気象庁は、気温40℃以上の日を新たに「酷暑日」と位置づける方針を示しました。これまでの「猛暑日(35℃以上)」をさらに上回る環境が、もはや例外ではなくなりつつあります。
こうした中、WBGT(暑さ指数)近似値を検知し、危険を警告する腕時計型ウェアラブルセンサーが2026年夏に発売されることが発表されました。開発・販売を手がける企業は、屋外作業者の安全管理を主眼に据えています。
警備員の熱中症対策はこれまで「注意喚起」や「装備強化」が中心でしたが、酷暑日という新たな環境下では、その前提自体が変わりつつあります。
本記事では、この新デバイスの特徴とともに、警備業界の現場管理がどう変わるのかを読み解きます。
「酷暑日」が意味するもの|警備業界への現実的な影響
40℃以上を示す「酷暑日」という言葉は、単なる呼称の追加ではありません。警備業界にとっては、これまでの安全管理基準が通用しなくなる可能性を示唆しています。
従来、熱中症対策は「猛暑日をどう乗り切るか」という発想で組み立てられてきました。しかし、酷暑日が現実的に発生する環境では、そもそも長時間の屋外業務が成立するのかという根本的な問いが生まれます。
特に交通誘導警備(工事現場等での車両・歩行者の誘導業務)や雑踏警備では、現場条件の制約から、完全な暑熱回避は困難です。そのため、これまで以上に個人ごとのリスクを精密に把握し、早期に介入する管理が求められます。
また、労働契約法第5条に基づく安全配慮義務の観点からも、環境リスクが明確になった以上、「把握していなかった」という説明は通用しにくくなります。
第5条(労働者の安全への配慮)
使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。
=厚生労働省_労働契約法第5条
酷暑日という概念は、企業に対してより高度なリスク管理を求める前提条件になりつつあります。
発売されるWBGTセンサー腕時計とは何か
今回TOMONARI株式会社から発表されたのは、WBGT(暑さ指数)の近似値をリアルタイムで検知し、一定の危険水準に達すると装着者に警告を発するウェアラブルデバイスです。腕時計型であるため、常時装着が前提となっており、現場での運用負荷を抑えながら継続的なモニタリングが可能です。
WBGT(暑さ指数)とは
人体と外気との熱のやりとり(熱収支)に着目した指標で、人体の熱収支に与える影響の大きい ①湿度、 ②日射・輻射(ふくしゃ)など周辺の熱環境、 ③気温の3つを取り入れた指標です。
ー環境省_熱中症予防情報サイト
この製品の特徴は、そのWBGTを「個人単位」で把握できる点にあります。従来は現場単位での測定が主流でしたが、実際には立ち位置や時間帯、装備状況によって環境は大きく変化します。さらに、体調や年齢といった個人差も影響します。腕時計型センサーは、こうしたばらつきを前提に、その場・その人のリスクを可視化するという新しいアプローチを提供します。※2026年6月ごろ発売

業界へのインパクト|「耐える現場」から「止める現場」へ
このデバイスがもたらす変化は、単なる装備の進化にとどまりません。警備業界の現場運用そのものに影響を与える可能性があります。
1. 判断基準の標準化と証拠化
これまでは「顔色が悪いから休ませる」といった属人的な判断が主でした。センサーの導入により、「WBGTが31(危険レベル)を超えたら即座に配置交代」という明確なルール運用が可能になります。これは、労災事故が発生した際の「会社として適切な措置を講じていたか」という法的立証の観点でも極めて重要です。
2. 発注者(ゼネコン・イベント主催者)への交渉力
2025年6月の労働安全衛生規則改正により、熱中症対策は「努力義務」から事実上の「義務」へと格上げされました。警備会社は、デバイスから得られた客観的なデータをもとに、「これ以上の連続勤務は危険である」と発注者へ根拠を持って主張でき、無理な工期や配置に対する抑止力となります。
現場での活用をどう設計するか
一方で、このようなデバイスは導入しただけでは機能しません。実務で成果を出すためには、運用設計が不可欠です。
まず検討すべきは、どの現場から導入するかです。酷暑日が想定される環境、長時間の直射日光下での業務、高齢隊員の配置など、リスクの高い条件を優先することで、効果を最大化できます。
次に重要なのが、アラートへの対応です。警告が出た際の行動が明確でなければ、現場は判断に迷い、結果として従来の運用に戻ってしまいます。休憩、交代、作業中断といった選択肢を、数値に応じてあらかじめ整理しておく必要があります。
さらに、隊員への周知も欠かせません。デバイスはあくまで補助であり、最終的には人の判断が介在します。「異変を感じたら申告する」という基本行動と組み合わせて初めて、安全管理として機能します。
まとめ|酷暑日とウェアラブルが変える警備の常識
気象庁が示した「酷暑日」という新たな基準は、警備業界に対して環境リスクの再認識を迫るものです。そこに登場したWBGTセンサー搭載の腕時計は、そのリスクに対する具体的な対応手段の一つと言えます。
重要なのは、この製品を単なる新商品として捉えるのではなく、管理手法の変化の兆しとして見ることです。経験に依存した現場から、データに基づく判断へ。その流れは今後さらに加速する可能性があります。
【警備会社が次に取るべきアクション】
・安全管理マニュアルの改訂
数値(WBGT)に基づいた休憩・作業中断の基準を明文化しましょう。
警備会社としては、自社の現場におけるリスクと管理体制を見直し、このような新しいツールをどのように取り入れるかを検討する段階に入っています。
・自社現場の「直射日光」エリアを再確認する
どの現場が最も「酷暑日」のリスクが高いか優先順位をつけましょう。
・最新デバイスのデモ機確保
夏本番前に、操作性やアラートの視認性を現場の隊員にテストしてもらいましょう。
警備NEXTでは、業界の法令動向や事案を継続的にウォッチし、現場に役立つ視点でお届けしています。
※本記事は公開情報をもとに編集部が作成したものです
参考文献
- プレスリリース「2026年夏発売!WBGT近似値をリアルタイム警告する 法人向け「ウェアラブル熱中症対策センサー」新登場」(2026年3月2日公表)