外国人警備員を受け入れる際、現場での安全教育をどのように進めればよいのでしょうか。
交通誘導警備では、車両や歩行者の動きを確認しながら、安全な立ち位置や誘導方法を判断する必要があります。日本語で日常会話ができても、交通ルールや警備業務特有の合図、緊急時の指示を正しく理解できるとは限りません。
2026年10月6日、日本自動車連盟(JAF)は、北海道や北海道警察と連携し、外国人技能実習生を対象とした交通安全講習の開催を発表しました。警備員向けの講習ではありませんが、VRによる危険予知体験や実車を使った死角体験などは、警備会社が安全教育の方法を考えるうえでも参考になります。
本記事では、JAFの取り組みを紹介するとともに、外国人警備員の安全教育で注意したい課題や、交通ルール・危険予知の指導方法、現場配置前に確認すべきポイントを解説します。
外国人警備員の受け入れに向けた動きと安全教育の課題
警備業界では、人手不足への対応として、外国人材の受け入れに関する議論が進められています。警察庁は「警備業への外国人材の受入れに関する検討会」を設置し、警備業を特定技能制度や育成就労制度の対象とすることの是非や、対象となった場合の受け入れ方法について検討しています。
ただし、検討会が設置されたことは、両制度による警備員の受け入れが認められたことを意味するものではありません。外国人材の受け入れを考える際には、在留資格などの就労条件に加え、警備業務に必要な知識や技能、安全を確保するための教育体制を整えることが重要です。
外国人を警備員として採用する際の在留資格と就労条件
外国人を警備員として採用する際には、まず在留資格と就労可能な業務の範囲を確認する必要があります。
外国人であること自体は、警備員として働くことを妨げる理由にはなりません。ただし、日本人と同様に警備業法上の欠格事由に該当しないことに加え、在留資格に応じた就労条件を満たす必要があります。
例えば、「永住者」「日本人の配偶者等」「永住者の配偶者等」「定住者」は、原則として就労活動の制限がありません。一方、在留資格によっては、従事できる業務や就労時間に制限があります。また、今回紹介するJAFの講習は外国人技能実習生を対象としていますが、技能実習生であれば警備員として採用できるという意味ではありません。安全教育を検討する前提として、対象者が警備業務に従事できる在留資格を持っているか確認する必要があります。
出典:厚生労働省「外国人を雇い入れる際の就労資格の確認」

厚生労働省によると、2025年10月末時点の外国人労働者数は257万1,037人で、前年から11.7%増加しました。ただし、これは全産業の数字であり、警備業界の外国人警備員数を示すものではありません。
外国人材への安全教育の参考となる取り組みとして、JAF札幌支部は2026年10月6日、北海道、北海道警察と連携した交通安全講習の開催を発表しました。10月7日に予定された講習では、北海道小樽市の札幌トヨタ自動車トレーニングセンターで、ミャンマー出身の技能実習生8人を対象に、交通安全に関する座学、自転車シミュレーター、VRによる危険予知体験、実車を使った死角体験などを行う計画が示されていました。この講習は警備員向けではありませんが、視覚的な教材や体験を通じて危険を学ぶ方法は、交通誘導警備の教育を考えるうえでも参考になります。
JAFの交通安全講習に見る体験型教育の重要性
今回の講習で注目したいのは、交通上の危険を言葉で説明するだけでなく、実際に見たり、体験したりする学習方法が盛り込まれていた点です。
例えば、大型車両の死角について説明する場合、「運転席から見えない場所がある」と伝えるだけでは、その範囲や危険性を具体的にイメージしにくいことがあります。車両の周囲を撮影した映像や運転席からの視界を確認すれば、車両の近くに立つことの危険性をより具体的に考えるきっかけになります。交通誘導警備でも、工事車両の出入りや歩行者の通行、交差点での誘導など、周囲の状況を踏まえた判断が求められます。JAFの講習は警備業務を対象としたものではありませんが、写真や動画、体験型の教材を活用する考え方は、警備員の安全教育にも応用できるでしょう。
外国人警備員の安全教育で確認したい3つのポイント
外国人警備員への教育では、日本語能力だけでなく、日本の交通環境や警備業務に関する知識、現場での安全行動を確認する必要があります。特に交通誘導警備では、次の3つの観点が重要です。
1. 日本の交通ルールや警備員の役割を理解できているか
交通誘導警備では、道路標識や信号、車両・歩行者の通行に関する基本的な交通ルールを理解しておく必要があります。海外で運転や道路の通行に慣れている人でも、日本の道路環境や交通ルールをすべて理解しているとは限りません。教育では、信号の意味や道路標識の見方だけでなく、歩行者や自転車がどのように通行するか、工事現場の周辺では何に注意すべきかなども確認します。また、交通誘導警備では、警備員による誘導と警察官による交通規制の違いを理解することも重要です。
警備員には、警察官と同じ法的な交通規制権限がありません。そのため、警備員の合図に従わない車両があった場合も、無理に停止させようとせず、周囲の安全確保や現場責任者への連絡など、状況に応じた対応を取る必要があります。交通ルールそのものと、警備員としてできること・できないことを分けて教えることが大切です。
2. 専門用語や緊急時の指示が伝わるか
警備現場では、日常会話ではあまり使わない言葉が頻繁に登場します。
例えば、「徐行」「退避」「片側交互通行」「車両接近」といった言葉です。これらの意味が曖昧なままでは、現場責任者の指示を理解するまでに時間がかかったり、意図とは異なる行動を取ったりするおそれがあります。特に騒音のある工事現場や、複数の警備員が無線で連絡を取り合う現場では、短い指示で状況を理解しなければならない場面もあります。教育担当者は、専門用語を説明するだけでなく、実際の行動と結び付けて教えることが重要です。
| 現場で使う言葉 | 教育で確認したいこと |
|---|---|
| 徐行 | 車両が直ちに停止できるような速度で進むことを理解しているか |
| 退避 | 危険を避けるため、どこへ移動するか分かるか |
| 片側交互通行 | 交通規制の方法と自分の担当する役割を理解しているか |
| 車両接近 | 車両が近づいた際に何を確認し、どう行動するか |
| 緊急連絡 | 誰に、どのような情報を伝える必要があるか |
日本語の意味を覚えたかどうかだけでなく、指示を受けた際に正しい行動を取れるかまで確認しましょう。
3. 車両や歩行者の動きから危険を予測できるか
交通誘導警備では、目の前の状況を確認するだけでなく、次にどのような危険が起こり得るかを考える力も求められます。
例えば、大型車両が左折する際には内輪差による巻き込みの危険があります。工事車両が出入りする場所では、車両の死角に歩行者や自転車が入る可能性もあります。こうした危険は、交通ルールや専門用語を理解するだけでは十分に対応できません。教育では、実際の現場を想定しながら、どのような状況で事故につながるおそれがあるのかを具体的に考える必要があります。重要なのは、外国人警備員だけに特別な危険があるということではありません。日本人を含む新任警備員や未経験者にも、同様の教育が必要です。
外国人警備員の場合は、それに加えて言語や交通環境に関する経験の違いを考慮し、本人の理解度に応じた方法で指導することが求められます。
交通ルールや危険予知をどう教える?実践的な教育方法
外国人警備員への安全教育では、説明した内容が実際の行動につながるよう、教材や指導方法を工夫することが大切です。
厚生労働省は2019年3月28日付の通達「外国人労働者に対する安全衛生教育の推進等について」で、外国人労働者への安全衛生教育にあたり、母国語や視聴覚教材などを活用し、本人が内容を確実に理解できる方法で実施するよう示しています。同通達では、業務上の危険性を把握したうえで教育内容を整理し、適切な教材を整備することや、理解度を確認しながら継続的に教育を行うことが望ましいとされています。また、労働災害防止に必要な日本語や基本的な合図の習得に努めることも示されています。
写真や動画を使って危険箇所を確認する
教材を準備する前に、まず配属予定の現場にどのような危険があるかを把握することが重要です。工事車両の出入りや歩行者の通行状況、夜間の視認性などを確認し、教育で取り上げる内容を整理しましょう。厚生労働省の通達でも、外国人労働者が日本語の作業標準などを理解する際の難しさを考慮してリスクアセスメントを行い、必要なリスク低減措置を講じたうえで、教育内容を整理し、適切な教材を準備するよう示されています。交通誘導警備の安全教育では、工事現場や道路の写真・動画を使い、危険箇所を考えてもらう方法が有効です。
例えば、工事車両が道路へ出る場面の写真を見せ、車両の進行方向や歩行者の動き、警備員の立ち位置などを確認します。教育担当者が一方的に説明するのではなく、受講者自身に危険な場所を指摘してもらうことがポイントです。
| 教育テーマ | 教材・指導方法 |
|---|---|
| 大型車両の死角 | 運転席からの視界と車両周辺の写真を比較する |
| 内輪差による危険 | 左折する車両の動画を使って進行経路を確認する |
| 工事車両の出入り | 現場写真から危険箇所や歩行者への注意点を考える |
| 歩行者・自転車への対応 | 歩行者や自転車が接近する映像を見て対応を考える |
| 夜間・雨天の誘導 | 視認性が低下する状況の写真から注意点を確認する |
日本語でうまく説明できない場合は、写真の上で危険箇所を指し示したり、簡単な図を描いてもらったりする方法もあります。ただし、危険箇所を見つけられることと、実際に安全な誘導ができることは別です。写真や動画による学習に加え、現場の条件に応じた実技確認も必要になります。
やさしい日本語と実技を組み合わせる
専門用語を使った説明が伝わりにくい場合は、一文を短くし、具体的な行動が分かる言葉に言い換えることが大切です。「危険を察知したら速やかに退避してください」と伝えるだけでは、どのような状況を危険と判断し、どこへ移動するべきか分からないことがあります。緊急時の退避を教える際は、現場ごとに決められた退避場所を図面や写真で示し、危険が発生した場合の行動を具体的に説明します。そのうえで模擬訓練を行い、本人が退避場所や連絡方法を理解しているか確認しましょう。
また、無線連絡では、受信内容を復唱してもらう方法も考えられます。ただし、復唱できるだけで内容を理解しているとは限りません。「どの車両についての連絡か」「次に何をするのか」なども確認し、指示に応じた行動を取れるか確かめることが重要です。
模擬訓練で現場の危険を想定する
危険予知訓練(KY活動)では、作業中に発生し得る危険を事前に考え、安全な行動につなげます。交通誘導警備であれば、工事車両が出入りする場面や、歩行者が近づく場面などを想定した訓練が考えられます。例えば、次のような流れです。
交通誘導警備の危険予知訓練例
- 工事車両が出入りする現場の写真や配置図を確認する
- 車両の死角や歩行者の通行など、危険が考えられる場所を挙げる
- 安全な立ち位置や連絡方法、退避場所を確認する
- 安全が確保された模擬環境で、合図や連絡、退避の動作を確認する
- 理解が不十分だった内容を振り返り、再度指導する
訓練では、実際の車両を使って危険な状況を再現する必要はありません。安全が確保された場所で、写真や模型、模擬的な状況を使って確認します。
また、警備員の配置や誘導方法は、現場ごとの交通規制計画や作業条件に合わせる必要があります。一般的な訓練で習得した内容が、すべての現場にそのまま当てはまるわけではない点にも注意しましょう。

外国人警備員の理解度を確認する方法と現場配置後の指導
安全教育では、内容を説明しただけで終わらせず、本人が理解し、必要な行動を取れるかまで確認することが重要です。外国人警備員の受け入れでは、日本語の理解度だけで配置の可否を判断するのではなく、実際の業務に必要な知識や技能を確認する必要があります。
現場配置前に確認したい3つのポイント
教育後の理解度確認では、「指示理解」「危険予知」「安全行動」の3つに分けて評価する方法が考えられます。
| 確認項目 | 確認する内容 | 確認方法 |
|---|---|---|
| 指示理解 | 無線連絡や緊急時の指示を理解できるか | 復唱・状況説明 |
| 危険予知 | 車両の死角や周囲の危険を把握できるか | 写真・動画による確認 |
| 安全行動 | 危険時に適切な行動を取れるか | 模擬訓練・実技確認 |
例えば、工事車両が出入りする交通誘導警備では、次のような内容を確認します。
- 車両の進行経路や死角を把握しているか
- 自分の安全な立ち位置を理解しているか
- 歩行者や自転車が接近した場合の対応を説明できるか
- 危険が生じた場合の退避場所と連絡先を理解しているか
- 現場責任者からの指示を受け、適切に行動できるか
理解が不十分な項目については追加指導を行い、習熟状況に応じて配置を判断します。これらは外国人警備員に限らず、日本人の新任警備員や未経験者にも活用できる確認項目です。
法定教育と安全衛生教育を踏まえた指導も必要
外国人警備員についても、日本人警備員と同様に、警備業法に基づく教育を実施しなければなりません。警備業法第21条第2項では、警備業者に対し、警備員が警備業務を適正に実施するために必要な教育と指導・監督を行うことを義務付けています。
一般の警備員の場合、新任教育は20時間以上、現任教育は年度ごとに10時間以上が原則です。さらに、労働安全衛生法第59条では、労働者を雇い入れたときや作業内容を変更したときに、所定の安全衛生教育を行うことが定められています。警備業法に基づく新任教育と、労働安全衛生法に基づく雇入れ時の安全衛生教育は、それぞれの法令で実施が求められています。教育内容が重なる場合でも、それぞれの法令で定められた教育事項を満たしているか確認する必要があります。特に外国人警備員に対しては、必要な知識や技能を本人が理解できる方法で指導することが重要です。
また、厚生労働省は「未熟練労働者の安全衛生教育マニュアル(警備業編)」を公開しています。警備業務に従事する経験の浅い労働者に向けた教材として、安全教育を組み立てる際の参考になります。
配置後も理解度を確認し、追加教育につなげる
現場配置前の教育で問題がなかった場合でも、配属後に新たな課題が見つかることがあります。
例えば、交通量が多い現場で無線連絡を聞き取れなかったり、初めて経験する交通規制の方法を十分に理解できなかったりするケースです。そのため、現場責任者は、配置後も警備員の業務状況を確認し、必要に応じて指導することが大切です。特に、初めて担当する現場や配置条件が変更された現場では、作業開始前に危険箇所や連絡方法、退避場所などを確認しておきましょう。
また、教育担当者と現場責任者の間で、本人の理解度や追加指導が必要な内容を共有できる体制も重要です。教育の実施日や内容だけでなく、理解度確認の結果や追加指導の内容を記録しておけば、その後の教育計画にも活用できます。
まとめ|外国人警備員の安全教育は「伝える」だけで終わらせない
外国人警備員の受け入れでは、交通ルールや警備業務の基本を教えるだけでなく、本人が危険を理解し、現場で安全に行動できるかを確認する必要があります。JAFが2026年10月に発表した外国人技能実習生向けの交通安全講習では、VRによる危険予知体験や実車を使った死角体験など、視覚的・体験的に危険を学ぶプログラムが予定されていました。こうした教育方法は、交通誘導警備における安全教育を見直すうえでも参考になります。
警備会社では、写真や動画を使った危険予知訓練、やさしい日本語による説明、模擬訓練などを組み合わせ、理解度に応じた指導を行うことが大切です。外国人警備員に限らず、新任警備員や未経験者を含め、教育内容が実際の安全行動につながっているか確認することが、事故防止に向けた取り組みにつながります。
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