警備会社のDXは、システムを導入すれば完了するものではありません。
現場の隊員さんが使えるか。管制担当者が運用できるか。会社ごとの業務に合うか。そこまで考えて初めて、実務に根づく仕組みになります。
大阪を拠点に警備業を展開するアースセキュリティ株式会社では、KOMAINUの導入により管制業務を効率化し、さらにkintoneを組み合わせた業務改善を進めてきました。現在は、KOMAINUとkintoneをつなぐ警備業向けパッケージ「KOMAtone」の展開も進めています。
今回話を聞いたのは、同社のデジタル事業部でDX推進を担う中西さやか氏。
中西氏は、もともと警備員として現場に立った経験を持ち、電話連絡や上下番報告など、現場側の不便さも感じてきました。
なぜ警備会社がDXパッケージをつくるのか。
現場経験から見えた課題、システム導入を定着させる工夫、そしてKOMAtoneに込めた考えを聞きました。
- 「安定」を求めて飛び込んだ警備業。現場を知る中西氏が感じた業界の可能性
- 現場で感じた「今じゃないんだ」——電話・ショートメッセージ連絡の非効率
- KOMAINU導入で管制業務を効率化。年間1,095時間削減の先に見えたもの
- DXは「使わせる」だけでは進まない。隊員さん一人ひとりに説明した2カ月間
- 「隊員さんにkintoneを使わせる」のは諦めた。だからこそ進んだ現実的なDX
- KOMAtoneとは何か。KOMAINUとkintoneをつなぐ警備業向けパッケージ
- なぜセミオーダー型なのか。警備会社ごとの運用差に対応するために
- 契約書、備付書類、請求、給与まで。バックオフィス全体をつなぐDXへ
- DXで成果を出す会社と、定着しない会社の違い
- DXで空いた時間を、警備員の価値を高める仕事へ
- まとめ

「安定」を求めて飛び込んだ警備業。現場を知る中西氏が感じた業界の可能性
――警備業界に入られたきっかけを教えてください。
もともとはIT系、情報系の大学に通っていました。ただ、コロナ禍の影響もあり、大学を中退することとなりました。その後「何をしようかな」と考えていました。
一人暮らしをしていたので、まずは生活をしないといけない。仕事を探す中で、「面接に絶対に落ちない業種って何だろう」と考えたんです。
そのときに警備業にたどり着きました。すごく不純な理由で申し訳ないのですが、最初のきっかけはそういうものでした。
――警備業に入る前は、警備という仕事にどのようなイメージを持っていましたか。
表現が悪いかもしれませんが、「おじさんたちが赤い棒(誘導棒)を振って、一日中立っている仕事」というイメージでした。
ただ、実際に警備員になる前に新任教育を受けて、警備業がどういうものなのか、もともとどういう成り立ちなのかを学びました。そこから、少しずつ見え方が変わっていきました。
実際に現場に出てみると、通行人の方や車に乗っている方と接する場面も多く、サービス業としての面がすごく大きいと感じました。最初に持っていたイメージとは違って、もっとフレッシュさも求められる仕事なのではないかと思いました。
――現場に立つ中で、やりがいや面白さを感じる場面はありましたか。
やりがいというほど大きなことではないかもしれませんが、警備員をしている中で面白さはありました。
私は女性の警備員ということもあって珍しかったのか、いろいろな方に声をかけていただくことがありました。車を誘導したときに、女性のお客様から「お姉ちゃん最高!」と言っていただいたこともあって、それはすごくうれしくて印象に残っています。
現場では、そういった通行人の方とのコミュニケーションもあり、今日は楽しかったなと思える瞬間もありました。
現場で感じた「今じゃないんだ」——電話・ショートメッセージ連絡の非効率
――警備員として働いていた当時、効率化できるのではないかと感じたことはありましたか。
警備員として仕事に行くときは、管制担当者から「明日の現場はここですよ」といった連絡を、電話やショートメッセージでいただくことがありました。
ただ、現場に立っているときは、電話に出られないタイミングもあります。そういうときに連絡が来ると、「今じゃないんだ」と感じることはありました。
――配置確認や上下番報告も、基本的には電話だったのでしょうか。
そうですね。電話で行うことが多かったです。
煩わしさはありました。ただ、現場の隊員として働いている立場では、会社の内情を知っているわけではありません。社内の事情を知らないまま意見するのは違うなと思っていたので、当時は特に指摘することはありませんでした。
――現場経験は、その後のシステム化にどう生きていますか。
現場に出ていたことで、実際の隊員さんたちがどういう人たちなのか、なんとなく分かっていました。
運用を変えていくときのハードルの解像度は、自分の中に持てていたと思います。
「これをすると隊員さんは嫌がるだろうな」とか、「そこをどう突破するか」といったことは、現場経験があったからこそ考えられた部分だと思います。
まったく現場を知らない状態で改善しようとすると、現場の温度感や、隊員さんが一日どういう流れで動いているのかなど、キャッチしなければいけない情報がとても多いと思います。そこは、自分の経験があったので理解しやすかったです。
KOMAINU導入で管制業務を効率化。年間1,095時間削減の先に見えたもの
――KOMAINU導入前は、どのように管制業務を行っていたのでしょうか。
もともとは、ホワイトボードで隊員さんの配置を管理していました。
1日ごとに、どの隊員さんをどこの現場に配置するかをホワイトボードに書いていました。配置が確定すると、ホワイトボード全体を写真で撮影して、その写真を見ながら事務員がシステムへ手入力する、という流れでした。
この転記作業だけでも年間600時間以上かかっていました。

出典|アースセキュリティ社_ご提供資料より
――KOMAINUを導入したことで、どのような変化がありましたか。
KOMAINUを導入したことで、配置や上下番, 報告書などの管理が一元化され、管制業務は大きく効率化されました。
電話連絡の削減も含めると、KOMAINUによる管制まわりの削減効果は年間1,095時間ほどになっています。
さらに、KOMAINUとkintoneを組み合わせた全体で見ると、年間約1,500時間の削減につながっています。
DXは「使わせる」だけでは進まない。隊員さん一人ひとりに説明した2カ月間
――システム導入時、 現場や管制担当者の反応はいかがでしたか。
管制担当者の中には、やはり「難しいことが始まるな」という抵抗感はありました。
管制側は比較的すんなり進んだと思いますが、どちらかというと、隊員さんの方が高齢の方も多かったので、切り替えに対して最初から「嫌だな」という空気はありました。
――隊員さんに使ってもらうために、どのような工夫をされたのでしょうか。
隊員さん一人ひとりに説明会を行いました。
長く勤めているコアな隊員さんだけではなく、全員に対して一人ずつ説明をしました。当時は150人ほど隊員さんがいたと思いますが、全員に説明しきるまで、2カ月ほどかかりました。
――一人ひとりに説明するのは、かなり手間がかかる取り組みですね。
そうですね。ただ、それをしないと、急にシステムを入れて「今日から使ってください」と言っても、「何をしてくれているんだ」となってしまうと思ったんです。
昔ながらのやり方に慣れている方ほど、抵抗感は大きかったです。そこをどう理解してもらうか、一人ひとりに寄り添って、直接話して伝えることを大切にしました。
――現在は、隊員さんも問題なく使えているのでしょうか。
今では、ほとんどの隊員さんがしっかり活用してくれています。
一部、細かいコミュニケーションについては、電話で話さなければいけない部分もあります。ただ、それも含めて運用できているので、今では自然な形になっていると思います。
最初は嫌だなと思っていた方たちも、今ではそれが当たり前の状態になっています。
「隊員さんにkintoneを使わせる」のは諦めた。だからこそ進んだ現実的なDX
――KOMAINUとkintoneは、どのような順番で導入されたのでしょうか。
計画としては、最初から両方を入れる前提でした。
ただ、管制担当者や隊員さんに慣れてもらうために、まずはKOMAINUを先に入れて、その後にkintoneを入れるという流れにしました。
――隊員さんにkintoneを使ってもらうのは難しいと判断されたと伺いました。どのような背景があったのでしょうか。
DXや組織改革は、人間同士のぶつかり合いのようなものが避けられないと思っています。それは隊員さんたちにとっても、私たちDX担当者にとっても、精神的にすり減る作業です。
私はあまり隊員さんに強く言えるタイプではないので、なるべく対立を避けた方が、少しは前に進むのではないかと考えました。
KOMAINUのアプリを入れてもらうときにも、隊員さんによってスマートフォンの理解度にはかなり差がありました。そもそもアプリの入れ方が分からない方、メールが分からない方もいました。
その状態で、さらにkintoneまで使ってもらうのは難しいだろうと思いました。
挑戦する前に諦めた、という言い方になるかもしれません。
――それは後ろ向きな諦めではなく、現実的に進めるための判断だったということですね。
そうですね。全部を一気に変えようとすると、現場にも負担がかかります。
現場の隊員さんにはKOMAINUを使ってもらい、kintoneはバックオフィスや管理業務側で使う。そうやって役割を分けることで、無理なく進められると考えました。
KOMAtoneとは何か。KOMAINUとkintoneをつなぐ警備業向けパッケージ
――現在展開を進めているKOMAtoneについて、どのようなソリューションなのか教えてください。
KOMAtoneは、警備業クラウド業務システム「KOMAINU」を基点に、「kintone」をデータハブにし、業務を効率化する絵警備会社のための連携プラグインのパッケージです。
サイボウズさんは、「kintone」を、ジャガーノートさんは、「KOMAINU」を提供しています。
アースセキュリティは、警備業向けのお客様に対して、KOMAtoneの開発や伴走支援、導入支援を行う立ち位置になります。

出典|アースセキュリティ社_ご提供資料より
なぜセミオーダー型なのか。警備会社ごとの運用差に対応するために
――KOMAtoneでは「セミオーダー型」という言葉を使われています。なぜ完全なパッケージではなく、セミオーダー型なのでしょうか。
kintoneは、ゼロからアプリを作れることが良さとして語られることも多いと思います。
ただ、警備業向けのアプリパッケージがあることで、「すぐ使える」「簡単に導入できる」部分があります。さらに、それを自社に合わせてカスタマイズできるのが、kintoneの良いところだと思っています。
KOMAtoneでは、警備業向けのパッケージを用意しつつ、それぞれの会社に合わせて調整できる形にしたいと考えています。
――警備会社ごとの文化や運用に合わせる必要があるということでしょうか。
そうですね。よくあるDXの指南書のような本では、「今の運用は捨てて、新しくシステムに合わせて作り変えましょう」といったことが書かれていると思います。
ただ、会社の文化やもともとの業務の流れを一新するのは、かなり気合いも体力も必要です。現実的ではないときもあります。
そこで、kintoneを緩衝材にするという考え方が、私はすごく好きです。
現場に合わせて作っていけるkintoneの良さを、もっと警備業向けに発信していければと考えています。
契約書、備付書類、請求、給与まで。バックオフィス全体をつなぐDXへ
――KOMAtoneでは、具体的にどのような業務を対象にしているのでしょうか。
KOMAtoneで扱う業務は、大きく2つに分かれます。
一つは、KOMAINUと連携して使う業務です。案件管理、従業員管理、稼働管理などは、KOMAINUのデータとつなげて管理できます。
もう一つは、kintone上で管理する業務です。契約書管理、請求書管理、支払管理、指導実施簿、苦情処理簿、作業員名簿管理、装備品管理など、警備会社のバックオフィスで発生する業務を対象にしています。
KOMAINUが管制業務の中心を担うとすると、KOMAtoneは、その周辺にある書類管理や請求、給与・支払集計などをつなげる役割です。
――KOMAINUとkintoneは、どのように連携するのでしょうか。
基本的には、取引先、従業員、案件といったマスターデータや、KOMAINU側のシフトデータをkintoneに取り込む形です。
たとえば、稼働管理は、KOMAINUから稼働データを取り込み、日報データと紐づけることで確認作業を効率化できます。さらに、請求や支払に必要な情報を入力し、請求書作成や給与・支払集計につなげることもできます。
――請求や給与管理もできるのでしょうか。
警備業では、1つの稼働に対して、顧客への請求と隊員さんへの給与・支払が発生します。
KOMAtoneでは、稼働データをもとに請求や支払の情報を集計し、請求書や支払明細書などの帳票を作成できます。外部の給与計算システムや会計システムとの連携も想定しています。
警備業では、顧客指定の請求書フォーマットや独自の手当など、会社ごと・顧客ごとに細かな運用差があります。汎用的な請求書ツールでは対応しきれない場合があるため、kintone上で自社に合わせて調整できることが重要になるかなと考えています。
――契約書や備付書類の管理も対象になるのでしょうか。
警備業法に対応した契約書や前後書面を管理もできます。契約書データをもとに前書面・後書面をExcelで出力できるほか、備付書類として不足がないかを確認する仕組みもあります。
また、指導実施簿や苦情処理簿についても、警備業法対応の書式でPDF出力できるアプリが用意されています。
備会社では、現場の配置や稼働だけでなく、契約書、前後書面、指導実施簿、苦情処理簿、作業員名簿など、多くの書類管理が発生します。KOMAtoneは、こうしたバックオフィス業務をkintone上でつなぎ、確認漏れや転記作業を減らすことを目指しています。
DXで成果を出す会社と、定着しない会社の違い
――DXで成果が出る会社と、なかなか定着しない会社の違いはどこにあると思いますか。
少し難しいですが、私の主観で言うと「気合い」だと思っています。
ただ、精神論だけではなく、諦めないことが大切だと思います。
諦めることを前提に、それでも前に進む気合いです。
年配の方でも、取り入れてやっていこうという気持ちが最終的にあったから、今に至っていると思います。こちら側も根気よく説明したり、情報を伝えたりすることを続けることが大事ですね。
――Excelや紙の管理が多くて困っている会社には、KOMAtoneは向いていそうですね。
そうですね。Excelが多すぎて困っている会社さんには、KOMAtoneはかなり合うのではないかと思います。
警備業には備付書類がたくさんあります。それらの運用をきちんと考えると、Excelだらけになってしまうのは仕方ない部分もありますが、そこをKOMAtoneで何とかできればと考えています。
DXで空いた時間を、警備員の価値を高める仕事へ
――今後の警備業界について、どのように見ていますか。
機械警備や自動運転の発展によって、警備業の需要がだんだん減っていくのではないかと言われることもあると思います。ただ、人間が出せるホスピタリティの価値は、まだまだ機械やAIには代替できないと思っています。
その価値を最大化できるように、KOMAtoneなどを使ってバックオフィスを強化していければと考えています。
――警備員の仕事には、人にしかできない価値があるということですね。
警備員として現場に立っていたときも、人から声をかけてもらったり、褒めてもらったりすることがありました。
そういった人の温かみは、機械ではなかなか出せない部分だと思います。
そこは大事にしていかなければいけないですし、それが警備の仕事のやりがいにもつながっていると思います。
――最後に、紙・Excel・電話中心の業務に課題を感じている警備会社へメッセージをお願いします。
警備業界は、どうしても古い運用が残りやすい業界だと思います。
ただ、高齢の隊員さんが多いからといって、最初から無理だと決めつける必要はないと思います。一人ひとりに寄り添って説明し、根気よく続ければ、定着することもあります。
すべてを一気に変える必要はありません。できるところから変えていくことが大切です。
KOMAtoneを通じて、警備会社のバックオフィスを強化し、人にしかできない警備の価値をもっと高めていければと考えています。
▼KOMAtoneに関するお問い合わせはこちらまで
アースセキュリティ株式会社
デジタル事業部
Tel : 06-6355-4195
E-mail : kintone-info@earth-security.co.jp
まとめ
警備会社のDXは、単にシステムを導入するだけでは進みません。
現場の隊員さんがどう働いているのか、何に不安を感じるのか、どこまでなら無理なく変えられるのか。そこを理解したうえで、実務に合う形へ落とし込む必要があります。
アースセキュリティ社の取り組みは、現場経験を持つ担当者が、警備会社の実務に向き合いながら進めてきたDXの一例です。
KOMAINUによる管制業務の効率化から、kintoneを活用したバックオフィス改善、そしてKOMAtone構想へ。
その流れは、紙・ホワイトボード・電話・Excelに課題を感じる警備会社にとって、次の一歩を考えるヒントになりそうです。
警備NEXT(警備ネクスト)では、今後も警備業界の現場に根ざしたDXや業務改善の取り組みを取材し、警備会社の経営・管理・現場運営に役立つ情報を発信していきます。