「人手不足が続くなか、今の人数で警備業務を維持していけるのか」
こうした課題を抱える警備会社にとって、「省力化」は今後の経営を考えるうえで避けて通れないテーマになっています。
警察庁が公表した「省力化投資促進プラン―警備業―」では、現場の自動化からバックオフィスのDX(デジタル技術を活用した業務や組織の変革)まで、幅広い省力化策が示されました。さらに、警備業の労働生産性を2029年度までに2024年度比で25%向上させるという目標も掲げられています。では警備業の省力化とは何を意味し、警備会社は2029年に向けて何を準備すればよいのでしょうか。
本記事では、警察庁の資料をもとに、人手不足の現状や政府方針、DX・自動化の具体例、経営者が今から取り組みたいポイントを解説します。
警備業の省力化が求められる背景にある人手不足
警備業の省力化が政府レベルで推進される背景には、業界が抱える構造的な人手不足があります。

警察庁の「省力化投資促進プラン―警備業―」によると、2025年9月の警備業の有効求人倍率は6.70倍でした。全職業の1.10倍と比べると、約6倍の水準です。有効求人倍率とは、仕事を探している人1人に対して何件の求人があるかを示す指標です。6.70倍は、単純化すれば求職者1人に対して約6.7件の求人がある状態を意味します。
高齢化も進んでいます。2024年における65歳以上の労働者の割合は、全職業では13.6%なのに対し、警備業では34.3%でした。警備業で働く人のおよそ3人に1人が65歳以上という状況です。
一方、施設警備や交通誘導警備など、警備サービスは社会の安全を支えています。今後、人材の確保だけで需要を支えることが難しくなれば、限られた人員をどう活用するかが経営課題になります。そこで求められるのが、仕事に必要な時間や労力を見直し、安全や警備品質を確保しながら生産性を高める「省力化」です。
警備業の省力化とは?「人を減らすこと」との違い
「省力化」と聞くと、ロボットやAIを導入し、警備員の人数を減らすことをイメージする人もいるでしょう。しかし、政府方針を理解するうえでは、「省力化」と「省人化」を分けて考える必要があります。
省人化は業務に必要な人数そのものを減らす取り組みです。一方、省力化は、機械やデジタル技術、業務改善などによって、仕事に必要な時間や労力を軽減することを指します。
警察庁の資料でも、警備業を「労働集約型」としたうえで、省力化や労働災害防止につながる自動化・機械化・システム導入を進める必要性が示されています。たとえば施設の定期巡回の一部を警備ロボットが担えば、警備員は異常発生時の確認や対応など、人による判断が求められる仕事へ力を振り向けられます。
勤務表の作成や給与計算、上番・下番報告をシステム化すれば、管制員(警備員の配置や勤務状況、現場との連絡などを管理する担当者)や事務担当者の作業時間も短縮できます。つまり機械やシステムに任せられる仕事を見極め、人材を判断・対応・安全確保など、人だからこそ担える仕事へ集中させることが省力化の本質です。

政府が示した2029年度までの警備業の省力化目標
政府は、人手不足が深刻な業種について、省力化投資を集中的に促進する取り組みを進めています。警備業も2025年12月、「省力化投資促進プラン」の対象業種に追加されました。そこで示された大きな目標が、2029年度までに警備業の労働生産性を2024年度比で25%向上させることです。
労働生産性とは、従業員1人または一定の労働時間あたりに、どれだけの成果や付加価値を生み出せるかを見る指標です。「25%向上=警備員を25%減らす」という意味ではありません。限られた人員や労働時間のなかで、デジタル技術や業務改善を活用し、より効率的にサービスを提供できる体制への転換を目指すものです。警察庁のプランでは、具体的なKPI(重要業績評価指標)も設定されています。
行政手続きのオンライン利用率を25%へ
警察庁は、2025年12月に運用を開始した「警察行政手続オンライン化システム」について、2029年度までに利用率25%を目指しています。警備業法に基づく各種変更届や服装・護身用具等の届出などが対象として示されており、オンライン化によって警察署へ出向く時間や事務負担の軽減が期待されています。
オンライン化が進めば、書類の作成・提出や警察署等への移動に伴う手間を省ける可能性があります。現場だけでなく、バックオフィスを含めて仕事の進め方を見直すことも省力化の一つです。
法定教育へのeラーニング導入を約1,000業者へ
警備業では、警備業法に基づき、警備員に対する教育を実施することが事業者に求められています。政府のプランでは、法定教育にeラーニングを導入している事業者を2029年度までに約1,000業者とする目標が掲げられました。2025年11月末時点では約313業者です。eラーニングを適切に活用すれば、受講場所や日程調整など、集合教育に伴う運営上の手間を抑えられる可能性があります。
ただし、法定教育にeラーニングを活用する場合は、警備業法施行規則に定められた要件を満たす必要があります。具体的には、受講者の本人確認、受講状況や知識習得状況の確認、質疑応答の機会の確保などが求められます。単に動画教材を配信するだけでは要件を満たさないため、導入時には教育方法や受講管理の仕組みを確認することが重要です。
省力化に関するセミナー・説明会も実施
省力化支援施策に関するセミナー・説明会についても、年4回、累計16回開催するKPIが設定されています。
政府は設備投資だけでなく、情報提供や優良事例の横展開も含め、業界全体でDXを進める方針です。

警備業では何をDX・自動化できる?具体例を紹介
警備業の省力化というと、警備ロボットなど現場設備に目が向きがちです。しかし警察庁のプランでは、現場だけでなく、管制・事務、教育、行政手続きまで対象としています。代表的な例を見ていきましょう。
施設警備|ロボット・ドローン・バーチャル警備を活用
施設警備では、警備ロボットやバーチャル警備システム、警備ドローンなどの活用が挙げられています。バーチャル警備とは、デジタル技術を活用して警備・案内などを支援する仕組みです。たとえば施設内の定期巡回の一部をロボットが担い、カメラやセンサーから得た情報を監視側へ送れば、警備員が巡回に費やす時間を抑えられます。
一方、異常を検知した後の状況判断や利用者への声掛け、緊急時の対応などは、人の経験や判断力が求められます。「人か機械か」という二者択一ではなく、機械が得意な監視・記録・反復作業と、人が担う判断・対応を組み合わせることがポイントです。
交通誘導警備|交通誘導システムで負担を軽減
警察庁は、交通誘導システム等を活用した交通誘導警備業務の省力化も具体策として挙げています。
交通誘導警備は屋外での仕事が多く、暑さや寒さへの対応に加え、車両が行き交う環境で勤務するケースもあります。そのため機械化・自動化は人手不足への対応だけでなく、警備員の身体的負担や危険にさらされる機会を抑えるという、労働災害防止の視点からも検討できます。
管制・事務|シフト・報告・給与計算を効率化
中小規模の警備会社でも比較的検討しやすいのが、日常的な管理・事務作業のDXです。
警察庁のプランでは、労務管理、配置・シフト管理、上番・下番報告管理、給与計算、請求・支払いなどの債権債務業務のシステム化が挙げられています。たとえば電話で受け付けていた上番・下番報告をシステムへ移行すれば、管制担当者の電話対応を少なくし、手作業による転記も省けます。
勤務実績のデータを勤怠管理や給与計算と連携すれば、同じ情報を別のシステムへ入力する二重作業の解消にもつながります。ロボットなどの最新技術から考えるのではなく、日々繰り返している作業のなかに省ける手間がないかを探すことが、省力化の現実的な入口です。
警備会社の経営者が今から確認したい5つのポイント
政府が2029年度までの目標を掲げたからといって、すべての警備会社が一斉にAIやロボットを導入する必要はありません。まずは、自社のどこに人手と時間がかかっているのかを把握しましょう。
1.人が繰り返している作業はないか
電話連絡、勤務実績の転記、シフト調整、報告書の作成など、同じ手順を繰り返している仕事を洗い出します。「毎日・毎週・毎月、同じように行っている仕事は何か」を確認すると、効率化できる作業を見つけやすくなります。
2.現場以外にどれだけ時間を使っているか
警備会社には、管制、教育、労務管理、給与計算、請求など、多くの管理作業があります。「誰が、何の作業に、どれだけ時間を使っているのか」を把握すると、現場以外にも改善余地が見つかる場合があります。
3.導入済みのシステムが連携できているか
勤怠管理をデジタル化していても、そのデータを給与計算ソフトへ手入力しているのであれば、転記の手間は残ります。システムの有無ではなく、「一度入力した情報が、その後の処理までスムーズに流れる仕組みになっているか」を確認しましょう。
4.機械に任せる仕事と人が担う仕事を分けているか
巡回、監視、報告、集計などの定型的な仕事は、機械やシステムを活用できる可能性があります。一方、異常時の判断や顧客対応、安全確保などは、人の経験や判断力が求められる仕事です。「どの技術を導入するか」ではなく、「どの仕事に人を配置すべきか」から考えることがポイントです。
5.省力化によって生まれた時間を何に使うか
システムを導入しただけで、生産性が自動的に高まるわけではありません。生まれた時間を、採用、警備員教育、営業、現場管理、顧客対応などへ振り向けることで、経営上の効果につながります。DXのゴールは「システムを入れること」ではなく、限られた人材を、より価値の高い仕事へ振り向けることです。
まとめ|警備業の省力化は「人が担うべき仕事」を見直すことから
2029年度までに労働生産性を2024年度比で25%向上させるという政府目標が示され、警備業の省力化は業界全体の経営課題となっています。
とはいえ、最初から高額な警備ロボットやAIへの投資を検討する必要はありません。まずは、電話での上番・下番報告、手作業によるシフト作成、勤務実績の転記など、日常の仕事を一つ取り上げ、「この仕事は、本当に人が毎回行う必要があるのか」と問い直してみてください。
機械やシステムに任せられる部分を見つけ、そこで生まれた時間や人材を、教育、現場管理、顧客対応、安全確保など、人だからこそ価値を発揮できる仕事へ振り向ける。それが人手不足のなかでも警備サービスの質を維持・向上させるための省力化です。まずは自社の一つの作業から、「人が行うべき仕事」と「仕組みに任せられる仕事」を分けることが、2029年に向けた第一歩になります。
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