「従来どおりの制服を着用し続けることが、現場隊員の健康リスクを高めてはいないだろうか。」
近年、日本では夏の猛暑が常態化し、屋外で業務を行う現場では熱中症対策の重要性が高まっています。
厚生労働省が2026年5月27日に公表した「2025年(令和7年)職場における熱中症による死傷災害の発生状況(確定値)」によると、職場で熱中症により死亡または4日以上休業した人は1,803人となり、2005年の統計開始以降で最多となりました。
このうち死亡者は19人で、建設業が5人、警備業が3人でした。警備業の死傷者数は199人に上っています。
こうした状況を受け、冷却用品を追加するだけではなく、夏季に着用する制服や作業着そのものを見直すことも、熱中症対策の選択肢の一つとして考えられます。
本記事では、夏季の制服・作業着とその運用を見直す取り組みを「制服改革」として整理し、その背景や夏服を見直す際のポイント、建設業界の参考事例を交えながら、警備会社が実務で検討したい内容を解説します。
なぜ今、警備会社に「制服改革」が必要なのか
制服や作業着を見直すことは、単なる服装の変更ではありません。現場で働く隊員の安全性を高めるための取り組みの一つであり、働きやすい職場環境づくりを考える上でも検討したいテーマです。
猛暑が「例年どおり」では済まない時代になった
近年は35℃を超える猛暑日が珍しくなくなり、警備現場では長時間にわたって強い日差しや照り返しを受ける環境が増えています。
特に交通誘導警備では、アスファルトからの輻射熱(地面や建物から放射される熱)の影響も受けやすく、体感温度が気温以上になる場面も少なくありません。
厚生労働省の熱中症防止対策では、WBGTの把握、作業環境や作業時間の管理、水分・塩分補給、健康状態の確認など、複数の対策を組み合わせることが示されています。制服や保護具についても、熱がこもりにくいか、業務に必要な安全性を損なわないかを確認することが重要です。
制服や作業着も、会社のイメージや統一感を示すだけでなく、現場で働く隊員の安全性を支える装備として考えることが重要になっています。
ファン付き作業着だけに頼らず、勤務全体で対策を考える
警備会社でも、暑さ対策としてファン付き作業着を採用する例が見られます。しかし、熱中症リスクは作業中だけに生じるものではありません。
警備会社でも、暑さ対策としてファン付き作業着を採用する例が見られます。しかし、熱中症対策は、現場で作業している時間だけを対象に考えればよいものではありません。隊員は、現場での警備業務に加えて、現場までの移動、現場間の移動、待機、休憩、帰社後の事務作業など、勤務中のさまざまな場面で暑さの影響を受けます。
そのため、ファン付き作業着などの特定の装備だけに頼るのではなく、出勤から退勤までを含めた勤務全体で、制服や装備、休憩環境を確認することが重要です。こうした時間帯には、ファン付き作業着を着用しない場合もあります。
建設業界では、こうした「作業時間以外」の暑熱環境にも着目した参考事例が見られます。警備会社でも、現場だけではなく、出勤から退勤までを含めた勤務全体で熱中症対策を考える視点が重要になるでしょう。
働きやすい職場環境づくりの一環として検討する
警備業界では高齢化や人手不足が続いており、多様な人材が安心して働ける環境づくりが求められています。制服や装備品も、その一つの要素です。
例えば、
- 暑さによる身体への負担に配慮する
- 汗をかいても乾きやすい素材を採用する
- 動きやすく長時間着用しやすい仕様を選ぶ
こうした点を考慮することで、日々の業務負担を軽減しやすくなります。
また、女性隊員やシニア隊員など、多様な人材が働く職場では、体格や働き方に応じたサイズ展開や仕様を確認することも重要です。
制服や作業着の見直しは、福利厚生というよりも、安全への配慮や働きやすい職場環境づくりの一環として検討できる取り組みといえるでしょう。
制服改革で見直したい夏服の考え方と機能性
夏服を見直す際は、「涼しそうだから選ぶ」という印象だけではなく、素材や機能、運用方法まで含めて確認することが重要です。近年は高機能素材を採用した製品も増えており、用途や現場環境に応じて比較・検討しやすくなっています。
遮熱性能とUVカット機能
近年は、遮熱機能を表示する製品も見られます。
遮熱性能や試験方法は製品ごとに異なるため、導入時にはメーカーが公表している試験結果や使用条件を確認することが大切です。
また、UVカット機能は、屋外で長時間勤務する際の紫外線対策として確認したい性能の一つです。ただし、UVカット性能と遮熱性能は異なるため、それぞれの性能を分けて確認する必要があります。
ヘルメットについても、通気性や遮熱機能を備えた製品、遮熱シートなどが選択肢になります。ただし、ヘルメットは安全基準や発注者・現場ごとの指定があるため、任意に加工せず、使用条件を確認した上で導入を検討することが重要です。
通気性・吸汗速乾性は夏服の基本性能
汗を効率よく吸収し、乾きやすい吸汗速乾素材は、夏服を選ぶ際に確認したい基本性能の一つです。汗が衣服内に残ると、不快感が増すだけでなく、作業中の快適性にも影響する場合があります。
静電気が問題となる施設や作業環境では、制電性能を備えた制服が求められる場合もあります。制服の選定時には、配置先の設備や業務内容を確認し、必要な性能を整理することが重要です。
制服を選定する際は、価格やデザインだけで判断するのではなく、
- 通気性
- 吸汗速乾性
- 遮熱性能
- UVカット性能
- 耐久性
などを総合的に比較・確認するとよいでしょう。
WBGTを基準に装備を運用する考え方
熱中症対策では、気温だけを基準に判断するのではなく、**WBGT(暑さ指数)**を活用した管理が推奨されています。
WBGTは、気温に加えて湿度、風速、輻射熱を考慮し、暑熱環境による身体への負担を評価する指標です。
警備会社でも、WBGTを確認しながら休憩時間を調整したり、保冷ベストやネッククーラーなどの冷却装備を組み合わせたりする運用が考えられます。
制服や夏服を見直す際は、「何を着るか」だけではなく、WBGTに応じてどの装備を組み合わせるかという運用まで整理しておくことで、現場で運用しやすくなるでしょう。
2025年施行の改正労働安全衛生規則と警備会社に求められる対応
2025年6月1日に施行された改正労働安全衛生規則では、熱中症のおそれがある作業者を早期に発見し、症状の重篤化を防ぐための対応が事業者に義務付けられました。
対象となるのは、WBGT28度以上または気温31度以上の環境で、連続1時間以上または1日4時間を超えて行うことが見込まれる作業です。事業者には、対象作業について、次の対応が求められます。
- 熱中症のおそれがある作業者を早期に発見するための報告体制を整備する
- 作業からの離脱、身体の冷却、医療機関の受診など、重篤化を防ぐための手順を定める
- 整備した体制と手順を関係作業者へ周知する
交通誘導警備など、屋外で長時間勤務する現場では対象となる可能性があるため、警備会社は現場ごとのWBGTや作業時間を確認し、必要な体制と手順を整備することが重要です。
制服や夏服の変更自体が改正規則で義務付けられたわけではありません。ただし、制服や装備の見直しは、休憩、水分・塩分補給、体調確認、冷却装備の活用などと組み合わせて行う暑熱対策の一つとして位置付けられます。
さらに、厚生労働省が2026年3月に策定した「職場における熱中症防止のためのガイドライン」も確認し、WBGTの把握や作業管理、健康管理などを含めた対策を進める必要があります。
建設業界の事例から見る「制服改革」の考え方
警備業界では、熱中症対策としてファン付き作業着や冷却ベストなどの装備を活用する企業もあります。一方、現場で警備業務を行う時間だけでなく、通勤、移動、待機、休憩、事務作業などを含め、勤務全体で着用する服装を見直す視点も重要です。

その参考事例が、埼玉県八潮市で鉄筋工事事業を展開する株式会社松伸の取り組みです。同社は2026年夏を前に、女性社員がデザインしたオリジナルポロシャツを全社員へ支給しました。
同社では、現場作業中は安全確保のため長袖作業着を着用し、ファン付き作業着も活用しています。今回のポロシャツは、現場作業中の長袖作業着を一律に置き換えるものではなく、現場への移動や現場作業後、日常業務などでの着用を想定したものです。
この取り組みで注目したいのは、特定の作業中だけでなく、社員の一日の流れを踏まえて、着用する服装の役割を見直した点です。
作業中だけではない暑さへの負担に着目
建設現場では、安全確保のため、現場作業中に長袖作業着を着用する場合があります。松伸でも、現場作業中は長袖作業着やファン付き作業着を使用しています。一方、同社は、現場までの移動や作業終了後、日常業務など、現場作業以外の時間にも着目し、ポロシャツを導入しました。
警備会社でも、隊員は警備業務中だけでなく、営業所から現場への移動、待機、休憩、報告書作成など、勤務中のさまざまな場面で制服を着用します。制服を見直す際は、警備業務中の服装だけでなく、一日のどの場面で暑さや着用上の負担が生じているかを確認することが重要です。
制服は「支給品」から「働きやすさを支える装備」へ
松伸では、着用者や業務内容に応じて、ポロシャツの素材や仕様を分けています。現場職員と男性職員向けには、導電性繊維を使用し、UVカット機能を備えた素材を採用しています。女性事務職員向けには、吸汗速乾性に配慮した素材を採用しました。
一律の仕様を全社員へ適用するのではなく、着用する人や業務内容に応じて機能を選んでいる点も、警備会社が制服を見直す際の参考になります。
また、入社1年目の女性社員がデザインに携わり、実際に働く社員の視点を制服づくりへ取り入れています。
警備会社においても、制服は企業イメージや規律を示すだけでなく、毎日使用する業務装備です。着心地、動きやすさ、サイズ展開、現場環境への適応性を確認し、実際に着用する隊員の意見を取り入れることが重要です。
実務で進める制服改革|警備会社が確認したい5つのポイント

制服改革は、一度制服を変更すれば完了するものではありません。現場環境や隊員の意見を踏まえながら、継続的に改善していくことが重要です。ここでは、管理職や現場責任者が制服や夏服を見直す際に確認したいポイントを紹介します。
① 現場ごとに夏服の基準を見直しているか
交通誘導警備と施設警備では、求められる服装や暑熱環境が異なります。
例えば、直射日光を受けながら長時間勤務する交通誘導警備と、屋内で勤務することが多い施設警備では、適した制服や装備が同じとは限りません。
「すべての現場で同じ制服を使用する」と決めるのではなく、業務内容や勤務環境に応じて、必要な性能や装備の組み合わせを整理することが大切です。
また、公安委員会へ届け出ている警備員の服装を変更する場合は、服装の変更届出が必要です。製品の選定と並行して、届出の期限、必要な写真や添付資料、標章の表示方法などを、管轄する警察署へ確認しておきましょう。
② 制服の性能を把握しているか
制服を更新する際は、通気性や吸汗速乾性だけではなく、遮熱性能やUVカット性能、耐久性などを総合的に確認することが大切です。価格やデザインだけで選定すると、実際の現場環境に適さない場合もあります。
また、メーカーが示す性能表示だけで判断するのではなく、試験条件や使用環境も確認することが重要です。制服更新の際は、実際に着用する隊員の意見も参考にしながら、自社の現場に適した仕様を検討するとよいでしょう。
③ WBGTに応じた判断基準を設定しているか
熱中症対策では、気温だけでなく、WBGTを把握して現場の暑熱環境を評価することが重要です。
制服を見直す際も、特定の製品を導入するだけでなく、WBGTが一定の値に達した場合に、どの装備を追加するか、休憩や交代をどのように行うかを決めておく必要があります。
例えば、次の事項を整理します。
- WBGTを測定する場所と時間
- 測定を担当する人
- 休憩や交代を増やす基準
- 冷却装備を追加する基準
- 作業の中止や変更を検討する基準
現場責任者ごとに判断が分かれないよう、自社の基準を明文化しておくことが重要です。
④ 現場の声を反映する仕組みがあるか
制服を見直す際に欠かせないのが、実際に着用する隊員の意見を確認することです。管理側が快適だと考える仕様と、現場で働く隊員が感じる使いやすさには違いが生じる場合があります。
例えば、
「汗が乾きにくい」
「待機中に熱がこもる」
「女性用サイズの選択肢が少ない」
など、現場から出る意見は制服改善の参考になります。
制服を導入した後も、アンケートやヒアリングを通じて使用感を確認し、次回の更新時に反映できる仕組みを整えておくことが大切です。
制服を「会社が決めて支給するもの」ではなく、「現場とともに改善していく装備」と考えることで、より現場に適した運用につなげやすくなります。
⑤ 体調不良を早期に把握し、対応できる体制を整えているか
高機能な制服や冷却装備を導入しても、体調不良の発見や初期対応が遅れれば、症状が重くなるおそれがあります。
警備会社では、次の事項を事前に整理しておくことが重要です。
- 隊員が体調不良を誰へ報告するか
- 単独勤務の隊員をどのように確認するか
- 誰が作業からの離脱を判断するか
- 身体の冷却をどこで行うか
- 医療機関への受診や救急要請を誰が判断するか
- 緊急時に発注者や家族へ誰が連絡するか
2025年6月1日施行の改正労働安全衛生規則も踏まえ、制服や装備の選定だけでなく、報告体制と対応手順を関係者へ周知しておきましょう。
まとめ|制服の選定と現場運用を一体で見直す
猛暑が続くなか、警備会社には、休憩、水分・塩分補給、体調確認、緊急時対応などを組み合わせた熱中症対策が求められます。制服や夏服の見直しも、その一つです。
導入時には、通気性、吸汗速乾性、遮熱性、UVカット性能、耐久性などを確認するとともに、交通誘導警備、施設警備、移動、待機といった着用場面ごとに必要な仕様を整理することが重要です。
また、公安委員会へ届け出ている警備員の服装を変更する場合は、服装の変更届出が必要です。製品の選定だけでなく、標章の表示、発注者との調整、試着、隊員への周知まで含めて準備しましょう。
まずは隊員へヒアリングを行い、「どの現場や時間帯で暑さを感じるか」「現在の制服にどのような不便があるか」を把握することが出発点です。その上で、WBGTに応じた休憩や装備の使用基準、体調不良時の報告・対応手順と合わせて改善を進めることが重要です。
警備NEXT(警備ネクスト)では、警備業界の最新動向と実務に役立つ情報を継続的に発信しています。