生成AIをはじめとするAI技術は、文章や画像、音声などの生成を身近なものにしました。一方で、AIの悪用やAIを利用したサイバー攻撃など、新たなセキュリティリスクも指摘されています。
警備会社も、顧客施設の警備計画、防犯設備の情報、警備員の配置、巡回方法、緊急連絡先など、施設の安全に関係する情報を日常的に扱っています。そのためAIの悪用や業務利用によって、こうした情報がどのようなリスクにさらされるのかを確認しておく必要があります。
本記事では、2026年時点で公表されているAIに関するセキュリティリスクを踏まえ、警備会社の管理者が自社の情報管理と警備体制をどのように見直せばよいのかを解説します。
AIのセキュリティリスクは警備会社にも関係する
IPAの「情報セキュリティ10大脅威 2026」では、「AIの利用をめぐるサイバーリスク」が組織向け脅威の3位に初めて選出されました。 AIの悪用による攻撃の容易化や手口の巧妙化だけでなく、AIの業務利用に伴う意図しない情報漏えいをリスクとして挙げられています。
警備会社も、顧客施設の防犯設備や警備員の配置、巡回方法、入退館に関する情報など、安全に関わる情報を日常的に扱っています。こうした情報が外部に流出すれば、契約先の警備体制に影響を及ぼす可能性があります。
そのため、AIを悪用した外部からの攻撃だけでなく、自社でAIを利用する際に重要な情報を外部へ出してしまわないための管理も必要です。
警備会社が想定しておきたい3つのAI悪用リスク
なりすましを想定した入退館時の本人確認
生成AIによって文章や画像、音声などを生成する技術が身近になったことで、本人になりすました情報を作成することへの警戒も必要になっています。警備現場では、施設管理者や担当者を装って「緊急の設備点検なので関係者を入館させてほしい」「責任者から許可を得ているので解錠してほしい」といった依頼を受ける場面を想定しておく必要があります。
こうした具体的な手口がAIによって警備会社を狙う犯罪として広く確認されているとまではいえません。しかし、電話の声やメールの文章だけを本人確認の根拠とする運用には、もともと一定のリスクがあります。そこで管理者が確認したいのが、例外的な入館や解錠依頼が発生した場合の確認手順です。現場の警備員がその場で判断するのではなく、あらかじめ登録された連絡先への折り返しや、施設側の責任者への照会など、複数の確認手段を組み合わせることで、なりすましによる判断ミスを防ぎやすくなります。
AI対策という特別な仕組みを新しく作るというより、本人確認を一つの情報だけに依存しない運用になっているかを確認することが重要です。
フィッシングなどによる警備情報の流出
警備会社にとって、より現実的に考えておきたいのが、メールやウェブサービスを経由した情報漏えいです。
IPAの「情報セキュリティ10大脅威 2026」では、AIの利用をめぐるサイバーリスクに加えて、機密情報を狙った標的型攻撃やビジネスメール詐欺なども組織向けの脅威として挙げられています。AIによって攻撃の手口が巧妙化する可能性を踏まえると、従来の情報セキュリティ教育も見直す必要があります。
警備会社の場合、一般的な社内情報だけでなく、顧客施設の図面、防犯設備の配置、警備員の勤務・配置情報、巡回方法、緊急連絡先なども管理しています。これらが外部へ流出すれば、単なる社内情報の漏えいではなく、契約先の安全に関わる問題へ発展する可能性があります。
そのため、営業担当者や管制担当者、現場責任者など、警備情報に触れる社員が「この情報は外部へ出してはいけない」という認識を共有しているかを管理者が確認することが重要です。
複数の警備情報を組み合わせて分析されるリスク
もう一つ意識したいのが、情報を組み合わせることによるリスクです。
例えば、防犯カメラの位置だけでは施設全体の警備体制を把握できない場合でも、巡回時間、警備員の人数、入退館方法、勤務交代時間などが組み合わされると、施設の警備体制を推測する材料になる可能性があります。AIによってこうした情報が警備会社を狙う犯罪に利用される具体的な事例が、現時点で業界全体に広がっていると断定することはできません。
警備会社としては、情報を一件ずつ見るだけでなく、複数の情報を組み合わせた場合に施設の警備体制をどこまで推測できるのか、という視点を持つことも情報管理上の検討事項になります。これはAIに限った問題ではありませんが、AI時代の警備情報管理を考えるうえで押さえておきたい視点といえるでしょう。
警備業法だけでなく契約・情報管理のルールからも確認する
警備会社の情報管理を考える際には、AIという新しい技術だけに注目するのではなく、警備業務を適正に実施するための既存のルールを確認することが重要です。ここで注意したいのが、警備業法と秘密保持の関係です。
警備業法第21条は、警備業者および警備員について、警備業務を適正に行うため、警備業務に関する知識および能力の向上に努めることを定めています。つまり、第21条を「警備業務で知り得た秘密を守る義務を直接定めた条文」と説明することは適切ではありません。
一方で、警備会社は契約先の施設情報など、業務上重要な情報を扱います。実際の情報管理については、個別の契約や社内規程、個人情報保護法など、情報の性質に応じて確認する必要があります。そのため管理者が行うべきなのは、「警備業法に秘密保持義務があるから大丈夫」と考えることではありません。
自社の契約書や就業規則、情報管理規程などを確認し、顧客から預かっている情報について、誰がアクセスでき、どのような方法で保管・共有しているのかを整理することが大切です。特に生成AIやクラウドサービスを業務で利用している場合は、従来の紙や社内サーバーを前提とした情報管理ルールだけでは十分ではない可能性があります。
防犯カメラやAIカメラを導入するときは個人情報の取り扱いも確認する
AIを利用した防犯カメラや顔識別機能付きカメラを顧客へ提案する場合には、機器の防犯性能だけでなく、個人情報の取り扱いについても確認が必要です。
個人情報保護委員会は、個人を識別できる防犯カメラ画像を取得する場合、利用目的をできる限り特定し、その目的の範囲内で利用する必要があるとしています。一般的な防犯カメラについては、設置状況などから防犯目的であることが明らかな場合、利用目的の通知・公表が不要となる場合もありますが、本人がカメラによる取得を容易に認識できない場合には、そのための措置が必要とされています。
さらに、顔識別機能付きカメラの場合は注意が必要です。個人情報保護委員会は、顔識別機能を利用する場合、単に「犯罪防止」という目的を示すだけではなく、顔識別機能を用いていることも明らかにして利用目的を特定する必要があるとしています。また、利用目的の通知・公表や、運用主体、利用目的、問い合わせ先などを分かりやすく示すことが望ましいとしています。
そのため、警備会社がAIカメラを提案したり、運用に関与したりする場合には、契約先と運用主体や個人情報の取扱いを確認することが重要です。
どのような情報を取得するのか、何のために利用するのか、誰が閲覧できるのか、どのように管理するのかといった運用面まで、契約先と確認する必要があります。
警備会社の管理者が見直したい4つの実務対応

1.入退館・本人確認の手順を見直す
まず確認したいのが、例外的な入館や解錠を求められた場合の本人確認手順です。
例えば、電話やメールで突然の依頼を受けた場合に、現場の警備員だけで判断するのではなく、あらかじめ決めた連絡先へ折り返して確認するなど、別の経路を使って本人確認できる仕組みを整えておきます。
重要なのは、声やメールアドレスなど一つの情報だけで本人と判断しないことです。管理者が事前に確認方法と承認者を決めておけば、現場の警備員が緊急時に迷う場面も減らせます。
2.警備情報へのアクセス権限を整理する
次に、自社が保有する警備情報を棚卸しします。顧客施設の図面や警備計画、配置情報などについて、「誰が見られるのか」を明確にすることが重要です。
例えば、業務上必要のない社員まで特定の顧客施設の詳細な警備情報を閲覧できる状態になっていないか、異動や退職後も以前の権限が残っていないかを確認します。AIを悪用した外部からの攻撃だけでなく、内部からの情報漏えいも含めて考えることで、より実効性のある情報管理につながります。
3.生成AIへ入力してよい情報を明確にする
2026年のIPA「情報セキュリティ10大脅威」では、AIの業務利用に伴う意図しない情報漏えいなどがリスクとして示されています。いわゆる「シャドーAI」のように、会社が把握・管理していないAI利用についても、情報管理の観点から注意が必要です。
警備会社では、顧客施設の図面や警備計画書、配置表、緊急連絡先などを生成AIへ入力することが適切なのか、あらかじめ社内ルールを定めておく必要があります。
「生成AIの利用を禁止する」という一律の対応ではなく、会社が認めたサービス、入力してよい情報、入力してはいけない情報、生成された内容を業務で使用する際の確認方法などを明確にすることが現実的です。IPAも2026年4月、「AI利用者のためのセキュリティ豆知識」を公開し、AIの悪用や脆弱性を狙った攻撃などを踏まえた利用者側のセキュリティ対策を示しています。
4.警備員教育を現在の情報環境に合わせて更新する
最後に重要なのが、現場の警備員への教育です。AIに関する専門的な知識をすべての警備員に求める必要はありません。それよりも、「緊急だから確認を省略する」「責任者の名前を知っているから本人だろう」といった判断をせず、定められた確認手順を守ることを教育する方が、現場では実践しやすいでしょう。
また、警備員が業務上知り得た施設情報をSNSへ投稿したり、許可されていない生成AIサービスへ入力したりしないよう、情報管理に関する教育内容も現在の環境に合わせて見直す必要があります。
警備業法第21条では、警備業者や警備員に対して警備業務に関する知識・能力の向上を求めています。AIや情報セキュリティに関する内容をどこまで教育へ取り入れるかは各社の業務内容にもよりますが、警備を取り巻く情報環境の変化に応じて教育内容を検討することも一つの対応です。
AI時代の警備体制は「新技術」より先に情報管理を見直す
AIを悪用した犯罪への対策というと、AIカメラや顔認証など、新しい防犯設備の導入に目が向きがちです。しかし、警備会社の管理者が最初に取り組みたいのは、自社がすでに保有している情報の管理状況を確認することです。
顧客施設のどのような情報を保有しているのか。その情報を誰が閲覧できるのか。社外へ共有するときにどのようなルールがあるのか。生成AIやクラウドサービスを利用するとき、どの情報まで入力してよいのか。
こうした基本的な部分を整理することで、AIを悪用した犯罪だけでなく、フィッシングや誤送信、内部不正など、従来から存在する情報セキュリティ上のリスクにも対応しやすくなります。
AI対策を特別な業務として切り離すのではなく、既存の警備情報管理と現場運用を、現在の技術環境に合わせて更新することが重要です。
まとめ|AI対策の第一歩は「自社が持つ警備情報」の棚卸しから
AIを悪用した犯罪への備えは、新しい防犯機器を導入することだけではありません。警備会社の管理者がまず確認したいのは、自社がどのような警備情報を持ち、誰がアクセスし、どのようなルールで扱っているのかという点です。
2026年のIPA「情報セキュリティ10大脅威」では、AIの利用をめぐるサイバーリスクが組織向けの脅威として初めて選出されました。また、警察庁もAIを悪用したサイバー攻撃に関する事例を公表しています。こうした公的機関の情報を継続的に確認し、自社の業務に置き換えて考えることが重要です。
まずは、顧客施設の図面や警備計画、配置情報など、自社が保有する情報を棚卸ししてみましょう。そのうえで、アクセス権限や外部サービスへの情報入力、入退館時の本人確認、警備員教育などを順番に見直します。AI時代の警備体制に必要なのは、AIを導入することそのものではありません。
AIが悪用される可能性を踏まえ、これまでの警備情報管理と現場運用に新たな弱点が生じていないかを確認すること。それが、警備会社が今取り組みたいAI時代のリスク管理の第一歩になります。
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※本記事は公開情報をもとに編集部が作成したものです。特定の企業の法的判断を示すものではありません。