警備業界では長年、「人が定着しない」という課題があり採用に力を入れても、一定数は短期間で現場を離れてしまう…多くの警備会社がこの構造的な課題に直面しています。
こうした中、警備員の行動データをAIで分析し、離職を検討している可能性のある人材を事前に検知するという実証研究が株式会社strayaと株式会社トスネットの共同研究結果として発表されました。本研究では、対象となった警備員のうち約14%が「離職予備軍」として検知されたとされています。
本記事では、この実証研究が示した内容をもとに、警備業界にとって何が示唆されたのかを整理します。
警備業界で離職対策が難しい理由
警備業界で離職対策が特に難しいとされる背景には、警備という仕事特有の働き方・現場構造があります。
勤務形態の特殊性
- 管理者が日常的に現場の様子を把握しにくい
- 隊員同士の変化に気づくきっかけが少ない
警備業務は、24時間体制のシフト勤務や常駐勤務が多く、同じ現場でも勤務時間帯が異なる隊員同士が顔を合わせる機会は限られがちでこういった状況が生まれやすくなります。
現場単位で完結しやすい人間関係
- 相談できる相手がいない
- 本音を話す機会がない
警備員は、配置される現場ごとに働くケースが多く、少人数体制や単独勤務になる現場も珍しくありません。
不満や違和感が内側に溜まりやすい構造があります。
業務の性質上、不満が表に出にくい
- 巡回
- 立哨
- 出入管理
など、一定のルーティンを正確にこなすことが求められる仕事です。
接客業のように感情が表に出る場面が少ないため、ストレスや不満を抱えていても、勤務態度としては「問題なく見える」ケースが多くなります。
その結果、管理者が異変に気づいた時には、すでに退職の意思が固まっている──という状況が起きやすいのです。
「問題が起きにくい現場」ほど気づきにくい
警備業務では、事故やトラブルが起きていないこと自体が「良い状態」と評価されがちです。
- モチベーションの低下
- 体調面・精神面の負担
- 現場への不満
が静かに進行している場合もあります。

研究結果①|AI×対面コミュニケーションで「離職予備軍」を効率的に検知
今回の実証研究では警備員の勤務データをもとに構築したAIモデルを活用し、離職リスクが高いと推定される警備員層を抽出しました。その後、抽出された高リスク層に対して、関係企業が合同で対面による面談を実施。
その結果、面談対象者のおよそ14%が、実際に離職の可能性を抱えている「離職予備軍」であることが確認されました。
注目すべき点は、”問題行動が起きてから対応したのではなく「まだ表面化していない段階」で兆しを捉えている”ことです。
この結果は、データ分析に基づくアプローチが、従来の経験や勘に頼る方法と比べ、効率的に「防ぐべき離職の兆候」を捉えられる可能性を示しています。また、業務区分や勤務形態といった要素を掛け合わせることで、多様な働き方と離職リスクの関連性を把握できた点も重要な成果と言えるでしょう。
研究結果②|離職抑制の最大の鍵は「入社後6ヶ月以内」
実証研究では、警備員の勤務データを期間別に分析し、離職が発生しやすいタイミングについても明らかにしています。
分析の結果、
- 全退職者の約52%が入社後6ヶ月以内に離職
- さらに約22%は入社後0〜1ヶ月以内という、極めて早い段階で離職
していることが判明しました。この数字は、離職対策の成否が「入社後6ヶ月以内」に大きく左右されることを示しています。特に、この早期離職層には、
- 入社前に抱いていたイメージ
- 実際の勤務内容や環境
との間に生じる「期待と現実のギャップ」が要因となる、いわば防ぐことが可能な離職が多く含まれていると考えられます。
離職1名の回避がもたらす経済インパクト
今回の研究では、警備員1名の離職を回避できた場合の経済的影響についても試算が行われています。
一般的な警備会社を想定した場合、警備員1名が離職せずに1年間勤務を継続した場合の年間リターンは、約340万円に達するとされています。内訳は以下の通りです。
- 採用・教育コストの回避:約80万円
新規採用から戦力化までに必要な採用費・研修費の削減 - 年間売上貢献の維持:約260万円
警備員が継続勤務することで失われずに済む売上(機会損失の回避)
この試算は、離職対策が単なる人事施策ではなく、経営判断そのものであることを示しています。
「14%の発見率」が持つ意味
離職予備軍を約14%の確率で事前に把握できるという事実は、単なる数字以上の意味を持ちます。
仮に、10名のうち1名の離職を防げる可能性が高まるとすれば、それだけで数百万円規模のリターンを守れる可能性があるということです。
重要なのは、全員を完璧に防ぐことではなく、防げる離職に早く気づける仕組みを持つこと。
その価値が、データとして可視化された点にあります。
AIは魔法の道具ではない──警備会社が考えるべき活用視点
今回の実証研究は、「AIがあれば離職が防げる」という話ではありません。
- AIは経営者、管理者の判断を補助する
- 声かけやフォローの“きっかけ”をつくり補助するツールである
しかし、気づくタイミングが早まるだけで、取れる選択肢は大きく変わるという点は、警備経営にとって見逃せない示唆と言えるでしょう。
まとめ|「辞める前に気づけるか」が警備経営を左右する
警備業界における離職は決して突発的な出来事ではありません。今回の実証研究は、「辞める兆しはデータとして捉えられる可能性がある」という点を示しました。
2026年以降、人材確保がさらに難しくなる中で、離職を防ぐ視点は“採用”ではなく“気づき”に移りつつあります。
警備会社にとって、「辞める前に気づける仕組みを持てるかどうか」それ自体が、重要な経営判断になりつつあるのかもしれません。
警備NEXT(警備ネクスト)では、今後も現場実務に役立つ知見や情報を発信してまいります。日々の業務改革や将来の体制づくりに、少しでもお役立ていただければ幸いです。