2026年9月19日、愛知・名古屋で「第20回アジア競技大会」が開幕します。大会にはアジア45の国と地域から、選手団が最大1万5,000人訪れる予定です。愛知県警察も大会期間中の警戒警備を強化し、大規模な交通規制を実施するとしています。では、こうした大規模イベントで警備員はどのような仕事を担うのでしょうか。
競技会場では、警備員の配置だけでなく、観客と大会関係者の動線分離、手荷物検査、アクセスコントロールなど、複数の対策を組み合わせることが求められます。さらに、警備業務の内容によっては警備業法や検定制度に基づく体制づくりも必要です。
本記事では、アジア競技大会2026を例に、大規模イベントを支える警備の仕事と法令上の位置づけ、現場で確認したい実務ポイントを解説します。
なぜ大規模イベントでは警備体制が重要なのか
大規模なスポーツ大会では、競技会場だけを警戒すればよいわけではありません。大会関係者や観客の入場、会場内の移動、選手団宿泊施設への出入り、周辺道路の交通などさまざまな場面で安全を確保する必要があります。
「第20回アジア競技大会(2026/愛知・名古屋)開催基本計画」では、競技会場の内外や選手・関係者の宿泊施設への警備員等の配置が示されています。また、観客と大会関係者の動線を分けるほか、金属探知機などの警備機器を活用した検査、手荷物検査、ゾーニング、アクセスコントロールなどの対策も盛り込まれています。
さらに愛知県警察は、大会期間中に国内外から多数の人が訪れることや、マラソンなどの路上競技によって会場周辺道路の混雑が予想されるとして、警戒警備の強化と大規模な交通規制を予定しています。
つまり、大規模イベントの警備では「会場に警備員を配置する」だけではなく、人の動きや施設への出入り、周辺の交通状況まで含めて安全を管理することがポイントになります。
大規模イベントの警備は警備業法上どう位置づけられる?
大規模イベントの警備では、業務内容に応じて警備業法上の複数の警備業務が関係します。
警備業法第2条第1項第1号では、事務所や興行場などの施設における盗難等の事故の発生を警戒・防止する業務を定めています。一方、第2号では、人や車両が雑踏する場所などで負傷等の事故の発生を警戒・防止する業務が定められています。
一般に前者は「施設警備業務」、後者のうち人の雑踏する場所で雑踏の整理に係るものは「雑踏警備業務」として扱われます。警備員等の検定等に関する規則では、雑踏警備業務について、人の雑踏する場所における負傷等の事故の発生を警戒・防止する業務のうち、雑踏の整理に係るものと定義されています。
雑踏警備業務では検定資格も関係する
警備業法第18条では、専門的知識・能力を要し、事故が発生した場合に不特定または多数の人の生命・身体・財産に危険を生じるおそれがある警備業務について、国家公安委員会規則で定める種別に応じた実施基準を設けています。
雑踏警備業務については、警備員等の検定等に関する規則に配置基準が定められています。例えば、雑踏警備業務では、原則として業務を行う場所ごとに、1級または2級の検定合格警備員を1人以上配置する必要があります。また、場所の広さや予想される雑踏の状況、警備員の人数・配置などから、警備業務の適正な実施のため場所を二つ以上の区域に区分する場合は、区域ごとに1級または2級の検定合格警備員を1人以上配置するとともに、その場所ごとに1級検定合格警備員を1人配置する必要があります。
そのため、大規模イベントを受注する警備会社では、単純に必要人数を集めるだけではなく、業務内容や実施場所を踏まえて、必要な資格者を適切に配置できるかを事前に確認することが重要です。
アジア競技大会の計画から見る主な警備対応
アジア競技大会2026の開催基本計画を見ると、大会の安全確保にはさまざまな警備対応が組み込まれています。警備員の具体的な役割も、単純な立哨だけではありません。
1.会場内外の警戒と入場管理

競技会場では、会場内外への警備員等の配置が予定されています。
観客と大会関係者の動線を分けるほか、観客が大会関係者ゾーンへ立ち入らないようゾーニングを行い、ゾーンの境界でアクセスコントロールを実施することも計画されています。
大規模イベントの警備では、警備計画や主催者との役割分担に応じて、来場者の誘導や立入管理などを警備員が担う場合があります。
2.手荷物検査や警備機器を用いた安全確認
開催基本計画では、観客の入場時に金属探知機などの警備機器を活用した検査や手荷物検査を行い、危険物の持ち込みを防止する対策が示されています。
選手団宿泊施設についても、入口にセキュリティチェックポイントを設け、金属探知機などを活用した検査や手荷物検査を行うことが示されています。
このような現場では、検査そのものだけでなく、来場者の列を整理することや、検査場所への案内、異常を発見した際の報告など、複数の業務を連携させる必要があります。
3.人の集中を防ぐ雑踏警備

スポーツ大会では、競技開始前後や入退場の時間帯などに人が集中することがあります。
雑踏警備業務では、人の誘導や雑踏の整理に必要な知識・技能が求められます。警察庁が公表している雑踏警備業務の検定講習事項にも、群集密度と歩行速度、群集動線の決定要素、群集の誘導・停止・分断、群集密度の変化に応じた規制などが盛り込まれています。
これは、雑踏警備が「人を並ばせる仕事」だけではないことを示しています。
現場では、人の流れや滞留状況を把握し、警備計画や現場の指示に従って誘導方法を調整することが求められます。異常が発生した場合には、現場だけで判断を完結させず、警備責任者や関係機関へ適切に連絡する体制も必要です。
4.会場周辺や路上競技に伴う対応
アジア競技大会では、自転車、トライアスロン、競歩、マラソンなどの路上競技も行われます。愛知県警察は、これらの競技に伴ってコースや周辺道路で交通規制を実施するとしています。
また、開会式や関連行事に伴う交通規制も予定されています。
なお、愛知県警察が公表している交通規制は警察によって実施されるもので、民間警備員による交通誘導警備とは役割が異なります。 大会に関係する警備業務では、会場内だけでなく、周辺道路や人の移動経路についても、主催者や警察など関係機関との役割分担を確認しておく必要があります。
9月開催でも必要な隊員の熱中症対策
大規模イベントの警備では、来場者の安全だけでなく、現場で働く隊員自身の安全確保も欠かせません。
特にアジア競技大会の開幕は9月19日です。9月は真夏と比べて気温が低下する時期でもありますが、屋外で長時間活動する警備員にとって暑さへの備えは引き続き必要です。
厚生労働省が公表した2025年の職場における熱中症による死傷災害では、休業4日以上の死傷者数が1,803人となり、警備業では199人、そのうち死亡者は3人でした。2021~2025年の5年間でも、警備業の熱中症による死傷者は614人、死亡者は18人となっています。
また、2025年6月1日からは、労働安全衛生規則第612条の2に基づき、熱中症のおそれがある作業を行う際の報告体制の整備や、重篤化を防止するための措置・手順の作成などが事業者に求められています。
警備会社では、大規模イベントの勤務計画を作成する際に、WBGT(暑さ指数)の把握、休憩・水分補給の方法、体調不良者を早期に発見するための連絡体制などを確認しておく必要があります。
大規模イベント警備に向けて警備会社が確認したい4つのポイント
アジア競技大会のような大規模イベントを直接担当する場合だけでなく、地域のスポーツ大会や祭り、コンサートなどを受注する際にも、次のポイントは確認しておきたいところです。
1.業務内容と必要な資格者を確認する
まず、契約する警備業務が施設警備なのか、雑踏警備なのか、その他の警備業務なのかを整理します。そのうえで、警備業法や関係規則に基づき、検定合格警備員の配置が必要となる業務かを確認します。
特に雑踏警備では、現場の広さや予想される雑踏の状況、警備員の人数・配置などによって区域の考え方が関係するため、単純に「資格者を1人置けばよい」と判断しないことが重要です。
2.警備計画と現場の役割分担を共有する
大規模イベントでは、警備会社だけで対応するのではなく、主催者や施設管理者、警察、消防など複数の関係者が関わります。そのため、警備員が担当する場所、誘導方法、異常発生時の報告先、関係機関への連絡方法などを事前に確認しておく必要があります。
特に「異常が起きたとき誰に報告するのか」を現場隊員まで共有しておくことは、現場対応を円滑にするうえで重要です。
3.人の流れと立入管理を事前に確認する
会場では、観客と大会関係者の動線を分けたり、関係者ゾーンへの立ち入りを制限したりする場合があります。警備会社では、警備員の配置場所だけでなく、来場者がどこから入り、どこへ移動するのか、どこで滞留する可能性があるのかを事前に確認しておくことが必要です。
警備計画と現場の動線が一致しているか、現場隊員が配置変更や異常発生時の報告手順を理解しているかも確認しておきたいポイントです。
4.隊員の安全確保を勤務計画に組み込む
大規模イベントでは、来場者の安全確保を優先するあまり、隊員自身の休憩や体調管理が後回しにならないよう注意が必要です。特に屋外で長時間勤務する場合は、WBGTの把握や休憩場所、水分補給、体調不良時の報告・対応手順を事前に確認します。
厚生労働省は、熱中症のおそれがある作業について、早期発見のための体制整備や重篤化防止の措置・手順の作成、関係作業者への周知を重点的に呼びかけています。
まとめ|大規模イベントの警備の仕事は「配置」だけではない
2026年9月19日に開幕するアジア競技大会では、競技会場や選手団宿泊施設への警備員等の配置に加え、動線分離、手荷物検査、アクセスコントロールなど、複数の安全対策が計画されています。また、愛知県警察は大会期間中の警戒警備を強化し、交通規制も実施するとしています。大規模イベントの警備の仕事を考えるうえで、押さえておきたいのは次の3点です。
- 業務内容を整理し、警備業法や関係規則に基づいて必要な資格者を配置する
- 人の流れや立入管理を含め、主催者・施設管理者・関係機関との役割分担を事前に確認する
- 来場者だけでなく、現場で働く隊員の安全や熱中症対策も勤務計画に組み込む
今後、大規模なスポーツ大会や地域イベントの警備を受注する警備会社では、現場の人数だけを見るのではなく、「どの業務に、どの資格者を、どの場所へ配置し、異常時にどう連携するのか」まで含めて警備計画を確認することが実務上のポイントになります。
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※本記事は公開情報をもとに編集部が作成したものです。特定の企業の法的判断を示すものではありません。