警備会社の離職対策として、健康支援はどこまで機能しているのでしょうか。
福利厚生サービス「カロリパークス」を展開する株式会社びねつが、企業に勤める正社員522名を対象に実施した「健康管理に関する意識調査」では、業界別に見た勤務先の健康支援制度の有無について、警備業で「ある」と8割が回答し比較的整っている傾向が見られました。
警備業は、屋外勤務や夜勤、長時間勤務、高齢隊員の増加など、健康管理と切り離せない業界です。一方で、健康支援制度があるだけで、すぐに隊員の定着につながるとは限りません。本記事では、調査結果をもとに、警備会社が健康支援を離職対策として機能させるための考え方と実務ポイントを解説します。
警備業で健康支援が注目される背景
株式会社びねつの調査では、勤務先の健康支援制度について、全体では「ない」が44.8%、「ある」が38.7%、「分からない」が16.5%でした。

一方、業界別では、警備業で健康支援制度が「ある」と回答した割合が80%となり、調査対象の業界の中で最多でした。業界別の回答数は公表されていないため、警備業全体の導入率とまでは言い切れませんが、今回の調査では、警備業で健康支援制度が比較的整っている傾向が見られます。

健康状態が現場運営に影響しやすい
警備業で健康支援制度が比較的整っている背景には、健康状態が現場運営に影響しやすいという仕事の特性があると考えられます。
交通誘導警備(工事現場等での車両・歩行者の誘導業務)では、炎天下や寒冷環境での勤務があります。雑踏警備では、多くの人が集まる場所で周囲に注意を払い続ける必要があります。施設警備では、夜勤や長時間の立哨、巡回が発生する場合があります。
体調不良や睡眠不足が続けば、現場での集中力や判断力に影響します。欠勤が出れば、管制担当者は急な配置調整に追われます。現場責任者にとっても、隊員の体調不安は安全管理上のリスクになります。
高齢化により健康管理の重要性が増している
また、警備業界では高齢化も進んでいます。警察庁が公表した「令和6年における警備業の概況」によると、令和6年12月末現在の警備員数は58万7,848人です。年齢別では60歳以上が47.0%、70歳以上が20.9%を占めています。
高齢隊員が多い警備業界では、健康診断後のフォロー、熱中症対策、持病や体調変化への配慮が、現場運営を安定させるうえで重要になります。
そのため、警備会社にとって健康支援は、単なる福利厚生ではありません。隊員が安全に働き続けるための基盤であり、欠勤や早期離職のリスクを抑えるための実務施策として考える必要があります。
健康支援制度とは何を支える仕組みなのか
健康支援制度とは、従業員が心身の健康を保ちながら働けるよう、会社が用意する支援の仕組みです。健康診断の実施、再検査の受診勧奨、熱中症対策、メンタルヘルス相談、運動促進、睡眠や食事の管理支援など、内容は企業によってさまざまです。
警備会社の場合、健康支援は「福利厚生の一部」というだけでなく、現場を安定して運営するための仕組みでもあります。体調不良による欠勤、集中力の低下、再検査の放置、暑熱環境での体調不安などは、隊員本人だけでなく、配置や現場管理にも影響します。
隊員が自分の健康状態に気づくための支援
健康支援制度の役割の一つは、隊員が自分の健康状態に気づきやすくすることです。
健康診断の結果、歩数、睡眠、食事、体調の変化などを確認できる仕組みがあれば、隊員自身が「以前より数値が悪くなっている」「睡眠が足りていない」「再検査を受ける必要がある」と気づきやすくなります。
会社が一方的に健康を管理するのではなく、隊員本人が自分の状態を把握しやすくすることが、健康支援の出発点になります。
必要な行動につなげるための支援
健康状態に気づいても、次の行動につながらなければ支援としては不十分です。
たとえば、再検査の受診、生活習慣の見直し、睡眠や食事の改善、体調不安の相談など、必要な行動に移しやすい導線があることで、健康支援は実効性を持ちます。
警備会社の場合、隊員が本社や営業所に常駐しているわけではありません。そのため、紙の案内や一度きりの説明だけで行動を促すのは難しい場合があります。現場勤務の中でも確認しやすく、無理なく続けられる仕組みにすることが重要です。
安心して働き続けるための支援
警備会社にとって、健康支援は隊員が安心して働き続けるための土台でもあります。
健康状態に不安を抱えたまま勤務を続ければ、本人の負担が増えるだけでなく、欠勤や早期離職、現場での安全管理にも影響します。逆に、体調不安を相談しやすく、必要なフォローを受けられる環境があれば、隊員は「この会社なら長く働ける」と感じやすくなります。
つまり、健康支援制度は、制度そのものを増やすことが目的ではありません。隊員が自分の健康状態に気づき、必要な行動につなげ、安心して働き続けられる状態を支える仕組みとして設計することが重要です。
調査結果から見える、健康支援を定着させる課題
今回の調査では、健康支援制度を「必要ない」と感じる理由も示されています。
全体では、「自分にメリットがあると感じられない」が39.2%で最多でした。次いで、「個人情報の扱いが不安」が37.3%、「勤務先に健康状態を知られたくない」が23.5%となっています。

これは警備員だけを対象にした結果ではありません。ただし、警備会社が健康支援制度を運用するうえでも参考になる結果です。
健康支援制度は、会社側が「良い制度」と考えているだけでは利用されません。隊員本人がメリットを感じられなければ使われにくく、健康情報の扱いに不安があれば、制度への信頼も得にくくなります。
特に警備業では、配置や勤務日数が収入に影響する場合があります。そのため、健康状態を会社に知られることで「現場を外されるのではないか」「希望する勤務に入れなくなるのではないか」と不安を抱く隊員がいても不自然ではありません。
健康支援を定着させるには、制度内容だけでなく、隊員にどう伝えるか、健康情報をどう扱うかまで設計する必要があります。
警備会社が健康支援を離職対策につなげる実務ポイント
健康支援を離職対策につなげるには、制度やツールを導入するだけでは不十分です。重要なのは、隊員が「自分に関係のある支援」として理解し、無理なく使える状態になっているかです。
今回の調査では、歩数に応じたポイント付与、健康診断結果の自動管理、睡眠状態のスコア化といった機能に過半数の関心が集まりました。これらは、現場への移動や巡回、夜勤、不規則な食事時間などがある警備員の働き方にも取り入れやすい面があります。

ただし、機能があるだけでは利用は広がりません。警備会社側では、制度を「どう導入するか」だけでなく、「どう伝え、どう使ってもらうか」まで考える必要があります。
制度のメリットを隊員目線で伝える
まず見直したいのは、制度の伝え方です。
たとえば、健康診断結果の管理機能であれば、「会社が健康状態を把握するため」ではなく、「隊員自身が過去の数値変化を確認し、再検査の見落としを防ぎやすくするため」と説明するほうが伝わりやすくなります。
歩数や睡眠の記録も同じです。「会社が生活を管理するため」ではなく、「自分の体調変化に気づきやすくするため」と伝えることで、隊員にとっての意味が明確になります。
健康情報の扱いを先に明確にする
健康支援制度を案内する際は、個人情報の扱いも先に説明しておく必要があります。
少なくとも、どの情報を取得するのか、誰が確認できるのか、配置や評価に使うのか使わないのか、問い合わせ先はどこかを明確にしておくべきです。
健康支援は、会社が隊員を監視するためのものではありません。隊員が長く働ける状態を支えるための制度であることを、導入時に丁寧に伝える必要があります。
現場で使える状態まで落とし込む
制度の内容を本社だけが理解していても、現場側が説明できなければ利用は進みません。
警備会社では、隊員が日常的に接する相手は現場責任者や管制担当者であることが多くあります。制度を導入する際は、現場責任者や管制担当者にも、制度の目的、隊員に伝えるべきメリット、個人情報の取り扱い、問い合わせ先を共有しておく必要があります。
また、アプリやデジタルツールを使う場合は、使い始めの支援も欠かせません。紙の説明資料を用意する、点呼時や研修時に案内する、操作が苦手な隊員に個別で説明するなど、使える状態まで支えることが求められます。
健康支援は、制度の数を増やすことが目的ではありません。隊員が安心して使え、日常の中で自然に健康行動につながることが重要です。
まとめ|健康支援は「制度導入」から「隊員に届く運用」へ
警備会社の離職対策では、賃金、シフト、教育、採用広報など、さまざまな施策が必要です。その中で、健康支援は後回しにされやすいテーマです。
しかし、警備業の働き方を考えると、健康支援は隊員定着に関わる施策です。
今回の調査では、業界別で見た健康支援制度の有無について、警備業が「ある」と回答した割合は8割で最多でした。一方で、制度があるだけでは離職対策にはなりません。
警備会社が次に確認すべきことは、自社の健康支援が「あるだけ」になっていないかです。健康診断後のフォローはできているか。隊員に制度の目的や使い方を説明できているか。個人情報の扱いを明確にできているか。現場責任者や管制担当者まで制度を理解しているか。
この確認から始めることで、健康支援は「会社にある制度」から「隊員に届く支援」へ変わります。
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