2026年3月、小田急線の一部駅において、行動認識AIを活用した警備システム「AI Security asilla(アジラ)」の導入が始まりました。多くの人が行き交う鉄道駅という公共空間において、AIによるリアルタイム監視が本格的に運用される事例として、警備業界からも注目を集めています。本取り組みは、株式会社アジラと株式会社小田急ビルサービスの連携によって実現したものです。慢性的な人手不足が続く警備業界において、AIを活用した新しい駅警備のあり方を示す事例として、今後の展開にも関心が集まっています。
既存カメラを活用した「行動認識AI」とは
今回導入された「AI Security asilla」は、既存の防犯カメラ映像をもとに、人の行動をAIが解析するシステムです。24時間365日、映像を自動的に分析し、異常や注意が必要な行動をリアルタイムで検知します。
検知対象となるのは、暴力行為や転倒、侵入といった明確な異常だけではありません。徘徊や混雑、体調不良など、事故やトラブルにつながる可能性のある行動も捉えることができます。
これまでこうした兆候の発見は、人の目に頼る部分が大きいものでした。特に駅構内のように人の動きが多く、死角も存在する環境では、すべてを見守り続けることは容易ではありません。その点で、AIが常時監視を担うことで、見逃しのリスクを減らせる点は大きな特徴といえます。
異常が検知された場合には、駅員や管理者に即時通知される仕組みとなっており、初動対応の迅速化にもつながります。
小田急線での活用内容 “安全”と“サービス”の両立へ
今回の小田急線での取り組みでは、安全対策に加えて、利用者サービスの向上にもつながる点が特徴です。特に注目されているのが、車椅子や白杖を利用している方など、サポートが必要な利用者をAIが検知する機能です。AIが対象者を認識すると、駅員へ通知が届く仕組みとなっており、あらかじめ対応の準備を整えることができます。
これまでこうした対応は、駅員が目視で気づくか、利用者からの申し出によるケースが中心でした。しかしAIによって事前に把握できるようになることで、改札でのサポートや乗降時の対応がよりスムーズになることが期待されます。このように、今回の導入は単なる防犯強化にとどまらず、駅全体のサービス品質向上にも寄与する取り組みといえるでしょう。

人手不足時代におけるAI警備の現実的な選択肢
警備業界では現在、慢性的な人手不足が続いています。特に施設警備や常駐警備では、長時間にわたる監視業務や巡回業務の負担が大きく、人材確保や定着に課題を抱えている現場も少なくありません。
こうした状況の中で、asillaのようなAIシステムは現実的な選択肢の一つとして注目されています。AIが常時監視を担うことで、警備員の負担を軽減しつつ、見逃しのリスクを減らすことができます。
また、既存のカメラ設備をそのまま活用できる点も導入しやすさにつながっています。新たに大規模な設備投資を行わずに導入できるため、コスト面でも検討しやすい点は現場にとって大きなメリットです。
鉄道警備におけるAI導入の意味
鉄道駅は、不特定多数の人が利用する空間であり、さまざまなリスクが日常的に存在しています。転倒事故や体調不良、ホームでの接触事故、不審行動など、対応が求められる場面は少なくありません。
従来の警備では、巡回やモニター監視を中心に対応してきましたが、どうしても「発見までに時間がかかる」という課題がありました。
AIの導入によって、この構造は少しずつ変わり始めています。異常が発生してから対応するのではなく、その前兆をいち早く捉えることができるようになり、より早い段階での対応が可能になります。こうした変化は、鉄道警備の在り方そのものを見直すきっかけになるかもしれません。
AIは“代替”ではなく“支援”の存在
今回の取り組みを見ていると、「AIが警備員の仕事を置き換えるのではないか」と感じる方もいるかもしれません。しかし実際には、AIは人の仕事を奪うというよりも、支える役割を担っているように見えます。
AIは膨大な映像を常に監視し、異常の兆しを見つけることに長けています。一方で、現場で状況を判断し、適切に対応するのはやはり人の役割です。
つまり、AIが「気づく力」を担い、人が「対応する力」を発揮するという形で役割分担が進んでいくと考えられます。このバランスが取れることで、警備の質はより高まっていくのではないでしょうか。
今後の展望 広がるAI活用の可能性
今回の小田急線での導入は一部駅からのスタートですが、今後は他の駅や施設への展開も期待されます。AIによる警備が実際の現場で有効に機能することが確認されれば、導入の流れはさらに広がっていくでしょう。
また、行動認識AIの技術は進化を続けており、今後はより多様なリスク検知や分析への活用も進むと見られています。駅だけでなく、商業施設やイベント会場、空港など、さまざまな場所での活用が想定されます。
警備の現場において「AIをどう使うか」ではなく、「AIを前提にどう運用するか」という視点が、これからは重要になっていくのかもしれません。
まとめ
小田急線で始まったAI警備の導入は、警備の在り方に新しい視点をもたらす取り組みです。既存設備を活用しながらリアルタイムで状況を把握し、利用者対応の質も高めていくという点は、多くの現場にとって参考になるのではないでしょうか。人手不足という課題が続く中で、AIとどのように役割分担をしていくかは、今後の警備業界にとって重要なテーマです。今回の事例は、その一つの方向性を示しているといえそうです。
今後の展開にも引き続き注目していきたいところです。
警備NEXT(警備ネクスト)では、今後も現場実務に役立つ知見や情報を発信してまいります。日々の業務改革や将来の体制づくりに、少しでもお役立ていただければ幸いです。
参考文献
〇プレスリリース「小田急線一部の駅において「AI Security asilla」を導入」(2026年3月5日公表)