警備業では、警備員の配置調整や勤怠確認、日報の回収、教育記録の管理など、日々の業務に多くの事務作業が発生します。人手不足が続くなか、こうした業務を見直し、限られた人員で効率よく運営するための手段として、DX(デジタルトランスフォーメーション)が注目されています。
警備業のDXは、単に紙の書類をデジタル化することではありません。業務の進め方や情報共有の仕組みを見直し、業務負担の軽減や生産性の向上につなげる取り組みです。
本記事では、警備業のDXが求められる背景を整理したうえで、導入を検討できる5つのシステム領域、進め方、活用を検討できる補助金を解説します。
警備業のDXが求められる背景と経営課題
警備会社では、現場への人員配置、勤務予定の調整、出退勤の確認、報告書の作成・回収など、警備業務を支える管理作業が日常的に発生します。これらを電話や紙の書類、表計算ソフトなどで個別に管理している場合、情報の転記や確認に時間がかかることがあります。
また、勤務変更や欠員が発生した際には、管制担当者が関係者に連絡し、配置を調整しなければなりません。情報が複数の場所に分散していると、確認作業が増えるだけでなく、伝達漏れや入力ミスが起こる可能性もあります。
こうした業務上の課題に加え、警備業界では人手不足への対応も求められています。

警察庁が2025年12月22日に公表した「省力化投資促進プラン―警備業―」によると、2025年9月の警備業の有効求人倍率は6.70倍で、全職業の1.10倍を大きく上回っています。
同プランでは、2029年度までに警備業の労働生産性を2024年度比で25%向上させることを目標に掲げています。警備ロボットや交通誘導システムなどによる現場業務の省力化に加え、配置シフト管理、上番・下番報告、給与計算などのシステム化も推進策として挙げられています。
現場で働く人のデジタル化に対する意識も、DXを検討するうえで参考になります。

株式会社PROCANのプロキャス警備が2026年6月17日に公表した調査では、警備業で働いた経験のある20代以上の男女307人のうち、81.4%が業務のデジタル化について「必要」と回答しました。調査は2026年5月20日から25日にかけて実施されたインターネット調査です。警備業の就業経験者を対象とした調査であり、警備業界全体の意見をそのまま示すものではありませんが、デジタル化への関心を把握する材料の一つといえます。
警備会社にとってDXは、現場の人員不足を補うためだけの取り組みではありません。管制や事務部門の業務を見直し、限られた人員で事業を運営していくための手段でもあります。ただし、システムを導入すれば必ず業務負担が減るわけではありません。まずは自社の業務で時間や手間がかかっている部分を把握し、何を改善したいのかを明確にすることが重要です。
警備業で導入を検討できる5つのシステム領域

警備業のDXでは、管制業務や勤怠管理、日報作成、法令に関係する書類の管理など、さまざまな領域でシステムの活用を検討できます。自社の業務内容や管理体制に応じて、優先順位をつけて導入することが大切です。
1.管制・シフト管理システム
管制・シフト管理システムは、警備員の勤務予定や現場への配置、シフト変更などを管理するためのシステムです。
警備会社では、契約内容や現場ごとの必要人数、警備員の勤務可能日などを踏まえ、適切に人員を配置する必要があります。電話や表計算ソフトを中心に管理している場合、予定の変更があるたびに情報を修正し、関係者へ連絡する作業が発生します。システムを導入すれば、勤務予定や配置状況をまとめて確認できるようになり、情報の更新や共有を効率化できる可能性があります。製品によっては、警備員への勤務連絡や配置状況の確認を支援する機能も備えています。
ただし、警備員の資格や経験、現場ごとの条件などを踏まえた配置判断が不要になるわけではありません。システムに任せられる作業と、管制担当者が判断すべき事項を整理しておくことが重要です。
2.勤怠・直行直帰管理システム
勤怠管理システムは、警備員の出退勤時刻や勤務実績などを記録・管理するための仕組みです。スマートフォンなどから打刻できるサービスであれば、現場に直行・直帰する勤務形態にも対応しやすくなります。
紙の勤務表や電話による報告を中心にしている場合、管理担当者が勤務実績を確認し、給与計算などに必要な情報を転記する作業が発生することがあります。勤怠情報をデジタルで集約できれば、確認や集計の手間を減らせる可能性があります。一方、スマートフォンでの打刻が、実際の勤務状況を常に正確に証明できるとは限りません。打刻忘れや位置情報の扱い、修正申請の手順などを事前に決めておく必要があります。
導入時には、現場で操作しやすいか、管理者が勤務実績を確認しやすいか、既存の給与計算システムと連携できるかなどを確認しましょう。
3.電子日報・報告管理システム
電子日報・報告管理システムは、警備員が作成する業務報告や巡回記録などを、スマートフォンやパソコンから入力・提出できるようにする仕組みです。紙の日報を使用している場合、現場での記入に加え、回収や保管、内容の確認、集計などにも時間がかかります。電子化すれば、報告内容をデータとして集約し、管理担当者が確認しやすくなる可能性があります。
また、入力項目を統一することで、記載漏れの確認や報告内容の整理を進めやすくなります。写真の添付や承認機能など、製品によって利用できる機能は異なります。ただし、電子化するだけで報告の質が自動的に向上するわけではありません。現場で入力しやすい項目に整理するとともに、異常や事故が発生した場合の連絡方法など、日報とは別に必要な報告手順も明確にしておきましょう。
4.法令関係書類・教育記録の管理システム
警備業では、警備員名簿や教育記録など、警備業法に基づく書類の作成・管理が必要です。これらの書類は、警備員の採用や退職、教育の実施などに応じて更新するため、管理する人数が増えるほど事務作業の負担も大きくなります。
警備業法第45条では、警備業者に対して警備員名簿などの書類を営業所ごとに備え付けることを定めています。また、警備業法施行規則第66条では、警備員名簿の記載事項として、警備員教育の実施年月日、内容、時間数、実施者の氏名などを規定しています。
一方、同規則第67条では、必要な事項を電磁的方法で記録し、必要に応じて直ちに表示できる場合、その記録を書類に代えることが認められています。こうした書類の管理に対応したシステムを導入すれば、記録の検索や更新、教育履歴の確認などを効率化できる可能性があります。ただし、電子化すればすべての法令上の義務を満たせるわけではありません。対象となる書類や必要な記載事項、保存方法、営業所ごとの管理体制などを確認する必要があります。
導入時には、警備業法に基づく書類管理に対応しているかに加え、閲覧権限の設定やデータのバックアップなども確認しましょう。
出典:e-Gov法令検索「警備業法施行規則」第66条~第68条
5.AI・カメラ・警備ロボット
AIやカメラ、警備ロボットなどの技術は、施設の監視や巡回、異常の検知などを支援する手段として活用が進められています。
例えば、カメラ映像を利用した検知システムや、施設内を巡回するロボットなどは、導入環境や機能によって警備員の確認作業を補助できる場合があります。人が常時確認する作業の一部を技術で支援できれば、警備員が状況判断や利用者対応などに注力しやすくなる可能性があります。
一方、AIやロボットがあらゆる異常を正確に判断できるわけではありません。検知できる対象や設置環境、誤検知への対応、通信障害時の運用などを確認する必要があります。
また、導入する機器によっては、現場の設備改修や通信環境の整備、警備員への操作教育などが必要です。導入費用だけでなく、保守・運用にかかる負担も含めて検討しましょう。
警備業のDXで期待できる効果と確認したいこと
DXによって期待できる効果は、導入するシステムや対象業務によって異なります。代表的な効果と、導入前に確認したい点を整理します。
事務作業や情報共有の負担を減らす
勤務予定や勤怠、日報などをデジタルで管理すれば、情報の転記や集計、書類の回収にかかる作業を減らせる可能性があります。情報を一元管理することで、管理担当者が必要な内容を確認しやすくなることも期待できます。
ただし、従来の運用を残したまま新しいシステムを追加すると、二重入力が発生し、かえって業務が増える場合もあります。既存の業務手順を見直し、どの作業をシステムに移すのかを明確にすることが大切です。
配置や勤務状況を把握しやすくする
管制・シフト管理や勤怠管理のシステムを活用すれば、勤務予定や実績を確認しやすくなり、欠員や勤務変更への対応を支援できる場合があります。
一方、システムの情報が更新されていなければ、正確な状況を把握できません。誰がいつ情報を更新するのか、変更時にどのように連絡するのかといった運用ルールも必要です。
書類や記録の確認を効率化する
日報や教育記録などをデータで管理することで、必要な情報を探しやすくなり、記録の確認や整理にかかる時間を減らせる可能性があります。
ただし、記録の保存期間や閲覧権限、情報漏えいへの対策などは、導入するシステムの機能と自社の管理体制に合わせて検討しなければなりません。法令に関係する記録については、必要な項目や保存方法を確認したうえで運用しましょう。
DXの効果を判断する際は、導入したという事実だけで評価するのではなく、導入前後の業務時間や入力ミス、確認作業の回数などを比較することが重要です。自社の課題に合った指標を設定し、実際に改善につながっているかを確かめましょう。
警備会社がDXを進める4つのステップ

DXを進める際は、最初から大規模なシステムを導入するのではなく、課題の把握から始め、段階的に取り組む方法が考えられます。
1.現在の業務と課題を洗い出す
まずは、管制、勤怠、日報、教育記録などの業務について、どのような方法で管理しているかを確認します。
例えば、電話での連絡に時間がかかっている、日報の回収が遅れる、勤務実績の転記に手間がかかるといった課題を具体的に整理しましょう。現場の警備員と管理担当者の双方から意見を聞くことで、見落としていた負担を把握できる場合もあります。
2.導入する業務と優先順位を決める
洗い出した課題のなかから、改善の必要性が高い業務を選びます。導入費用や運用負担、期待する効果を比較し、優先順位を決めることが大切です。
例えば、日報の回収や集計に大きな負担がかかっている場合は、電子日報の導入から検討する方法があります。勤務変更への対応に課題がある場合は、管制・シフト管理システムが候補になります。
また、システムの導入費用だけでなく、月額利用料や初期設定、警備員・管理担当者への操作教育などにかかる費用や時間も考慮する必要があります。現在の作業時間や人件費を把握したうえで、導入によってどの程度の業務負担を軽減できるかを見積もることが、費用対効果を判断する材料になります。
すべての業務を一度にデジタル化するのではなく、改善効果が見込める業務から段階的に取り組むことで、導入時の負担を抑えながら自社に適した運用方法を検討できます。
3.複数のサービスを比較して試験導入する
システムを選ぶ際は、機能や費用だけでなく、現場での使いやすさ、既存システムとの連携、サポート体制、セキュリティ対策なども確認しましょう。
可能であれば、一部の営業所や現場で試験導入し、実際の業務に適しているかを確かめます。警備員が操作しやすいか、管理担当者の作業が減るか、運用上の問題がないかを確認してから、本格導入を判断するとよいでしょう。
4.導入後に効果を確認し、運用を見直す
システムの導入後は、事前に設定した指標を使って効果を確認します。作業時間や入力ミス、情報共有にかかる時間などを導入前と比較し、改善できた点と残された課題を整理しましょう。
利用者から意見を集め、操作方法や社内ルールを見直すことも重要です。DXは導入して終わりではなく、業務に定着させ、継続的に改善していく取り組みです。
警備業のDXで活用を検討できる補助金・助成金
DXに向けてシステムや設備を導入する場合、国の補助金を活用できる可能性があります。ただし、補助金ごとに対象事業者、対象経費、申請要件、申請期間などが異なります。警備会社であっても、導入したいシステムが必ず補助対象になるわけではありません。
以下では、警備会社がDXに取り組む際に活用を検討できる主な補助金・助成金を紹介します。制度の名称や要件、公募状況は年度によって変更される場合があるため、申請を検討する際は、各公式サイトで最新情報を確認してください。
デジタル化・AI導入補助金2026
デジタル化・AI導入補助金2026は、中小企業・小規模事業者等の業務効率化や生産性向上を支援する制度です。ITツールなどの導入を検討する際に、対象となる可能性があります。
警備会社では、管制・シフト管理や勤怠管理、業務情報の管理などに関するITツールが検討対象になり得ます。ただし、補助対象となるのは、制度の要件を満たした登録済みのITツールなどに限られます。
申請にあたっては、導入予定のITツールが補助対象として登録されているかに加え、対応するIT導入支援事業者や申請枠を確認する必要があります。一般的な管制システムや勤怠管理システムであっても、登録されていなければ補助対象になるとは限りません。
公式サイト:デジタル化・AI導入補助金2026
中小企業省力化投資補助金
中小企業省力化投資補助金は、人手不足に悩む中小企業等の省力化投資を支援する制度です。カタログ注文型と一般型があり、導入する設備やシステムの内容などによって申請方法や要件が異なります。
カタログ注文型では、対象として掲載された製品から選択して導入します。一方、一般型では、個別の現場や事業内容に合わせた設備導入・システム構築などが支援対象となり得ます。
警備会社が利用を検討する場合は、導入したい設備やシステムが対象となるか、申請する類型の要件を満たしているかを確認しましょう。カタログ注文型では、登録された製品から選択する必要があります。一方、一般型は、個々の現場や事業内容に合わせた設備導入・システム構築などを対象とする制度です。警備会社では、導入したいシステムや設備の内容に応じて、どちらの類型が適しているか検討しましょう。
公式サイト:中小企業省力化投資補助金
働き方改革推進支援助成金(労働時間短縮・年休促進支援コース)
働き方改革推進支援助成金の「労働時間短縮・年休促進支援コース」は、時間外労働の削減や年次有給休暇の取得促進などに向けた環境整備に取り組む中小企業事業主を支援する制度です。労務管理用ソフトウェアなどの導入・更新も、要件を満たせば対象となる場合があります。
ただし、単にシステムを購入するだけでは助成対象になりません。時間外・休日労働の上限設定や年次有給休暇の計画的付与の導入など、所定の成果目標を設定し、達成に向けた取り組みを実施する必要があります。
警備会社で活用を検討する際は、導入するシステムが対象経費として認められるかに加え、自社の労働時間管理や休暇制度の改善につながる取り組みであるかを確認しましょう。なお、パソコンやタブレット、スマートフォンなどの導入・更新は原則として対象外です。
2026年度の交付申請期限は11月30日(月)午後5時ですが、予算の状況によっては早期に受付が終了する場合があります。申請前に最新の交付要綱や申請マニュアルを確認してください。
公式サイト:厚生労働省「働き方改革推進支援助成金(労働時間短縮・年休促進支援コース)」
なお、助成金の申請期限や要件は年度によって変わるため、記事の公開時点で最新情報を確認してください。
まとめ
警備業のDXは、管制・シフト管理、勤怠管理、電子日報、法令関係書類の管理、AIや警備ロボットなど、さまざまな領域で検討できます。業務のデジタル化によって、情報共有や記録管理の負担を軽減できる可能性がありますが、導入するだけで課題が解決するわけではありません。
まずは自社の業務を洗い出し、時間や手間がかかっている作業を明確にすることが重要です。そのうえで、現場で使いやすいシステムを選び、試験導入や効果測定を通じて運用を改善していきましょう。
また、システムや設備の導入にあたっては、補助金を利用できる可能性もあります。制度ごとに要件や対象経費が異なるため、公式情報を確認し、申請手続きや導入時期を含めて計画を立てることが大切です。
警備NEXT(警備ネクスト)では、業界の法令動向や事案を継続的にウォッチし、現場に役立つ視点でお届けしています。
※本記事は、警備業のDXに関する一般的な情報をまとめたものです。法令の適用や補助金の対象可否は、個別の状況や申請時点の制度内容によって異なります。具体的な運用や申請にあたっては、関係法令、公式資料、公募要領などを確認してください。