警備員がウェアラブルカメラを装着すると、現場の記録やトラブル対応はどう変わるのでしょうか。
警察庁は2026年8月28日、警察活動におけるウェアラブルカメラの試行結果を公表しました。地域警察活動や交通取締り活動で実際に使用したところ、職務執行状況の客観的な確認や教育、事件の証拠などに映像が活用されています。一方、撮影される側からは「なぜ撮っているのか」といった声もありました。
ウェアラブルカメラは警備会社でも、施設警備や交通誘導、イベント警備などへの活用が考えられる機器です。ただし、警察と民間の警備会社では権限や業務、個人情報の取り扱いが異なるため、警察の運用をそのまま導入できるわけではありません。
本記事では、警察庁の試行結果をもとに、警備員のウェアラブルカメラ活用で期待できることと、導入前に決めておきたい運用上のポイントを整理します。
警備員のウェアラブルカメラ活用を考えるうえで注目したい警察庁の試行
ウェアラブルカメラとは、身体や衣服などに装着し、装着者の周囲の映像を撮影できる小型カメラです。「ボディカメラ」「ボディウォーンカメラ」と呼ばれることもあります。警察庁は2025年から、警察官がウェアラブルカメラを装着するモデル事業を実施してきました。
2026年8月28日に公表された試行結果では、次の2つの活動について結果がまとめられています。
| 活動 | 実施警察 | 実施期間 |
|---|---|---|
| 地域警察活動 | 警視庁・大阪府警・福岡県警 | 2025年9月~11月の3か月間 |
| 交通取締り活動 | 愛知県警・新潟県警・高知県警 | 2025年9月~2026年3月の6か月間 |
警察庁は試行後、警察活動におけるウェアラブルカメラについて「有用性が認められた」とし、実装に向けて予算の確保や運用ルールの整備を進める方針を示しています。
ここで警備会社が注目したいのは、単に「警察もカメラを使い始めた」ということではありません。今回の試行では、撮影した映像を何に使ったのかが具体的に示されています。
警察庁の試行でウェアラブルカメラはどう使われた?

警察庁が公表した主な活用事例を整理すると、記録した映像は事後確認・業務管理・教育・証拠保全という4つの場面で活用されています。
トラブル発生時の状況を映像で確認
警察庁の資料では、薬物事件の被疑者が任意同行の任意性を否定したケースで、同行を求めた際の状況が記録された映像を事後確認した事例が紹介されています。警備業務でも、利用者や来場者などとの間でトラブルが発生したとき、当事者の説明だけでは状況を把握しにくい場合があります。
例えば施設警備であれば、
- 入退館時にどのようなやり取りがあったのか
- 警備員がどのような案内をしたのか
- トラブル発生前後に現場がどうなっていたのか
などを映像で確認できれば、事後対応の材料になります。ただし、ウェアラブルカメラがあれば必ず事実関係を完全に確認できるわけではありません。
装着位置によっては重要な場面が映らないことがあり、音声や映像だけでは前後関係を判断できないケースもあります。日報や事故報告書など既存の記録を置き換えるものではなく、確認材料の一つとして位置付ける考え方が必要です。
管理者による業務確認
交通取締り活動では、記録された映像を幹部が定期的に視聴し、取締りの適正性を確認した事例も示されています。警備会社でも応用を考えられる部分です。
例えば、現場責任者や管理部門が映像を確認することで、接遇方法や誘導方法、顧客から指定された手順が守られているかを振り返ることができます。一方で、警備員の勤務状況を常時監視する目的まで広げれば、現場から抵抗感が生じる可能性があります。
「事故や苦情が発生した場合のみ確認する」のか、「教育のため定期的に確認する」のかなど、誰が、どのような場合に映像を見るのかを導入前に決める必要があります。
実際の映像を教育に使用
今回の試行では、職務質問をきっかけに薬物事件の検挙につながった映像が、職務質問の手法に関する教育資料として活用されています。モデル事業を実施した都府県警察からも、映像について「実践的な教養資料としての活用価値が高い」といった意見があったと警察庁は報告しています。警備会社でも、事故やトラブルの映像を教育へ生かす方法は考えられます。
例えば交通誘導警備(工事現場などで車両や歩行者を誘導する業務)なら、実際の現場映像をもとに、「この位置から車両はどのように見えていたか」「歩行者が接近した時点でどの対応が必要だったか」といった形で検討することができます。
ただし、教育利用は当初設定した映像の利用目的との整合性を確認する必要があります。単に「記録したから研修にも使う」と用途を広げるのではなく、導入時点から利用範囲を整理しておくことが必要です。
事件発生時の記録として利用
警察庁の試行では、公務執行妨害事件で警察官への加害状況を記録した映像が、刑事事件の証拠として活用された事例もありました。警備現場でも、事件や事故の発生時に映像が残っていれば、事実関係を確認する資料になる可能性があります。ただし、警察庁が今回示したのは警察活動における事例です。
民間警備会社が撮影した映像について、「ウェアラブルカメラを導入すれば証拠として認められる」と一般化することはできません。警察から映像の提供を求められた場合などについても、個人情報保護法や捜査機関からの照会内容、自社の運用規程に沿って対応を判断する必要があります。
警備会社への導入で見落とせない「撮られる側」の視点

警察庁の試行結果でもう一つ注目したいのが、撮影される側の反応です。
街頭活動では「警察官もカメラを付ける方がよい」、交通取締りを受けた人からは「見るだけでなく、映像が残るのはよい」といった意見があったとされています。一方で、けんかへの対応時に「なぜ撮っているのか」、職務質問中には録音を理由に話したくないという趣旨の反応もありました。
つまり、カメラによる記録を安心材料と感じる人がいる一方、撮影そのものに抵抗を感じる人もいます。これは警備現場でも避けて通れない問題です。
カメラ画像は個人情報になる場合がある
個人情報保護委員会は、カメラによって特定の個人を識別できる画像を取得する場合、個人情報を取り扱うことになると説明しています。その場合、個人情報取扱事業者は利用目的をできる限り特定し、その範囲内で画像を利用する必要があります。
なお、個人情報保護委員会のQ&Aは、店舗や駅・空港などに設置する従来型防犯カメラを想定したもので、ウェアラブルカメラを直接対象としたものではありません。ただし、警備会社が導入する場合も、撮影方法や利用目的に応じて、撮影されていることを本人が認識できるようにする方法や、利用目的の通知・公表が必要かを確認する必要があります。
そのため導入前には、撮影の目的を明確にしたうえで、カメラの装着や撮影について利用者や来場者にどのように知らせるかまで整理しておくことが重要です。
保存期間も「とりあえず残す」ではなく決めておく

撮影した映像をいつまで保存するのかも確認が必要です。
個人情報保護委員会は、カメラ画像などの個人データについて、個人情報保護法第22条に基づき、利用の必要性を考慮して保存期間を設定し、利用する必要がなくなった場合は遅滞なく消去するよう努める必要があるとしています。
したがって、「容量がある限り保存する」「トラブルが起きる可能性があるため無期限に残す」といった運用ではなく、利用目的に応じて保存期間を設定する考え方が必要です。
雑踏警備でも試行されたが、今回の「試行結果」とは分けて考える
警備会社にとって特に気になるのは、イベント会場などでの雑踏警備への活用ではないでしょうか。警察庁は2025年7月24日に発表したモデル事業で、地域警察活動、交通取締り活動に加えて雑踏警備活動でもウェアラブルカメラを試行するとしていました。
雑踏警備では、北海道、岩手、警視庁、神奈川、石川、大阪、広島、香川、鹿児島の9都道府県警察に計19式を配備予定とし、2025年8月下旬以降、順次開始して1年間実施する計画でした。
目的も地域警察活動とは異なります。公道やイベント会場、駅などで雑踏の概観や流れを撮影し、雑踏警備に従事する者が映像を視聴して適切な指揮を行うことが想定されていました。
警備会社に置き換えると、現場の警備員が見ている状況を本部や責任者と共有し、混雑状況の確認や配置変更の判断に使うような運用が考えられます。ただし、注意が必要です。2026年8月28日に警察庁が公表した「試行結果について」の資料には、雑踏警備活動の結果は掲載されていません。 同資料に記載されている試行概要は地域警察活動と交通取締り活動であり、主な活用事例についても両活動から報告されています。
したがって現時点で、「警察庁の試行でウェアラブルカメラによる雑踏警備の効果が確認された」とするのは適切ではありません。警察庁が今後、雑踏警備活動について別途結果を公表するかは、2026年9月1日時点では確認できません。
警備員のウェアラブルカメラ導入前に確認したい5つのポイント

警察庁の試行から警備会社が参考にできるのは、機器そのものよりも撮影後の映像をどう運用するかです。導入を検討する場合は、少なくとも次の5項目を先に整理しておく必要があります。
1.何のために撮影するのか
最初に決めたいのが利用目的です。例えば、
- 事件・事故発生時の状況確認
- 顧客や利用者とのトラブル発生時の確認
- 警備業務の実施状況の確認
- 警備員教育
- 対応する機器を使用する場合の責任者への現場映像共有
では、必要な撮影方法や保存期間が異なります。
「便利そうだから導入する」のではなく、現在どの業務で記録不足が起きているのかから導入目的を決める方が、必要な機能も絞り込みやすくなります。
2.いつ撮影を開始・終了するのか
勤務中ずっと撮影するのか、巡回中だけ撮影するのか、トラブル発生時に警備員が操作するのかによって運用は変わります。
特に警備員自身が録画を開始する方式では、「どの状態になったら録画するか」という判断基準が曖昧だと、必要な場面が記録されない可能性があります。撮影開始・停止の条件を現場任せにせず、業務ごとに整理する必要があります。
3.誰が映像を見ることができるのか
個人情報保護委員会のQ&Aは、店舗や駅・空港などに設置する従来型防犯カメラを想定したもので、ウェアラブルカメラを直接対象としたものではありません。ただし、カメラで特定の個人を識別できる画像を取得する場合の個人情報の取り扱いについて、参考となる考え方が示されています。
個人情報保護法では、個人情報を取り扱う際に利用目的をできる限り特定し、その範囲内で利用することが求められます。また、個人情報保護委員会は、カメラ画像などが個人データに該当する場合の安全管理措置として、映像を扱える従業者の限定、責任者や取扱規程の整備、従業者への研修、媒体の盗難・紛失防止、アクセス制御、アクセスログの取得・分析などを例示しています。
警備会社でも、「警備員本人が自由に映像を持ち出せない」「管理者でも業務上必要な場合だけ閲覧できる」といった形で、誰がどのような場合に映像を扱えるのかをあらかじめ決めておくことが重要です。
4.警備会社と契約先の役割をどう分けるのか
施設警備などでは、警備会社だけで映像の取り扱いを決められない場合があります。
警備先施設で撮影する以上、契約先と事前に、
- 撮影目的
- 撮影する場所・場面
- 映像の保存先
- 閲覧できる人
- 保存期間
- 事故・苦情発生時の確認方法
- 外部へ映像を提供する場合の手順
などを整理しておく必要があります。ウェアラブルカメラを「警備員の装備品」としてだけ考えるのではなく、顧客施設の映像管理まで含む仕組みとして設計することがポイントです。
5.警備員が無理なく装着できるか
警察庁の試行では、モデル事業を実施した都府県警察から「更なる軽量化」を求める意見も出ています。これは警備会社でも見逃せません。警備員は無線機や誘導灯など、業務によって複数の装備品を携行しています。
そのため製品を比較するときは、画質や通信機能だけでなく、
- 重量
- 装着位置
- 制服着用時の動きやすさ
- 連続使用時間
- 録画開始操作のしやすさ
- 夜間や屋外での使用条件
- 充電・データ転送など勤務後の作業
まで実際の勤務を想定して確認した方がよいでしょう。本格導入前に数人・数現場で試し、管理者だけでなく実際に装着した警備員から課題を聞き取る方法も考えられます。
警備員のウェアラブルカメラは「撮影後の運用」まで設計する
警察庁の試行結果からは、ウェアラブルカメラの映像が、職務執行状況の客観的な確認、業務管理、教育、事件発生時の記録など、複数の用途に活用されたことが確認できます。警察庁は2026年8月28日時点で有用性を認め、実装に向けた運用ルールの整備などを進める方針です。
一方、警備会社が導入する場合は、次の3点を分けて考える必要があります。
- 何を撮るか:対象業務と撮影開始・終了の基準
- 何に使うか:事故確認、教育、現場管理など利用目的
- どう管理するか:閲覧権限、保存期間、削除、契約先との役割分担
特にウェアラブルカメラは固定式防犯カメラと異なり、警備員とともに撮影範囲が移動します。
まずは「カメラを導入できる現場」を探すのではなく、自社で記録不足や情報共有の課題が起きている業務を洗い出し、その課題にウェアラブルカメラが適しているかを検討するところから始めるとよいでしょう。
また、今回公表された警察庁の試行結果には雑踏警備活動の結果は含まれていません。警備NEXTでも、今後の発表を確認しながら、警備業務への活用可能性を継続して取り上げます。
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※本記事は2026年9月1日時点の公開情報をもとに編集部が作成したものです。警察活動と民間の警備業務では権限・運用・適用される制度が異なります。特定の企業の法的判断を示すものではありません。
参考・出典
- 警察庁「警察活動におけるウェアラブルカメラ活用の試行結果について」(2026年8月28日公表)
- 警察庁「警察活動におけるウェアラブルカメラ活用の試行について」(2025年7月24日公表)
- 個人情報保護委員会「個人情報の保護に関する法律についてのガイドラインに関するQ&A」(カメラ関連項目2023年5月更新)