2024年4月に施行された改正警備業法では、認定証の廃止や標識のウェブ掲示義務化など、警備業界のデジタル化・透明化を進める制度変更が行われました。一方で、現場では依然として人手不足が続いており、そのしわ寄せが違法派遣や教育未実施といったコンプライアンス問題として表面化しています。
実際、2026年2月には、千葉県警が交通誘導警備を巡る労働者派遣法違反などの疑いで、警備会社関係者らを書類送致した事案が発生しました。報道によると、実態として他社の指揮命令下で警備員が業務に従事していた疑いがあるとされています。 形式上の契約では問題がないように見えても、実際の指揮命令系統が違法と判断されるケースは少なくありません。
本記事では、改正警備業法のポイントと、行政処分事例から見えてくる実務上の落とし穴を整理し、今確認すべきリスクと防止策を具体的に解説します。
施行から2年。なぜ今あらためて警備業法改正を確認すべきなのか
2024年の警備業法改正から2年が経過し、多くの警備会社では標識掲示などの制度対応が進みました。しかし現在、警察当局が重視しているのは形式的な整備だけではありません。特に近年は、実際の運用が適法かという点への監督が強まっています。
2024年の警備業法改正では、警備業者が作成した標識を営業所やウェブサイトに掲示することが義務付けられました。発注者や利用者が警備業者の認定状況を確認しやすくなり、透明性向上を目的とした制度です。さらに、2025年6月には刑法改正により懲役と禁錮が一本化され、新たに拘禁刑が導入されました。警備業法の罰則条文にもこの変更が反映されています。こうした法制度の変化が続く中、過去の慣習的な運用を続けていると、現場判断が法令違反につながるリスクがあります。実際に、教育未実施や指揮命令系統の不備などを理由とした指示処分・営業停止処分は現在も発生しています。
警備業界では「忙しかった」「現場判断だった」という説明が通用しない場面が増えていると言えるでしょう。
改正警備業法の核心と、行政処分・欠格事由の仕組み
警備業法は、施設警備・交通誘導警備・貴重品運搬警備・身辺警備などの業務を適正に実施するための法律です。警備会社が法令に違反した場合、行政処分として、
- 指示処分
- 営業停止処分
- 認定取消処分
などが段階的に行われます。特に重大なのが認定取消です。警備業法第3条では、一定の条件に該当する場合、警備業を営むことができない欠格事由が定められています。
例えば、一定の犯罪による罰金刑や拘禁刑等が確定した場合には、警備業法第3条の欠格事由に該当し、認定取消や認定取得制限につながる可能性があります。認定が取り消されれば、その後5年間は新たに警備業認定を受けることができません。
警備業は認定事業であるため、一般業種以上に「一度の法令違反」が経営へ与える影響が大きい業界です。
主な罰則例としては、以下があります。
- 営業停止命令違反:1年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金
- 無認定営業:100万円以下の罰金
- 教育実施簿の虚偽記載:30万円以下の罰金
特に教育関連違反は、立入検査で重点的に確認されるポイントの一つです。
行政処分
違反内容や悪質性によって異なり、指示処分、営業停止処分、認定取消処分のいずれかが行われます。
法令違反・立入検査で問題発覚
↓
指示処分(改善指導・是正命令)
営業停止処分(一定期間の営業停止)
認定取消処分(警備業認定の取り消し)
※内容に応じて決定
↓
5年間は新規認定不可(欠格事由に該当)
行政処分は受注停止リスクにも直結する
公共案件や大手ゼネコン案件では、コンプライアンス違反が発覚した場合、行政処分の有無にかかわらず取引停止や入札参加制限の対象となることがあります。
また、発注者によっては警備業認定の状況や行政処分歴を確認するケースもあり、一度の違反が将来的な受注機会の損失につながる可能性があります。
行政処分事例から見る3つの実務リスク
1.違法派遣と判断される指揮命令の問題
2026年2月の千葉県警による書類送致事案では、交通誘導警備員が他社の指揮命令下で業務に従事していた疑いが報じられました。警備業務は、労働者派遣法第4条により原則として派遣禁止業務とされています。
そのため、契約書上は業務委託や応援体制となっていても、実態として他社が直接指示を出していた場合、違法派遣と判断される可能性があります。実務上の重要なポイントは、誰が現場で指揮命令を行っているかです。人手不足時の応援対応は業界内でも珍しくありませんが、現場で自然に指示を出していたという行為が、法令違反と評価されるケースもあります。
特に注意が必要なのは、日常業務の中で無意識に発生しやすい“実態上の指揮命令”です。
- 他社警備員に対して自社の現場責任者が直接配置指示を出す
- 朝礼で他社隊員へ具体的な業務命令を行う
- 無線で直接誘導方法を指示する
- 勤怠や休憩時間を自社側が管理する
- 日報提出先が実質的に元請会社になっている
例えば上記のような運用は、契約形態に関係なく労務管理を行っていると判断される可能性があります。現場では、応援だから少し指示するくらい問題ないという認識が残っているケースもあります。しかし、行政や捜査機関は契約名称ではなく、“実際に誰が管理していたか”を重視します。特に交通誘導警備では、事故やクレーム発生時に指揮命令系統が詳細に確認されることがあります。口頭運用だけに頼らず、現場責任者の所属、指示系統、報告ルート、業務範囲を事前に整理し、書面化しておくことが重要です。
また、繁忙期の応援体制については、「毎年同じ運用だから問題ない」という考え方を避ける必要があります。過去に問題化しなかった運用でも、監督強化の流れの中で違法性を指摘されるケースは十分にあり得ます。
2.教育懈怠(けたい)による営業停止リスク
警備業法第21条では、警備員への教育実施が義務付けられています。具体的には、新任教育、現任教育などを実施しなければなりません。特に新任教育を受けていない警備員を現場へ配置した場合、営業停止処分につながる可能性があります。
現場では、「急な欠員が出た」「今日だけだから問題ないと思った」という判断が行われることもあります。しかし、教育未実施は行政処分の典型例の一つです。交通誘導警備や施設警備では、事故発生時に教育履歴まで確認されるケースもあるため、教育記録の整備は単なる事務作業ではありません。
3.教育実施簿の虚偽記載
立入検査前に、未実施の教育を「実施済み」と記録してしまうケースも問題視されています。教育実施簿は、警備業法上の重要書類です。虚偽記載が発覚した場合、単なる書類不備では済まず、行政処分や罰金刑につながる可能性があります。近年は、教育実施状況だけでなく、実施日時、教育担当者、受講者、内容まで詳細に確認される傾向があります。「帳簿だけ整っていればよい」という考え方は通用しなくなっています。
実務で確認したい4つの対策ポイント

コンプライアンス違反は、「知らなかった」では済まされません。そのため、以下のポイントをあらためて確認する必要があります。
応援要員の運用を再点検する
他社の警備員が現場に入る場合は、単純な人員貸与になっていないかを確認してください。特に重要なのは、誰が指揮命令を行うのか、契約内容と現場運用が一致しているか、という点です。必要に応じて、警備業務に詳しい法務専門家へ相談することも検討しましょう。
教育管理の記録精度を高める
紙台帳でも問題ありませんが、管理漏れ防止のためにシステム活用を検討する企業も増えています。近年は、教育履歴管理、受講状況確認、配置制限を連動できる警備業向けシステムも増えています。教育未了者を自動的に配置不可とする仕組みは、実務上のミス防止につながります。
教育進捗と配置制限の連動イメージ
隊員情報登録
↓
新任・現任教育の受講記録を登録
↓
システムが受講状況を自動判定
↓
┌──────────────┐
│ 教育修了 │ → 配置可能
└──────────────┘
┌──────────────┐
│ 教育未受講 │ → 配置不可
└──────────────┘
↓
管理者へ通知(未受講・更新期限切れ)
標識掲示の内容を再確認する
2024年4月以降、標識のウェブ掲示は義務化されています。以下の内容が最新状態になっているか確認してください。
- 認定番号
- 有効期間
- 営業所所在地
- 代表者情報
また、リンク切れや閲覧しづらい配置になっていないかも重要です。
現場責任者への法令教育を徹底する
違法派遣は、本社よりも現場判断から発生するケースが多く見られます。そのため、他社警備員への直接指示、配置判断、教育確認などについて、現場責任者への継続的な法令研修が必要です。「現場では普通だった」が、後に重大な問題へ発展することもあります。
まとめ
改正警備業法の施行後、行政の監督は「書類の有無」だけでなく、「実際の運用」へと重点が移っています。今回のポイントを整理すると、次の3点が重要です。
- 違法派遣や無認定営業は、認定取消につながる重大リスクになり得る
- 判断基準は契約名目ではなく、現場の指揮命令実態
- 教育管理と記録整備が、会社を守る重要な防御策になる
行政処分リスクは、法令を知らないことではなく、「慣習的な運用を見直していなかったこと」から発生するケースが少なくありません。
- 応援体制における指揮命令系統
- 教育実施状況
- 教育記録の保存状況
上記3点は今すぐ確認できるポイントです。人手不足が続く今だからこそ、コンプライアンス体制の見直しが経営リスク対策につながります。
警備NEXT(警備ネクスト)では、業界の法令動向や事案を継続的にウォッチし、現場に役立つ視点でお届けしています。
※本記事は公開情報・報道資料等をもとに編集部が作成したものです。特定の企業の法的判断を示すものではありません。