警察官の採用難|受験者15年で3分の1、警備業界の人手不足・採用対策

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警察官の採用試験は、いまどれほど厳しい状況にあるのでしょうか。
警察庁が2026年4月に公表した「将来を見据えた優秀な警察官の確保に向けた緊急対策プラン」によると、2024年度の全国の都道府県警察における採用試験の受験者数は2010年度の136,845人から43,059人まで減少し、競争倍率も9.5倍から3.5倍まで低下しました。
採用を辞退する人の割合も、10年間で約1.4倍に増加しています。

警察官と警備員では職務や法的な位置付けは異なりますが、「人材を確保するために、従来の採用方法や仕事の伝え方を見直す」という点は共通する課題があります。

本記事では、警察官採用がどれほど厳しくなっているのか、受験者が減少している背景、警察庁の緊急対策を確認したうえで、警備業界の人手不足と採用課題、さらに省力化を含めた今後の対応について考えます。

警察官採用はどれほど厳しいのか

警察庁の資料では、警察官の採用をめぐる状況を「極めて厳しい状況」としています。

出典|警察庁「省力化投資促進プラン(警備業)」

2024年度の全国の採用試験では、受験者数が43,059人となりました。2009年度の136,845人と比べると、約3分の1です。また、競争倍率も2010年度の9.5倍から2024年度には3.5倍まで低下しています。

単に受験者数が減っただけではありません。採用試験に合格しても、他の公務員や民間企業など別の進路を選ぶことで採用を辞退する人の割合も増えています。警察庁によれば、辞退率は10年間で約1.4倍となり、都道府県警察が採用予定者数より多くの合格者を出して対応しているにもかかわらず、想定以上の辞退によって採用予定者数の確保に支障が生じる例もあります。

さらに、現在の警察官の年齢構成では40歳代前半の人数が特に多く、今後十数年にわたって退職者の増加傾向が続くことが予想されています。そのため、現在の体制を維持するためには、今後さらに多くの人員を採用する必要があると警察庁は見込んでいます。

つまり現在の課題は、「応募者が少ない」という一点だけではありません。受験者数の減少、採用辞退率の上昇、今後の退職者増加という複数の要因が重なり、人員確保が難しくなる構造になっていることがポイントです。

なぜ警察官の受験者が減っているのか

では、なぜここまで受験者が減っているのでしょうか。
警察庁の緊急対策プランでは、警察学校入校中の警察官、30歳以下の若手警察官、採用担当者の計477人を対象にした意識調査を実施しています。調査結果からは、単純な少子化だけではなく、警察官という仕事や採用試験に対するイメージが受験行動に影響していることがうかがえます。

警察学校への不安

採用試験を受験する際の不安や懸念について、「警察学校が厳しそう」など警察学校に関連する回答をした人は全体の約40%でした。
また、他の職業から警察官へ転職した人では、約70%が「転職者にとって警察学校が警察官を受験する上での心理的なハードルになっていると思う」と回答しています。

警察庁は、こうしたイメージを踏まえ、警察学校における外出・外泊やスマートフォンの使用制限などのルール見直し、施設環境の改善などを対策に盛り込みました。

試験対策の負担

受験に関する回答では、「試験対策が大変である」といった内容が全体の約25%を占めました。
警察庁は、公務員試験に特化した対策が受験者の裾野を広げるうえでの障壁になっていると分析しています。そこで、民間企業でも利用されているSPIなどを活用し、公務員試験に特化した準備をしなくても受験しやすい試験制度の導入を進める方針を示しました。

実際、2025年度までに23都県警察が従来の教養試験に代えてSPIまたはSCOAを導入しており、警察庁が実施した調査では、受験者数の増加や減少抑制、民間企業との併願者増加につながったとの意見も確認されています。

就職活動の早期化

もう一つのポイントが、就職活動そのものの変化です。
警察庁が引用する内閣府の調査では、2024年度卒業・修了予定者のうち 、卒業・修了年度の4月までに約9割が民間企業の採用面接を受け、約7割が内々定を得ています。

警察庁は、この状況から、警察官採用試験の第一次試験より前に就職活動を終える学生や、学業・他の就職活動との両立を理由に従来の日程では受験を断念する層が一定程度存在すると分析しています。つまり、受験者の減少を「警察官の人気がなくなった」とだけ捉えるのは適切ではありません。

仕事そのものの魅力、採用試験の負担、就職活動のタイミング、職場環境に対するイメージなど、複数の要素が重なっていることが警察庁の資料から確認できます。

警察庁が打ち出した緊急対策

こうした課題に対応するため、警察庁は2026年4月、「将来を見据えた優秀な警察官の確保に向けた緊急対策プラン」を策定しました。対策は大きく、「組織の魅力向上」「若い世代への発信力強化」「採用の間口拡大」の3つに整理されています。

組織そのものの魅力を高める

警察庁は、警察官の業務やキャリアパスの魅力を高めるほか、警察学校の環境改善、居住制限の見直し、処遇面の認知度向上などを進めます。

たとえば、警察官は専門性や能力に応じてさまざまな業務を経験できる一方、そうしたキャリアの幅が十分に認知されていないと分析されています。

また、給与水準や休暇制度、育児支援制度についても、実際には肯定的な意見がある一方で、その魅力が十分に知られていないとして、採用広報で積極的に発信する方針です。

情報発信の方法を変える

若い世代への情報発信では、SNSの活用を強化します。
警察庁は、InstagramやXなどを活用した情報発信に加え、アニメ・マンガ・ドラマなどとのタイアップ、職業体験イベントなども進める方針です。

ここで注目したいのは、単純に「求人広告を増やす」という発想ではないことです。
仕事内容、やりがい、処遇、警察学校の実態など、求職者が知りたい情報を伝え、仕事に対する先入観を見直してもらうことまで採用施策に含めています。

採用の間口を広げる

採用試験についても、大きく見直します。具体的には、次のような施策です。

  • SPI等を活用した試験の導入
  • 大卒者対象試験などの実施時期の前倒し
  • 採用試験の回数増加
  • 社会人経験者を対象とした採用の推進

社会人経験者については、SPI等や職務経歴などによる自己アピール方式を活用した試験制度を導入するとともに、民間企業での経験や実績に応じて巡査部長以上の階級で採用する方策についても検討するとしています。

警察庁の対策から見えてくるのは、「応募者を増やす」だけではなく、応募しやすくする、仕事を理解してもらう、採用後の働き方を改善するという複数の面から人材確保を進める姿勢です。

警備業界の採用状況との共通点

では、この警察官採用の動きは警備会社にとって何を意味するのでしょうか。

警察官と警備員は、法律上の位置付けも業務内容も異なります。ただし、いずれも社会の安全・安心を支える仕事として、人材を確保するという課題を抱えています。
警備業についても、人材不足は深刻です。

出典|警察庁「省力化投資促進プラン(警備業)」

警察庁が2025年12月に公表した「省力化投資促進プラン(警備業)」では、2025年9月の有効求人倍率について、警備業が6.70倍、全職業が1.10倍とされています。また、2024年における65歳以上の労働者の割合は警備業で34.3%、全職業で13.6%とされ、警備業では高齢化も進んでいます。

この資料は、警備業が「過酷な労働環境・低賃金のため、人手不足が深刻化している」と指摘するとともに、労働集約型の業務であることから、省力化や自動化、機械化、システム導入を進める必要性を示しています。

警察官採用と警備業界を同一視することはできません。しかし、今回の警察庁の採用改革からは、警備会社にも参考になる3つの視点があります。

仕事の魅力を具体的に伝える

警察庁は、警察官の仕事にある使命感やキャリアの幅、処遇などを改めて発信しようとしています。
警備会社でも、「社会の安全を守る仕事」という抽象的な説明だけではなく、実際にどのような現場で、誰の安全を守り、どのような経験や資格が身につくのかを求人情報で具体的に示すことが重要です。

たとえば施設警備であれば、出入管理、巡回、防災対応など、交通誘導警備であれば工事現場等での車両・歩行者の誘導など、業務内容を具体的に伝えることで、応募者が仕事をイメージしやすくなります。

応募から採用までの離脱を減らす

警察庁が試験時期の前倒しや試験回数の増加を検討している背景には、採用市場の変化があります。
警備会社でも、応募を受けてから面接日程を調整し、採否を決めるまでの時間が長ければ、その間に求職者が別の企業を選ぶ可能性があります。

そのため、自社の採用フローについて、
応募受付→連絡→面接→採否通知→入社手続き
の各段階にどれだけ時間がかかっているのかを確認してみることが必要です。あわせて、どの段階で応募者が離脱しているのかを把握し、必要に応じて連絡や選考の進め方を見直すことも採用対策の一つです。 

採用と現場の省力化をセットで考える

人材を採用するだけでは、今後の人手不足をすべて解決できるとは限りません。
警察庁の「省力化投資促進プラン(警備業)」では、警備ロボット、バーチャル警備システム、警備ドローン、交通誘導システムなどによる業務の省力化に加え、労務管理、配置シフト管理、上番・下番報告、給与計算などのシステム化も挙げられています。

さらに、同プランでは、警備業の労働生産性を2029年度までに2024年度比25%向上させることを目標として掲げています。法定教育へのeラーニング導入事業者数についても、2029年度までに約1,000業者を目指すKPIが設定されています。

ここで大切なのは、機械やシステムを導入すること自体を目的にしないことです。
現場の安全性や警備業法上の要件、契約内容などを確認したうえで、人が担う必要のある業務と、機械・システムに置き換えたり支援させたりできる業務を切り分けることがポイントになります。

人材確保・省力化を警備会社はどう考えるか

警察官の採用難から警備会社が学べるのは、「募集人数を増やせば解決する」という発想だけではありません。

警察庁は、採用難への対応として、組織の魅力向上、情報発信、採用試験制度の見直しを同時に進めています。さらに、警察組織そのものについても、将来の人口減少を見据えて業務の高度化・効率化・合理化を進める必要性を示しています。警備会社に置き換えるなら、次の3点を一体で考えることが重要です。

1.採用活動を「応募者目線」で見直す

求人票を出して待つだけではなく、応募者が何を不安に感じるのかを確認します。

  • 仕事内容が具体的に伝わっているか
  • 勤務時間や休日が分かりやすいか
  • 未経験者が入社後に何を学ぶのか説明できているか
  • 資格取得やキャリアアップの道筋が見えるか
  • 応募から面接までの連絡が遅れていないか

警察庁が警察学校や試験制度に対する不安を調査し、それを制度改善につなげている点は、警備会社にとっても参考になります。

2.「働きやすさ」を実態とともに伝える

採用広報では、単に「働きやすい職場です」と書くのではなく、具体的な制度や実績を示します。
たとえば、休暇制度、研修制度、安全対策、勤務シフト、資格取得支援などです。

もちろん、実態と異なる内容を求人に掲載してはいけません。自社で実際に行っている取り組みを整理し、求職者が入社後の働き方を想像できる情報に変えることが重要です。

3.人員配置と省力化を同時に見直す

警備業は労働集約型の産業です。だからこそ、人を採用することと、人が担う業務そのものを見直すことを分けて考える必要があります。警察庁の省力化投資促進プランでは、現場業務だけでなく、シフト管理や報告、給与計算などのバックオフィス業務も省力化の対象として挙げています。

警備会社では、まず日常業務を洗い出し、

「警備員でなければできない業務」
「システムで効率化できる業務」
「機械・センサー等で補助できる業務」
「事務作業として自動化できる業務」

に分けて考えると、投資すべき領域が見えやすくなります。

自社で確認したいポイント

  • 応募から面接設定、採否通知までの所要時間を把握しているか
  • 求人情報だけで仕事内容や勤務条件を具体的にイメージできるか
  • 未経験者に対する教育・フォロー体制を説明できるか
  • 資格取得やキャリアアップについて具体的に伝えられるか
  • 現場業務と事務業務のそれぞれで省力化できる部分を洗い出しているか
  • 機器・システムを導入する際に、警備業法上の要件や契約内容、現場の安全性を確認しているか

まとめ

警察官の採用難は、単なる受験者数の減少にとどまりません。

2024年度の全国の警察官採用試験では、受験者数が15年間で約3分の1となり、採用辞退率も10年間で約1.4倍に上昇しています。警察庁は、この状況に対して採用試験の見直しだけでなく、警察学校の環境改善、情報発信、社会人経験者の採用など、幅広い対策を進めています。

警備業界も、人手不足と高齢化という課題を抱えています。警察庁の「省力化投資促進プラン(警備業)」では、2025年9月の警備業の有効求人倍率を6.70倍とし、省力化・自動化・機械化・システム導入を進める方向性が示されています。

今後の警備会社に求められるのは、採用数だけを見ることではありません。「応募しやすい採用環境をつくる」「仕事の魅力や働き方を具体的に伝える」「人にしかできない業務へ人員を集中させる」という3つの視点から、自社の採用と業務運営を同時に見直すことが重要です。

まずは、現在の採用フローと現場・事務業務を一度棚卸ししてみましょう。どこで応募者が離脱しているのか、どこに人の負担が集中しているのかを把握することが、人手不足への具体的な対策を考える第一歩になります。

警備NEXT(警備ネクスト)では、業界の法令動向や事案を継続的にウォッチし、現場に役立つ視点でお届けしています。

※本記事は公開情報をもとに編集部が作成したものです。特定の企業の法的判断を示すものではありません。

参考・出典

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