警備業界では、人手不足や警備員の高齢化に加え、人件費の上昇に対応しながら警備品質を維持することが課題となっています。こうした状況を受け、警察庁は2025年12月22日、「省力化投資促進プラン―警備業―」を公表しました。同プランでは、警備ロボットなどの導入だけでなく、配置シフト管理や労務管理、給与計算といった事務業務のシステム化も取り上げられています。
2026年10月21日には、警備会社の経営とDXをテーマにした「警備の未来フォーラム2026」が開催される予定です。警備業界でデジタル技術への関心が高まるなか、経営者や管理職には、自社の課題を把握したうえで、必要な仕組みを選ぶ視点が求められます。
本記事では、警察庁の公表資料や企業調査、フォーラムの開催情報をもとに、警備業のDXを取り巻く状況と、警備会社が導入を検討する際に確認したい実務上のポイントを解説します。
警備業の人手不足と省力化の方向性
警察庁が公表した「省力化投資促進プラン―警備業―」では、警備業の人手不足が深刻化している背景として、労働環境や賃金、警備員の高齢化などを挙げています。同プランに記載された2025年9月の有効求人倍率は、警備業が6.70倍、全職業が1.10倍でした。ただし、資料のグラフでは「保安職業従事者」の統計が使用されており、警備員だけの求人倍率を示すものではない点に注意が必要です。
また、2024年における65歳以上の労働者の割合は、警備業が34.3%、全職業が13.6%となっています。警備業では働く人のおよそ3人に1人が65歳以上という状況です。
施設警備や交通誘導警備、雑踏警備などでは、警備対象や現場の状況に応じて必要な人員や業務内容が異なります。単純に人員を減らすのではなく、必要な警備体制を維持しながら、限られた人員をどの業務に配置するかが重要になります。
2029年度までに労働生産性25%向上を目指す
警察庁の「省力化投資促進プラン―警備業―」では、警備業の労働生産性を2029年度までに2024年度比で25%向上させることを目指しています。これは今後の目標であり、すでに達成された実績ではありません。
同プランでは、警備業務そのものの省力化と、管理・事務業務のシステム化の両面から取り組みが示されています。
施設警備では、警備ロボット、バーチャル警備システム、警備ドローンなどの活用を用いた省力化が取り上げられており、配置人員の削減や労働災害の防止につながる可能性が示されています。
一方、管理業務では、警備員の労務管理、配置シフト管理、上番・下番報告管理、給与計算、債権債務業務などが示されています。
さらに、法定教育へのeラーニング導入についても2029年度までに導入事業者数約1,000業者を目指すとしており、同プランでは2025年11月末時点の導入事業者数を約313事業者と記載しています。
ただし、法定教育にeラーニングを活用する場合は、警備業法施行規則に定められた本人確認や受講状況の確認、質疑応答の機会の確保などの要件を満たす必要があります。
このように、警備業のDXは、AIやロボットといった新しい技術だけを指すものではありません。既存の業務を整理し、情報の記録や共有、管理にかかる手間を減らすことも、省力化に向けた取り組みとして位置づけられています。
管制・管理業務のDXと警備料金の課題

警備会社の省力化を考える際には、現場で行う警備業務だけでなく、日々の運営を支える管制・管理業務にも目を向ける必要があります。
警察庁のプランでは、警備業者の90%以上が警備員100人未満の中小企業であり、ITツールの導入が進んでいないことが課題として挙げられています。
こうしたなか、日常的に発生する管理業務の効率化は、中小規模の警備会社にとっても検討しやすい取り組みの一つです。
配置シフト・上番下番・給与計算の効率化
警備会社の管制業務では、現場ごとの勤務時間や必要な資格、警備員の勤務予定などを確認しながら配置シフトを作成する必要があります。欠員や配置変更が発生すれば、関係者への連絡や勤務情報の修正も必要です。
複数の現場を担当する場合、こうした確認や調整に時間がかかることも考えられます。
また、上番・下番報告を電話で受け付けている場合には、管制担当者が報告内容を確認し、必要に応じて記録する作業が発生します。警察庁のプランでは、報告をシステムで管理することによって、電話対応などの業務を省力化できる可能性が示されています。
給与計算や請求業務についても、勤務実績や契約情報を複数の台帳に入力している場合には、転記や照合作業が負担になっていないか確認する必要があります。
さらに、警備業法に基づく警備員名簿や教育の記録などをシステム化することで、人事管理システムなどとの連携や記載漏れ・誤記載の防止につながる可能性もあります。
ただし、システムを導入すれば、必ず作業時間が減るとは限りません。現在の業務手順や使用中のシステムとの関係によって、必要な機能や導入効果は異なります。まずは、どの業務にどれだけの時間がかかっているのか、どの段階で確認や修正が発生しているのかを把握することが重要です。
警備料金・人件費の課題とDXの関係
警備会社がDXを検討する際には、システムの機能だけでなく、導入費用や日々の運用コストを含めた経営面の確認も欠かせません。
警備会社向けシステム「警備フォース」を提供する株式会社メディカルフォース(現・アトミックソフトウェア株式会社)が2026年2月4日に公表した調査では、十分な対価を得られていると回答した割合は5.7%でした。一方、「やや不足している」「大幅に不足している」と回答した割合は合計40.9%でした。また、過去3年間に料金の値上げ交渉を実施していないとの回答は28.6%でした。
同調査は、2025年11月11日から13日まで実施されたインターネット調査で、有効回答数は105件です。調査対象には、警備業に加え、ビル施設管理・メンテナンス、設備工事・設備設計を行う企業の経営者や管理部門の担当者なども含まれています。そのため、結果を警備会社だけの実態や警備業界全体の傾向として捉えることには注意が必要です。
DXは、料金交渉の課題を直接解決するものではありません。しかし、業務にかかる時間や費用を把握し、管理業務の進め方を見直すことは、経営状況を整理するための取り組みの一つになります。システム化によって管理業務の負担を軽減できれば、限られた人員を教育、現場管理、顧客対応などへ振り向けることも考えられます。
導入を検討する場合は、こうした目的を明確にしておくことが大切です。
「警備の未来フォーラム2026」で経営とDXを考える

警備会社の経営とDXをテーマにした「警備の未来フォーラム2026」は、2026年10月21日(水)に東京都港区のビジョンセンター品川アネックスで開催される予定です。警備会社向け一元管理システム「警備フォース」を提供するアトミックソフトウェア株式会社が主催します。
危機管理・教育・AIなど5つのテーマで講演
公式の開催告知によると、危機管理、コミュニケーション、教育、AI、経営とDXをテーマにした講演が予定されています。基調講演には、元警察庁警備局長で株式会社国際危機管理機構代表取締役社長の金重凱之氏が登壇するほか、LINE WORKS株式会社や株式会社manebi、株式会社アジラなどが、それぞれの専門分野から警備業のDXについて紹介します。また、共催企業によるブース出展や情報交換の時間も設けられています。警備会社の経営者や管理部門の責任者などを対象としたイベントで、参加費は無料、事前申込制です。
開催概要
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| イベント名 | 警備の未来フォーラム2026 ― これからの警備会社の経営とDX |
| 開催日時 | 2026年10月21日(水)12:00~17:00(11:30開場) |
| 会場 | ビジョンセンター品川アネックス 1101 |
| 所在地 | 東京都港区高輪3-23-17 品川センタービルディング11階 |
| 主催 | アトミックソフトウェア株式会社(警備フォース) |
| 対象 | 警備会社の経営者、役員、管制・バックオフィス責任者 |
| 参加費 | 無料 |
| 申込方法 | 事前申込制 |
イベント参加時に確認したいこと
こうしたイベントは、警備業の経営やDXに関する情報を収集する機会の一つになります。
ただし、紹介される技術やサービスが、すべての警備会社に適しているとは限りません。機能の説明だけでなく、自社で課題となっている業務に対応できるか、現在使用しているシステムと連携できるか、導入後にどのような運用が必要になるのかを確認することが重要です。
また、出展企業に相談する際には、実際の利用場面や導入条件、費用、サポート体制などを具体的に確認すると、自社に合った仕組みを比較しやすくなります。
なお、開催日時やプログラムなどは変更される場合があります。参加を検討する場合は、公式のイベント案内ページで最新情報を確認してください。
警備会社がDXを進める前に確認したい4つのポイント
警備会社がDXを検討する際には、導入するシステムや機器を先に決めるのではなく、現在の業務を把握し、改善したい課題を明確にすることが重要です。ここでは、導入前に確認しておきたい4つのポイントを紹介します。
1.時間や手間がかかっている業務を洗い出す
まずは、配置表の作成、勤務予定の変更、上番・下番報告の確認、勤怠管理、給与計算、請求書の作成など、日常的に行っている業務を整理します。
その際、単に「時間がかかっている」と感じるだけでなく、可能な範囲で作業時間や確認回数、修正の発生件数などを記録すると、改善したい箇所が具体的になります。担当者によって作業方法が異なる場合には、どの手順に違いがあるのかを確認することも有効です。
業務を洗い出すことで、システム化を優先したい作業と、手順の見直しだけで対応できる作業を分けて考えやすくなります。新しいシステムの導入そのものを目的にせず、解決したい課題を明確にすることが出発点です。
2.導入費用と運用にかかる負担を比較する
システムや機器を導入する場合は、初期費用や月額料金だけでなく、導入時の設定、既存システムとの連携、担当者への教育、問い合わせ対応なども確認する必要があります。
また、導入によって削減できる可能性がある作業時間と、継続的に発生する費用を比較することも大切です。機能が多いシステムであっても、自社の業務で使用しない機能が多ければ、費用に見合うかどうかを慎重に判断する必要があります。
また、警察庁の省力化投資促進プランでは、警備業で活用を検討できる支援制度として、中小企業デジタル化・AI導入補助金や中小企業省力化投資補助金(一般型)、業務改善助成金などが紹介されています。システムや設備の導入を検討する際は、こうした制度も選択肢となります。ただし、対象事業者や補助対象経費、申請時期などは制度によって異なります。最新の公募要領を確認するとともに、補助金を利用できない場合も含めて費用を検討することが重要です。
3.現場の警備員や管理担当者が使える仕組みにする
システムを導入する際には、管理部門だけでなく、実際に利用する警備員や管制担当者の使いやすさも確認する必要があります。入力項目が多すぎないか、操作方法が分かりやすいか、現場で必要な情報を確認できるかなど、日々の運用を想定して検討しましょう。
また、導入後の問い合わせ先や、操作方法を学ぶための研修、トラブルが起きた際の対応方法も確認しておきたいポイントです。既存の業務手順を大きく変更する場合は、関係者に目的や変更点を説明し、必要な準備期間を確保することも重要です。
一度に全社へ導入することが難しい場合には、対象業務や利用する現場を限定して試行し、問題点を確認してから範囲を広げる方法も考えられます。ただし、具体的な進め方は、システムの仕様や現場の状況に応じて判断する必要があります。
4.導入前後の変化を確認する
導入後は、システムを使い始めたこと自体を成果とするのではなく、当初の課題が改善したかを確認することが重要です。
たとえば、配置表の作成にかかる時間、上番・下番報告の確認に要する時間、入力ミスや修正の件数など、導入前に把握した項目を継続して記録します。導入前後の数値を比較すれば、想定した効果が得られているか、運用方法を見直す必要があるかを判断する材料になります。
十分な改善が確認できない場合には、システムの機能が自社の業務に合っているか、操作方法や業務手順に問題がないかを再確認します。導入後も定期的に運用状況を見直すことが、継続的な業務改善につながります。
なお、これらの4点は、すべての警備会社に同じ方法が当てはまるという意味ではありません。施設警備、交通誘導警備、雑踏警備など、業務内容や会社の規模によって優先順位は変わります。自社の課題と運用条件に合わせて検討することが大切です。
まとめ|自社の課題を把握してDXを検討する
警備業のDXでは、警備ロボットやAIなどの新しい技術に加え、配置シフト管理、上番・下番報告、労務管理、給与計算、法定書類の管理といった日常業務の見直しも重要な検討対象になります。警察庁の「省力化投資促進プラン―警備業―」でも、こうした業務のシステム化や、労働生産性の向上が目標として掲げられています。
「警備の未来フォーラム2026」のようなイベントは、警備会社の経営やDXに関する情報を収集する機会の一つです。一方で、特定の技術やサービスを導入すれば、必ず業務効率化や経営改善が実現するわけではありません。
まずは、自社の業務のどこに時間や手間がかかっているのかを整理し、改善したい課題と目標を明確にしましょう。そのうえで、費用や運用負担、現場での使いやすさを比較し、導入後も効果を確認しながら改善を続けることが大切です。
DXを目的化せず、警備品質を維持しながら、限られた人員で業務を進めるための手段として検討することが、警備会社の実情に合った取り組みにつながります。
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※本記事は公開情報をもとに編集部が作成したものです。特定の企業の法的判断を示すものではありません。
参考・出典
- 警察庁「省力化投資促進プラン―警備業―」(2025年12月22日)
- 警察庁「警備業について」
- アトミックソフトウェア株式会社「警備フォース、『警備の未来フォーラム2026』を10月21日に開催」(2026年9月15日)
- 「警備の未来フォーラム2026―これからの警備会社の経営とDX」公式イベント案内ページ
- 株式会社メディカルフォース(現・アトミックソフトウェア株式会社)「警備費の充足を感じる企業はわずか5%。警備料金と賃金交渉に関する市場調査結果を『警備フォース』が発表」(2026年2月4日)