商業施設で窃盗事件が発生したとき、施設警備は「犯行が始まってからどう対応するか」だけを考えればよいのでしょうか。
2026年8月25日、東京・中野区の商業施設「中野ブロードウェイ」にある高級時計店で、腕時計4本、約2億円相当が盗まれる事件が発生しました。テレ朝NEWSによると、犯行時間はわずか10秒ほど。その後、2人組のうち1人が事件の約10分前から現場近くで待機していたことも報じられています。
短時間で被害が発生する犯罪では、犯行を認知してからの対応だけでは間に合わない可能性があります。施設警備の防犯対策では巡回や防犯カメラによる監視だけでなく、通常とは異なる行動・状況を把握した際の情報共有、事件発生時の通報、施設管理者やテナントとの役割分担までを一連の流れとして考える必要があります。
本記事では今回の事件を手がかりに、警備会社の管理職や現場責任者が確認したい5つの実務ポイントを、警備業法や個人情報保護法も踏まえて解説します。
施設警備の防犯対策を考える「10秒」の窃盗事件
2026年8月25日正午前、中野ブロードウェイに入る高級時計店で、2人組の男が腕時計4本、約2億円相当を盗んで逃走する事件が発生しました。テレ朝NEWSは、犯行時間が約10秒だったと報じています。事件後には現場から約400メートル離れた場所で、逃走に使われたとみられる電動キックボードや衣類も見つかりました。
さらに8月27日の続報では、2人組のうち1人が事件の約10分前から現場近くで待機していたことが明らかになっています。警視庁は同日、チリ国籍の男2人を窃盗の疑いで逮捕しました。さらに8月27日の続報では、2人組のうち1人が事件の約10分前から現場近くで待機していたことが明らかになっています。その後、警視庁はチリ国籍の男2人を窃盗の疑いで逮捕しました。
ただし公表されている情報だけから「警備体制に問題があった」「警備員が事前に犯行を見抜けたはずだ」と結論付けることはできません。
警備会社が注目したいのは、明確な犯行が始まってから約10秒で被害が発生するケースに、現在の警備運用はどう対応するのかという点です。今回の事件は、その体制を点検する一つの材料になります。
施設警備は「犯行発生後」だけを考える業務ではない
警備業法第2条第1項第1号では、事務所、住宅、興行場、駐車場、遊園地などの「警備業務対象施設」で盗難等の事故の発生を警戒し、防止する業務を警備業務の一つとして定めています。一般に「施設警備」や「1号警備」と呼ばれる分野です。
商業施設の施設警備では、契約内容や施設の特性に応じて、巡回、出入管理(施設への人や車両などの出入りを確認・管理する業務)、防犯カメラによる監視などを組み合わせ、盗難や事故などの発生を警戒します。
今回のように犯行が短時間で完了するケースでは、ショーケースが割られるなど明確な異常が起きてから状況を把握し、関係者へ連絡している間に犯人が逃走する可能性があります。
そこで本記事では、施設警備の防犯対応を実務上整理するため、次の3段階に分けて考えます。
発生前:通常とは異なる行動・状況を把握する
発生時:情報共有・現場対応・通報を行う
発生後:現場保全・映像確認・警察への情報提供につなげる
この3段階を一連の流れとして捉え、各段階で必要な対応や役割分担を確認しておくことがポイントです。

「不審な人物」ではなく「行動・状況」を見る
今回の事件では、2人組のうち1人が事件の約10分前から現場近くで待機していたと報じられています。
しかし、商業施設には待ち合わせをしている人や店舗を探している人もいます。「長時間その場にいた」という事実だけで犯罪を予測することはできません。警備業法第15条では警備業者と警備員について、警備業法によって特別な権限を与えられているものではないことに留意するとともに、他人の権利・自由を侵害したり、正当な活動に干渉したりしてはならないと定めています。
そのため外見や国籍、年齢などの属性や警備員個人の印象だけで「不審者」と判断するのではなく、実際に確認された行動や状況に着目することが大切です。たとえば立入制限区域への接近を繰り返す、特定の売場周辺を何度も往来するなど、施設の特性に応じて注意する行動・状況を整理する方法があります。
目的は「犯人を見抜く基準」を作ることではありません。通常とは異なる状況を把握したとき、誰に報告し、その後どう確認するのかという運用基準を作ることです。
防犯カメラは「録画設備」ではなく警備運用の一部

今回の事件でも、防犯カメラに犯行グループの様子が記録されていました。商業施設の防犯対策ではカメラの設置台数だけでなく、映像を警備業務でどう活用するのかという視点が必要です。
録画映像を事件後に確認する運用と警備室などでリアルタイムに映像を確認する運用では、カメラの役割が異なります。また、多数の映像を警備員が常時把握し続けることにも限界があります。そのため、「どこを重点的に見るのか」「気になる状況を把握したら誰へ伝えるのか」「巡回中の警備員とどう連携するのか」まで決めておきます。
警備室から巡回員へ情報を伝えて現場を確認する。反対に、巡回員から得た情報をもとに警備室で映像を確認する。このように、防犯カメラと巡回を相互に情報を補う手段として運用することがポイントです。
防犯カメラ映像と個人情報保護
防犯カメラの運用では、個人情報保護法にも注意が必要です。個人情報保護委員会の「『個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン』に関するQ&A」Q1-13では、従来型防犯カメラで特定の個人を識別できる画像を取得する場合、個人情報を取り扱うことになると説明しています。個人情報取扱事業者は利用目的をできる限り特定し、その範囲内でカメラ画像を利用することが求められます。
一方、カメラの設置状況などから防犯目的であることが明らかな場合は、個人情報保護法第21条第4項第4号により、利用目的の通知・公表が不要となる場合があります。また本人が撮影を容易に認識できない場合には、防犯カメラが作動中であることを掲示するなどの措置が例示されています。
警備会社が映像監視を受託する場合は、誰が映像を確認できるのか、録画データをどう管理するのか、事件発生時にどう確認・提供するのかなど、施設側との役割分担も整理しておきます。
商業施設の窃盗対策で確認したい5つの実務ポイント
では警備会社の管理職や現場責任者は、自社が担当する施設について何を点検すればよいのでしょうか。
一つの事件だけを理由に警備方法を変更する必要はありません。しかし短時間で被害が発生するケースも想定し、現在の運用に抜けや曖昧さがないかを見直す材料にできます。
1.重点警戒場所と時間帯を施設側と共有する
商業施設には、出入口、共用通路、店舗、搬入口、駐車場など、性質の異なる場所があります。施設管理者やテナントから得た情報を踏まえ、高額商品を扱う店舗、死角になりやすい場所、人の流れが変化する時間帯など、重点的に確認する場所・時間を共有します。
巡回方法などを見直す場合には警備会社だけで判断せず、契約内容や警備業務の実施計画との整合を確かめ、必要に応じて施設管理者とすり合わせます。
2.「行動・状況」の報告基準を決める
警備員が通常とは異なる行動・状況を確認した際に、「誰へ報告するか」「報告後に誰が確認するか」「警備日誌等に何を残すか」をあらかじめ整理しておきます。個々の警備員だけで判断を完結させず、必要な情報を組織内で共有できる運用になっているかを確認します。
3.防犯カメラと巡回を連動させる
防犯カメラについては、設置台数だけでなく、実際の運用を確認します。
・録画のみか、リアルタイム監視も行うのか
・どのカメラを誰が確認するのか
・重点的に確認する場所はどこか
・異変を把握した際、巡回員へどう伝えるのか
・事件発生後、必要な映像を確認できるか
カメラ担当と巡回担当の間で、必要な情報を速やかに共有できる状態になっているかを点検します。
4.事件発生時の通報・連絡手順を明確にする
事件発生時には警察だけでなく、警備室、施設管理者、テナントなどへの連絡が必要になる場合があります。警察庁は事件・事故に関する緊急通報は110番、緊急でない相談は最寄りの警察署または警察相談専用電話「#9110」を利用するよう案内しています。施設警備でも、「誰が110番するのか」「誰が施設管理者へ連絡するのか」「犯人が逃走した場合に何を警察へ伝えるのか」といった手順を明確にします。
担当者や営業時間などが変わった場合は連絡網も更新し、緊急時に現場が迷わない状態をつくっておきます。
5.施設管理者・テナント・警備会社の役割を明確にする
商業施設の防犯は警備会社だけで完結しません。「店舗側が警備室へ連絡すると思っていた」「警備会社が110番すると思っていた」といった認識のずれを防ぐため、異常発生時の連絡、防犯カメラ映像の確認、110番通報、施設管理者への報告、現場保全、警察への情報提供などの担当を整理します。
事件発生後についても、警察の捜査などに支障が出ないよう、現場への不要な立入りや物品の移動を避けるなど、現場の状態をできる限り保つための対応をあらかじめ整理しておくことが重要です。
社内マニュアルだけでなく、施設管理者やテナントとの役割分担まで共有できているかを点検します。

施設警備の防犯対策は「発生前・発生時・発生後」で見直す
今回の事件では、約2億円相当の腕時計4本が約10秒で盗まれました。施設警備の防犯対策を考えるうえで注目したいのは、被害額の大きさだけではありません。明確な犯行が始まってから対応するだけでは間に合わない犯罪があるという点です。
一方、犯行前から警戒するからといって、施設利用者を外見や印象だけで不審者扱いすることも適切ではありません。管理職や現場責任者は自社が担当する施設について、次の3段階で運用を見直してみてください。
発生前:通常とは異なる行動・状況を把握した際の情報共有
発生時:巡回、防犯カメラ、施設側への連絡、110番通報の連携
発生後:現場保全、映像確認、警察への情報提供と役割分担
短時間で発生する犯罪への備えは、防犯カメラの増設や警備員の増員だけではありません。犯行前に得た情報を共有し、発生時には迷わず対応し、発生後は警察への通報・情報提供につなげる。この一連の流れが現場で機能する状態になっているかを点検することが、施設警備の防犯対策を見直す第一歩です。
警備NEXT(警備ネクスト)では業界の法令動向や事案を継続的にウォッチし、現場に役立つ視点でお届けしています。
※本記事は公開情報をもとに編集部が作成したものです。特定の企業の警備対応の適否や法的責任について判断するものではありません。