防犯カメラの映像をAIで解析する「AI警備」は、施設警備の業務効率化にどこまで役立つのでしょうか。
施設警備では、モニター監視や館内巡回、出入管理、異常発生時の対応など、警備員がさまざまな業務を担っています。人手不足や高齢化が続くなか、限られた人数で警備品質を維持するには、日々の業務を効率化する取り組みも欠かせません。
こうした課題に対応する技術の一つが、AIを活用した映像解析です。株式会社アジラが提供するAI警備システム「AI Security asilla(アジラ)」は、2026年8月のVer5.0へのアップデートで、周囲の状況を踏まえた通知判断を強化しました。車両や自転車の検知機能も正式版となり、館内だけでなく駐車場や敷地外周の監視にも対応しています。
本記事では、asillaの機能を例に、AI警備が施設警備のモニター監視や巡回、初動対応にどう役立つのかを紹介します。あわせて、警備DXを進めるうえでの課題や、導入前に確認しておきたい5つのポイントを解説します。
施設警備のDXが求められる背景
警備員の人数が増えても、高齢化への対応は続く
大型商業施設やオフィスビルなどでは、警備員が防災センターで複数のカメラ映像を確認しながら、館内巡回や出入管理などの業務にも対応しています。駐車場や建物の外周まで含めると、警備員が監視・確認する範囲はさらに広がります。

警察庁「令和7年における警備業の概況」によると、2025年12月末時点の警備員数は59万6,985人で、前年より9,137人増加しました。一方、60歳以上の警備員は全体の47.3%を占めています。
警備員数は増えているものの、高齢化への対応は引き続き業界の課題です。今後は人員の確保に加え、警備員の負担を減らしながら安全を維持できる業務体制づくりが求められます。
AIが異常を検知しても、警備員の仕事は終わらない

AI警備システムは、防犯カメラの映像から転倒や侵入、不審な行動などを検知し、警備員へ通知する仕組みです。モニターを常に確認する負担を減らす手段として期待されています。しかし、AIが異常を検知したからといって、すべての通知に現場対応が必要なわけではありません。
例えば、床に人が横たわっている場合でも、転倒事故なのか、清掃や設備点検の作業中なのかによって対応は異なります。警備員は通知された映像を確認し、必要に応じて現場へ向かったり、関係者へ連絡したりしなければなりません。AIからの通知が多すぎると、確認作業がかえって負担になる可能性もあります。そのため、AI警備では異常を検知する性能だけでなく、警備員が対応すべき事象を適切に知らせられるかも重要になります。
AI警備で何ができる?asilla Ver5.0に見る3つの機能
asillaは、既存の防犯カメラ映像をAIで解析し、転倒や暴力、侵入などの異常行動を検知するシステムです。開発元のアジラによると、2022年の提供開始以来、2026年8月の発表時点で国内外およそ250施設に導入されています。
2026年8月19日にリリースされたVer5.0では、AIによる通知判断の高度化と、監視対象の拡大が図られました。ここでは、今回のアップデートで強化された機能と、従来から備わっている設備連携について紹介します。
① 防犯特化型VLMで、周囲の状況も踏まえて判断
第一の特徴は、防犯特化型VLM「AsillaVision」を活用し、異常を検知した際の通知判断を高度化したことです。VLM(Vision-Language Model)とは、画像や映像などの視覚情報と言語情報を関連付けて処理するAIモデルです。asillaでは、従来の行動認識AIが人物の動きなどから異常を検知し、AsillaVisionが周囲の状況も踏まえて、警備員へ通知すべきかを判断します。
例えば、次のような場面での活用が想定されています。
- 転倒検知: 床に横たわっている人物について、転倒事故なのか、休憩や作業中なのかを見極める
- エスカレーター周辺: 乗降部に人が留まっている場合、トラブルが起きているのか、清掃作業中なのかを見極める
これにより、警備員が確認する必要のない通知を減らし、対応が必要な事象を把握しやすくすることを目指しています。アジラによると、2026年3月から5月に実施した転倒・喧嘩を対象とする検証では、先行導入先の運用データと自社検証に基づき、従来手法と比較して検知精度が最大約8割向上したとしています。
ただし、検証対象は限られており、すべての検知項目や施設で同様の効果が得られることを示すものではありません。精度の評価指標や比較条件の詳細も、公表資料からは確認できません。また、AsillaVisionは施設内のサーバーで動作し、映像を施設外へ送信せずに解析できる仕組みと説明されています。
② 車両・自転車検知の正式提供で、屋外の監視にも対応
第二の特徴は、車両や自転車を検知する機能が正式に提供されたことです。2026年5月に試験的な提供が始まり、同年8月のVer5.0で正式版となりました。車両の進入や長時間停車、自転車の駐輪や長時間放置などを検知できます。
例えば、営業時間外に敷地へ入ってきた車両や、駐車禁止区域に長時間停車している車両、放置された自転車などを把握する際に役立ちます。これにより、従来の主な対象だった館内の人物に加え、駐車場や駐輪場、敷地外周もAIによる監視の対象となりました。
施設警備では、館内と駐車場の巡回を同じ警備員が担当することもあります。AIで屋外の異常を検知できれば、こうした確認業務を補完する手段になります。ただし、検知精度はカメラの設置位置や撮影環境によって異なるため、導入前には施設ごとの検証が必要です。
③既存設備との連携で、異常検知から初動対応までを支援
第三の特徴は、AIが検知した異常を警備員への通知や設備の作動につなげられることです。asillaには、インカムやスピーカー、パトランプ、シャッターなどとの連携機能がすでに備わっています。
例えば、AIが異常を検知した際にインカムで警備員へ知らせたり、スピーカーを通じて現場に注意を促したりする運用が考えられます。これらはVer5.0で新たに追加された機能ではありません。今回のアップデートで通知判断の高度化や検知対象の拡大が図られたことで、既存の設備連携をより幅広い場面で活用できる構成となりました。
ただし、設備との連携によって、警備員による現場確認が不要になるわけではありません。特にシャッターなどを作動させる場合は、施設の安全性や運用ルールを踏まえ、作動条件をあらかじめ決めておく必要があります。
AI警備は施設警備の業務効率化にどう役立つ?
AI警備の機能が高度化しても、実際に警備員の負担が減るかどうかは、施設の環境や運用方法によって異なります。警備会社が導入を検討する際には、システムの性能だけでなく、日々の警備業務がどう変わるのかを確認することが重要です。
モニター監視では「通知の質」が業務負担を左右する
防犯カメラの監視業務では、異常が発生していない時間帯も含め、警備員が複数の映像を確認しています。AI警備は、こうした常時監視の負担を減らす手段として期待されています。一方で、AIが頻繁に通知を出せば、その確認作業に多くの時間を取られる可能性があります。
例えば、清掃作業中の人物を転倒事故と誤認する通知が減れば、警備員は実際に対応が必要な事象の確認に時間を充てられます。AsillaVisionのように周囲の状況も踏まえて通知を判断する機能は、こうした負担の軽減につながる可能性があります。ただし、通知を減らすことだけが目的になると、本来対応すべき異常を見逃すおそれがあります。
導入後は、通知件数や誤検知の減少だけでなく、実際に発生した異常をどの程度検知できたかも確認することが大切です。
巡回業務の効率化には、施設ごとの検証が必要
駐車場や敷地外周もAIの監視対象となることで、警備員が現場の状況を把握する方法も変わる可能性があります。
例えば、商業施設では駐車場や駐輪場を定期的に巡回し、不審車両や放置自転車などを確認する業務があります。AIがこうした異常を検知できれば、警備員は通知された場所を優先して確認するなど、巡回時の判断に役立てられます。
一方、巡回には施錠状況の確認や設備点検、カメラの死角の確認など、現地でなければ対応できない業務もあります。そのため、AIを導入したからといって巡回回数を一律に減らすのではなく、どの業務をAIで補完できるのか、施設のリスクや警備契約の内容を踏まえて検討する必要があります。
AI警備の検知精度は?東京都の実証実験からわかること
AI警備の導入を検討する際は、メーカーが公表する性能データに加え、どのような環境で検証された数値なのかを確認することも大切です。東京都の「KING SALMON PROJECT」では、asillaを使った実証実験が行われました。
2026年3月に完了した実証では、「はたらく女性スクエア」に防犯カメラ5台を設置し、施設運営中の異常検知や、異常行動を再現したデモによる検知精度を検証しています。デモ実証では、転倒、侵入、ライン通過、滞留、混雑、ふらつき、軽度の喧嘩・暴力の7項目すべてで、正検知率100%という結果が報告されました。
ただし、この数値は特定の異常行動を再現したデモでの結果であり、実際の施設運用で同じ精度が得られるとは限りません。また、実証はVer5.0のリリース前に行われたものです。誤検知についても東京都の資料に記載がありますが、評価条件や数値の単位に不明確な点があるため、性能を比較する際には注意が必要です。
警備会社が導入を検討する際は、こうした公表データを参考にしながら、実際の施設のカメラ配置や照明、監視対象に合った検証を行うことが重要です。
AI警備導入で警備会社が確認すべき5つのポイント
AI警備を導入する際は、検知精度や機能の多さだけで判断せず、実際の警備業務に合っているかを確認する必要があります。施設によって警備員の配置人数や巡回方法、カメラの設置状況、警備契約の内容は異なります。
導入前に確認したい5つのポイントを整理しました。
① 既存の防犯カメラや設備と連携できるか

asillaは既存の防犯カメラ映像を活用できるシステムですが、すべての機器に無条件で対応できるわけではありません。導入前には、カメラの仕様や映像の取得方法、ネットワーク環境、サーバーの設置条件などを確認しましょう。
インカムやシャッターなどとの連携を検討する場合も、対応機種や接続条件、追加工事の有無を確認する必要があります。既存設備を活用できれば初期費用を抑えられる可能性がありますが、システムの導入や設定に必要な費用も含めて検討することが大切です。
② 誤検知と見逃しをどのように評価するか
AI警備の導入効果を確認するには、通知の件数だけでなく、その内容や警備員の対応状況も把握する必要があります。例えば、導入前後で次の項目を比較する方法があります。
| 評価項目 | 確認内容 |
|---|---|
| 通知件数 | 1日当たりのAI通知数 |
| 誤検知件数 | 異常ではない事象を誤って異常として検知した件数 |
| 対応不要通知件数 | 通知内容の確認後、現場対応が不要と判断された件数 |
| 見逃し件数 | 実際に発生した検知対象の異常を検知できなかった件数 |
| 通知確認時間 | 通知内容の確認に要した時間 |
| 初動対応時間 | 通知から現場での対応開始までに要した時間 |
こうした数値を記録すれば、AI導入によってどの業務が改善されたのかを判断しやすくなります。なお、見逃し件数の評価には、確認可能な実際の事象記録や安全に実施できる検証が必要です。
③ AIの検知後、誰が対応するのか
AIが異常を検知しても、その後の判断や対応は警備員の役割として残ります。そのため、通知を受けた際に誰が映像を確認し、どのような場合に現場へ向かうのか、あらかじめ手順を決めておくことが大切です。
例えば、転倒の疑いがある通知を受けた場合、映像を確認する担当者、現場へ向かう警備員、施設管理者への連絡基準などを整理しておきます。
設備連携を行う場合は、誤った作動が事故や避難の妨げにつながらないよう、制御条件や手動操作への切り替え方法も確認しましょう。AIの導入に合わせて警備実施手順を見直すことで、検知した情報を現場対応に生かしやすくなります。
④ 導入費用に見合う業務改善が期待できるか
AI警備の導入を判断するうえでは、費用対効果の確認も欠かせません。費用を見積もる際は、システム利用料に加え、初期設定や設備連携、保守、警備員への操作教育なども含めて考える必要があります。一方、導入効果はモニター監視や通知確認にかかる時間、巡回業務の変化、異常発生時の初動対応時間などから評価できます。
例えば、AIの活用によって通知確認の作業が1日30分短縮された場合、30日間では15時間の業務時間に相当します。ただし、作業時間が短縮されても、そのまま人件費を削減できるとは限りません。空いた時間を別の警備業務に充てることも考えられます。
また、警備員の配置人数を見直す際は、警備契約で定められた条件や、施設の安全管理に必要な人数を確認する必要があります。
⑤ 映像データの管理と個人情報保護に問題はないか
AI警備では、防犯カメラに映った人物の映像を解析します。そのため、映像データをどのように管理するかも重要な確認事項です。個人情報保護委員会は、防犯カメラで特定の個人を識別できる映像を取得する場合、個人情報保護法に沿った取り扱いが必要であることを示しています。
防犯カメラの設置・利用にあたっては、映像の利用目的をできる限り特定し、その目的の範囲内で利用することが原則です。また、利用者がカメラによる撮影を容易に認識できない場合には、撮影していることを知らせる措置が必要です。例えば、施設の入口やカメラの設置場所に、防犯カメラが作動中であることを掲示する方法があります。
カメラの外観や設置状況から撮影されていることが明らかな場合でも、掲示などによって利用者が撮影を認識しやすくすることが望ましいとされています。なお、防犯目的であることが明らかな場合など、利用目的の通知・公表が不要となるケースもあります。撮影についての周知と利用目的の通知・公表は、区別して考える必要があります。
asillaのAsillaVisionについては、施設内のサーバーで映像を解析できると説明されています。導入前には、映像の利用目的や保存期間、閲覧権限、データの安全管理、施設利用者への周知方法などを施設管理者と確認しておきましょう。
AI警備による施設警備DXは、業務の見直しから
AI警備は、防犯カメラによる異常検知だけでなく、通知の判断や既存設備との連携を通じて、警備員の業務を補完する技術へと発展しています。
asilla Ver5.0では、防犯特化型VLM「AsillaVision」を活用した通知判断の高度化に加え、車両・自転車検知の正式提供によって、屋外の警備業務にも活用の幅が広がりました。こうした技術を施設警備のDXにつなげるうえで、押さえておきたい点は次の3つです。
- モニター監視: 対応が必要な事象を適切に通知することで、警備員の確認負担を減らす可能性がある
- 巡回業務: 駐車場や敷地外周などの異常検知を通じて、屋外の確認業務を補完できる
- 初動対応: AIによる検知を警備員への通知や既存設備との連携につなげ、現場対応を支援できる
警備会社の経営者や管理職は、まず現在のモニター監視や巡回、通知確認にどの程度の時間がかかっているかを把握することが大切です。そのうえで、AIに任せられる業務と、警備員が引き続き担当する業務を整理していきましょう。AI警備の目的は、警備員の仕事をすべて置き換えることではなく、警備員が必要な判断や対応に集中できる環境をつくることです。システムの性能だけでなく、現場の運用方法や警備契約との整合性も確認しながら導入を進めることが、施設警備のDXにつながります。
警備NEXT(警備ネクスト)では、警備業界の最新動向と実務に役立つ情報を継続的に発信しています。
※本記事は公開情報をもとに編集部が作成したものであり、個別の施設や企業に対する法的判断を示すものではありません。
参考・出典
- 株式会社アジラ「AI Security asilla、施設警備を『検知』から『対応』までつなぐプラットフォームへ」2026年8月27日発表(Ver5.0リリース:8月19日)
- 株式会社アジラ「AI警備システム『AI Security asilla』に『車両検知』『自転車検知』機能を実装」(2026年5月22日発表、Ver4.4リリース:同年5月18日)
- 警察庁「令和7年における警備業の概況」(2025年末時点の統計)
- 東京都「KING SALMON PROJECT 株式会社アジラ 実証実験最終報告」(2026年3月完了)
- 個人情報保護委員会「『個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン』に関するQ&A」Q1-13(2023年5月追加)