「熱中症対策をしていたはずなのに、現場で隊員が倒れた」
近年、そんな事故報告が全国で増えています。特に交通誘導警備(工事現場等での車両・歩行者の誘導業務)は、炎天下で長時間立ち続ける業務が多く、警備業界は熱中症リスクが高い業種のひとつとして認識されるようになっています。そうした中、厚生労働省が2026年も実施する「STOP!熱中症 クールワークキャンペーン」が注目されています。
今回のキャンペーンで特徴的なのは、「気をつけましょう」という注意喚起だけではなく、“企業が具体的に何を管理すべきか”がかなり明確に示されている点です。つまり今後は、「対策しているつもり」では不十分になる可能性があります。
本記事では、厚生労働省の発表内容をもとに、警備会社が押さえるべき3つの実務対応を整理しながら、現場で実際にどう運用していくべきかをお伝えします。
「STOP!熱中症 クールワークキャンペーン」とは何か
厚生労働省は毎年、職場での熱中症予防を目的に「STOP!熱中症 クールワークキャンペーン」を実施しています。2026年も5月から9月にかけて実施され、中央労働災害防止協会や全国警備業協会なども主唱団体として参加しています。背景にあるのは、熱中症による労働災害の増加です。
厚生労働省によると、令和7年の職場における熱中症死傷者数は1,681人。前年から大幅に増加しており、死亡災害も発生しています。特に建設業や警備業など、屋外業務を伴う業種ではリスクが高く、業界全体として「夏の安全管理」が避けて通れないテーマになっています。
警備業界では以前から、「水分を取れば大丈夫」「空調服を着ていれば安心」「経験者なら慣れている」という感覚で運用される現場もありました。
しかし近年の猛暑は、そうした“経験則”だけでは対応できないレベルになっています。実際、熱中症は突然倒れるだけではありません。集中力や判断力が低下することで、誘導ミスや接触事故につながるケースもあります。
つまり警備業界における熱中症対策は、「健康管理」だけではなく、“事故防止”の意味合いも強くなっているのです。

実務対応① 「WBGT値の把握」が現場運営の基準になり始めている
今回のキャンペーンで、特に重視されているのがWBGT値の管理です。WBGTとは、気温だけでなく、
- 湿度
- 輻射熱(地面や建物から受ける熱)
- 風の影響
などを総合的に加味した「暑さ指数」のことです。
これは警備業界にとって、かなり大きな変化と言えます。これまで現場では、「今日は暑いから気をつけよう」という感覚的な管理が多くありました。しかし現在は、“数値を基準に運用を変える”ことが求められ始めています。
特に交通誘導警備では、同じ気温でも、アスファルト上か、日陰があるか、風通しが悪いか、によって体感負荷が大きく変わります。つまり、単純な温度だけでは危険度を判断できないのです。そのため最近では、携帯型WBGT計を導入する警備会社も増えています。朝礼時に数値を共有したり、管制側で危険度を把握したりする運用も広がり始めています。
ここで重要なのは、「測ること」が目的ではない点です。本当に大切なのは、WBGT値に応じて現場運営を変えることです。
例えば、危険度が高い日は、
- 休憩回数を増やす
- 配置時間を短縮する
- 日陰待機を増やす
- 隊員交代を前倒しする
といった対応が必要になります。つまりWBGT管理とは、“現場判断を数値化する仕組み”なのです。
実務対応② 「倒れる前提」で重篤化防止体制を作る必要がある
今回のキャンペーンでは、「熱中症を発生させない」だけでなく、“重症化させない体制づくり”も重点項目として示されています。これは現場管理者にとって非常に重要な視点です。というのも、熱中症事故では、「発症そのもの」よりも、“対応の遅れ”が重大化につながるケースが少なくないからです。
例えば警備現場では、「少し休めば戻れると思った」「本人が大丈夫と言った」「忙しくて確認できなかった」といった理由で初動が遅れることがあります。
しかし熱中症は、短時間で急激に悪化するケースがあります。特に交通誘導警備は単独配置も多く、異変に気づきにくいことが特徴です。だからこそ現在は、「本人任せ」にしない管理が求められています。最近では、定時連絡や無線チェックを細かく設定する企業も増えています。
- 30分ごとの体調確認
- 無線応答ルールの徹底
- 異常時の救急判断フロー共有
などを整備することで、“気づけないリスク”を減らそうとしています。ここで重要なのは、「倒れないようにする」だけではなく、「倒れた時にどう動くか」を決めておくことです。実際の現場では、責任感が強い隊員ほど無理をしやすい傾向があります。そのため管理側には、“休める空気”を作ることも求められます。
「無理をしない」が評価される文化に変えられるか。そこが、これからの警備会社の安全管理で大きな差になっていくでしょう。
実務対応③ 持病・高齢化への配慮は避けて通れない
今回のクールワークキャンペーンで、特に現場責任者が意識したいのが、「基礎疾患を持つ労働者への配慮」です。厚生労働省は、高血圧や糖尿病など、熱中症リスクを高める疾病を持つ労働者について、医師の意見を踏まえた対応を求めています。
これは警備業界にとって非常に現実的なテーマです。警備業界では高齢化が進んでおり、60代・70代の就業者も少なくありません。もちろん経験豊富な隊員は現場に欠かせない存在ですが、一方で、
- 血圧管理
- 脱水リスク
- 服薬影響
などを考慮しなければならないケースも増えています。ただ実際の現場では、「本人が大丈夫と言っているから」という理由で、そのまま配置されていることもあります。しかし今後は、“把握していないこと”自体がリスクになる可能性があります。もちろん、過度な個人情報管理は難しい部分もあります。ただ、「健康診断後の確認」「高負荷現場への配置配慮」「申告しやすい雰囲気づくり」など、会社としてできることはあります。特に警備業界では、「仕事を減らされたくない」という理由で不調を隠すケースも珍しくありません。だからこそ重要なのは、“申告しても不利益にならない空気”です。熱中症対策は、単なる装備導入ではありません。
隊員の健康状態も含めて考える、“現場マネジメント”そのものに変わり始めているのです。
警備会社に求められるのは「暑さに耐える現場」ではなく「暑さを管理できる現場」
今回のクールワークキャンペーンを通じて見えてくるのは、「根性論からの脱却」です。以前は、「夏はきつくて当たり前」「暑さに慣れるしかない」という考え方もありました。しかし現在の猛暑環境では、それだけでは現場を守れません。
実際、警備業界では近年、
- ファン付き作業服
- ネッククーラー
- WBGT計
- 冷却休憩スペース
などを導入する企業が増えています。さらに最近では、“暑さ対策をしている会社か”が採用にも影響しています。若手人材ほど、「安全配慮があるか」「無理を強要しないか」を見ています。つまり熱中症対策は、単なるコストではなく、“会社の信頼”そのものになりつつあるのです。
まとめ|「気をつける」だけでは守れない時代に入っている
厚生労働省の「STOP!熱中症 クールワークキャンペーン」は、猛暑時代の現場運営が大きく変わり始めていることを示しています。特に警備業界では、交通誘導警備を中心に熱中症リスクが高く、事故防止・労災防止・人材定着のすべてに関わる課題になっています。今回、重点的に示されたのは、
- WBGT値による管理
- 重篤化防止体制の整備
- 持病を持つ労働者への配慮
という3つの視点でした。共通しているのは、「個人任せにしない」という考え方です。これからの警備会社に求められるのは、“暑さに耐える現場”ではなく、“暑さを管理できる現場”です。
今年の夏、自社の熱中症対策が本当に現場を守れているか。今一度、現場運営そのものを見直すタイミングに来ているのかもしれません。
警備NEXTでは今後も、警備業界の安全管理・法令・現場改善に関する最新情報を継続的に発信していきます。
※本記事は公開情報をもとに編集部が作成したものです。
参考文献
- 厚生労働省プレスリリース「STOP!熱中症 クールワークキャンペーン!職場における熱中症対策の強化期間です!! ~報告体7制の整備、手順等の作成、それらの周知が義務付けられています~」(2026年5月7日公表)
- 厚生労働省「職場における熱中症予防情報」