狙って採用したわけではありません。立ち上げのときに何人か若いメンバーが入ってくれたので、それを強みにして、その後のアプローチ方法を変えていきました。
ホームページやSNS、求人広告でも若いメンバーを見せるようにしました。
実際、「ホームページを見ました」「求人を見たら若い人がいたので、自分でもできると思いました」と言って応募してくれる人が多いです。若い人が働いているのを見て、また若い人が応募してくれる。そういう相乗効果はありますね。
――給与などの条件が、応募につながっているのでしょうか。
給与については、エリアの平均くらいにしています。ですから、給与面で勝負しているわけではありません。
会社の社風や、どういう思いでやっているのか、働いている人がどういう考えを持っているのか。それらをどこで、どう伝えるかは常に考えています。
100名超の急拡大から「数より質」へ 110名を超えて見えた組織の課題
――一時は100名を超える規模まで拡大されています。現在は約90名とのことですが、なぜ方針を変えたのでしょうか。
90人くらいまで採用がうまくいって、いいスタッフも集まってくれました。そうなると、こちらも少し鼻が伸びるというか、「このまま100人、150人までいこう」と考えてしまったんです。実際にそのまますぐに110人を超えました。
でも、とにかく採用すればいいという状態になると、どこかに負担がかかります。内勤の人間も疲弊しました。人に働いていただく仕事ですから、当然、会社に合う人もいれば合わない人もいます。振り返ってみると、当時の社内体制を考えずに採用しすぎていた部分がありました。
そこで採用方針を見直し、人数を増やすことよりも、会社や現場に合う人材と一緒に組織をつくっていく方がいいと考えるようになりました。
「誰でもいいから150人」ではなく、「しっかり活躍してくれる90人」の方がいい。そうした体制の方が現場のパフォーマンスも高まり、お客様からの評価にもつながると感じています。
そのため今は、人数を追うのではなく、組織の質を高めることを優先しています。
――人数ではなく、品質を重視する方針に切り替えたのですね。
そうですね。今は「仕事があるなら、どこでも受けます」ということはしていません。
無理すれば受けられる案件もあるかもしれません。でも、無理に受けたことでパフォーマンスを落としてしまったら、当社のブランディングとしては良くない。
しっかりチーム体制を整えて、「来春からならできます」「来夏からでもいいですか」と相談することもあります。
――それでも待ってくださるお客様がいらっしゃるんですね。
待ってくださったお客様もいます。「半年待ってでも孝栄セキュリティの警備員にやってほしい」と評価していただいています。そう言っていただいたときに、今働いてくれているスタッフが、現場でどれだけ頑張ってくれていたのかを私自身も改めて理解しました。
本当に、スタッフの皆さんのおかげだなと思います。

約9割が警備未経験。現場では「何を見て、何を考えるか」まで伝える
――警備未経験で入社する方も多い中、教育はどのように行っていますか。
法定教育については、他社さんと大きく変わらないと思います。指導教育責任者がいて、決められた時間の教育を行います。その後のOJTについては、現場のチーム長や職長に任せている部分が大きいですね。
その先の、「誘導しているときに何を見るのか」「何を考えるのか」「どういう振る舞いで対応するのか」といったところは、各現場のリーダーに教えてもらっています。
――若いスタッフが多いからこその難しさはありますか。
ありますね。社会に出た経験がない人や、それまでフリーターだった人もいますから、「社会的な責任感」という部分は、若いながらすでに持ち合わせている人も多数いますが、まだ足りないと感じる人もいます。そこをどう育てていくのかは、当社としても課題です。
ミッション・ビジョン・バリューも公開していますし、普段から会社の方針を伝えることを意識しています。顔を合わせたときに「元気?」「暑いね」で終わるのではなく、「会社として今後こうしていくつもりだ」「今年はこうだったから、来年はこういう対応を考えている」「そのためにはこうしないといけないよね」という話を会話に織り交ぜています。
会社がどこへ向かっているのかは、常に伝えるようにしています。
研修だけで終わらせない 現場に足を運び、接点を増やす
――人材の定着について、取り組んでいることはありますか。
できるだけ会う機会を増やすことですね。私だけではなく、指導教育責任者や内勤者も現場を回ります。
指導教育責任者が研修だけして、その後は現場に任せるのではなく、研修後も顔を出して関わり続けています。そうすることでスタッフと内勤の間に溝ができないように努めています。「研修の時から成長したね」の一言がとても嬉しかったというスタッフもいました。
私自身も現場に顔を出し会話をすることでスタッフが会社に期待していることや会社としてスタッフに還元できることのヒントを得ることができます。
「人が集まらない」「管制が大変」 2つの課題から始めたDX
――警備事業の立ち上げ当初からDXを進めています。なぜシステムが必要だと考えたのでしょうか。
私自身、警備業界で働いた経験がなかったので、最初は「どんな業界なんだろう」「どういう働き方なんだろう」という不安がありました。そこで、以前から付き合いのあった警備会社さんなどに、業界のことを一から教えていただきました。
いろいろな会社の話を聞く中で、ほとんど共通して出てきた課題が2つありました。
「人が全然集まらない」と「管制が本当に大変」。
だったら、その2つをどう解決するかを考えようと。
管制の負担を軽くするためにシステムを調べて、「ここまでDX化したら、これだけ時間を削減できる」「その時間があれば、これもできる、あれもできる」と考えました。そこで、最初からシステムを入れないと駄目だよね、という結論になりました。
管制システム「KOMAINU」導入後、給与処理は1人あたり約1分30秒、月末の売上管理・請求処理は約1時間まで効率化しました。
――立ち上げ当初から内勤スタッフがいたわけではないのですね。
最初は、ほぼ全部私一人です。採用、経理、請求、営業、管制。現場にも出ていました。人が足りないとなれば自分も現場に出ますし、現場に出ながら請求書の対応もする。営業もしました。
立ち上げの時期には、そういう経験も必要だったと思っています。
「売上」だけではなく、「何ポスト必要か」まで数字で見る
――組織が大きくなるにつれて、経営側として見る数字も変わりましたか。
変わりました。今は、とりあえず人を集めればいいという考えではありません。
「どれくらい売上が必要なのか」「その売上を上げるために何ポスト必要なのか」「単価をどうするのか」というところまで見るようになっています。KOMAINUのダッシュボードなどで数字を見ることもできます。私だけでなく、今では内勤スタッフ2名にも数字を意識してもらえるようになってきました。
――数字を内勤スタッフにも共有しているのでしょうか。
そうですね。「これだけ売上が上がれば、これだけ利益が出る」「月々これだけポスト数があれば、これだけ利益が出る」という話もします。利益が出たら、まず給料を上げられます。スタッフへ還元することができます。今年度は全スタッフの制服や備品も一新しました。
採用への効果も多少は考えていますが、やっぱり今働いてくれているスタッフが一番大事です。既存スタッフの環境をどう良くするか。そのために数字を見るということですね。
AI交通誘導を新たな部隊へ 人手不足と猛暑にどう向き合うか
――新しい技術の活用にも積極的ですね。安全性・猛暑対策としてもAIを取り入れていると伺いました。
ファン付き作業服や塩分タブレットといった基本的な暑さ対策は行っています。加えて今年は、交通誘導の現場でAIを活用する取り組みも始めました。カメラで道路の状況を解析して、「進んでください」「止まってください」といった誘導を支援する仕組みです。
省人化できれば、人材不足への対応にもなりますし、暑い中で立ち続ける時間を減らして休憩を回しやすくすることもできます。さらには交通誘導の安全性を向上させ、お客様へ提供できる価値も増えます。人手不足と熱中症、安全性という3つの課題に対して、新しい選択肢になるのではないかと考えています。
新しい技術については、常に情報を仕入れておく必要があると思っています。
今いる交通誘導の部隊を崩すのではなく、AIを使える新しい部隊をどう作っていくのか。それを今後、孝栄セキュリティとして進めていきたいと考えています。

「誰でもいいから出してほしい」仕事なら、うちではない
――3年間、警備事業を運営してきて、業界に対して感じている課題はありますか。
大阪については、警備単価など、まだ課題があると感じています。
大都市圏でありながら全国平均を大きく下回る状況であり、このままでは人は集まらず高齢化は止まらない。状況が変わらなければ衰退が続いていくと考えています。
これは1社、2社が声を上げても変わる話ではないと思います。業界全体として考えていかなければいけない部分だと思っています。
――その中で、孝栄セキュリティとして今後も大切にしたいことは何でしょうか。
今のパフォーマンスを落とさないことですね。
「誰でもいいから人を出してほしい」というお客様もいらっしゃいます。でも、私たちは「孝栄セキュリティだから頼みたい」を待っています。
とにかく人数を増やして何でも受けるのではなく、今働いてくれているスタッフを大事にしながら、きちんと評価してくださるお客様にいい仕事をする。
当社はご評価いただけるお客様には全身全霊でそのご期待に応えております。その結果として、「半年待ってでも孝栄セキュリティの警備員にやってほしい」と言っていただける。そういう会社でありたいですね。
編集部のまとめ
孝栄セキュリティの3年間は、「人を増やすこと」だけを成長としない警備会社のあり方を示しています。
2023年9月の立ち上げから短期間で100名を超えるまでに成長した一方、計画性のない採用を続ければ内勤者や現場に負担がかかり、必ずしも品質向上にはつながらないことも経験しました。そこで同社は、さらなる急拡大ではなく、現場の質を保ちながらの増員で顧客評価を高める方向へ舵を切っています。
特徴的なのは、採用、DX、現場品質を別々の課題として捉えていない点です。管理業務をシステム化して時間を生み、その時間を採用や現場とのコミュニケーションに使う。利益が出れば、給与、制服・備品などを通じて既存スタッフへ還元する。こうした循環を意識しています。
さらに今後は、従来の交通誘導部隊を維持しながら、AIを扱える新たなチームの構築も進める考えです。人手不足が続く警備業界で、単純に「人を増やす」だけでは持続的な成長につながらない可能性があります。どのような人を採用し、どう育て、どの仕事を受け、限られた時間と人員をどこへ投じるのか。孝栄セキュリティの取り組みは、これから組織を拡大したい警備会社にとって、一つの参考事例になりそうです。