警備業界では、春の採用後しばらく経ったタイミングで、新人警備員の離職が目立つことがあります。
人事・教育を担当している方の中には、
- 「採用時の見極めが甘かったのではないか」
- 「本人の覚悟や適性の問題ではないか」
と感じた経験がある方も多いかもしれません。
しかし、春採用後に起こる離職の多くは、個人の資質だけで説明できるものではありません。
この時期特有の採用構造や育成プロセスの中で、新人と現場の間に生まれる“現場ギャップ”が、静かに離職を後押ししているケースが少なくないのです。
本記事では、新人警備員の離職理由を単なる個人要因として捉えるのではなく、人材育成・教育の視点から整理し、現場ギャップの正体と、育成側ができる対策について考えていきます。
春採用後に新人警備員の離職が増えやすい理由
警備業界の春採用は未経験者・若年層が多い
警備業界の春採用では、比較的に未経験者や若年層の比率が高くなる傾向があります。
新卒や異業種からの転職者など、警備の仕事に初めて触れる人材が多く、社会人経験そのものが浅いケースも珍しくありません。
こうした新人は、「警備員」という仕事を言葉やイメージでは理解していても、実際の現場で求められる行動や責任の重さを、具体的に想像できていない状態で入社していることが多いのが実情です。
研修から現場配属までの期間が短くなりやすい
春は人手需要が高まりやすく、現場側も早期の人員配置を求めがちです。
その結果、研修期間が十分に確保できないまま、現場配属が進むケースも見られます。
知識としては理解していても、「なぜその行動が必要なのか」「現場ではどの場面で使うのか」といった部分まで落とし込めないまま現場に立つことで、新人は早い段階で不安や戸惑いを抱えやすくなります。
新人警備員の主な離職理由
離職理由① 仕事内容を具体的にイメージできないまま配属される
新人警備員の離職理由として多く聞かれるのが、「思っていた仕事内容と違った」という声です。採用時や研修中に「安全を守る仕事」「人の流れを管理する仕事」と説明していても、それが実際の現場でどのような行動につながるのかまで、具体的にイメージできている新人は多くありません。
実際の現場では、立哨業務のように長時間集中力を保ち続ける仕事や、細かなルールを常に意識しながら周囲へ配慮する業務が続きます。
時間の進み方が想像以上に遅く感じられ、「こんなに長いとは思わなかった」と戸惑う新人も少なくありません。
交通誘導警備では、声掛けのタイミングや言葉選び一つで通行人やドライバーの反応が変わり、頭では理解していても実際に声を出す場面で対応できず、落ち込んでしまうケースも見られます。
施設警備においても、「何も起きない時間」が続く中で常に緊張感を保ち続ける責任の重さに、精神的な疲労を感じる新人は少なくありません。
こうした業務のリアルは、事前に説明していても、体感するまでは理解しづらい部分です。
育成側が「説明はした」と感じていても、新人にとっては「初めて直面する現実」であり、その差が大きいほど、仕事への不安や違和感は強まりやすくなります。
離職理由② 指導や教育が“経験者前提”になっている
現場での指導方法も、新人にとって大きな壁になりがちです。警備業界には、長年の経験によって培われた暗黙のルールや独特の言い回しが多く存在します。指導する側にとっては当たり前のことでも、新人にとっては初めて聞く内容ばかりです。
とくに「いつものやり方で」「前も説明したよね」「そこは常識だから」といった言葉は、経験者には便利でも、新人からすると理解の糸口を失わせてしまいます。
また、専門用語や略語が多用されると、新人は「分からない」と言い出しにくくなります。
「何度も聞くのは迷惑ではないか」「自分だけ理解できていないのではないか」と感じ、質問を控えてしまうのです。
指導する側としては業務上必要な注意をしているつもりでも、新人はそれを「怒られている」「否定されている」と受け取ってしまうことがあります。
こうしたすれ違いが続くと、新人は自信を失い、現場での居場所を見出せなくなっていきます。
離職理由③ 現場配属後に新人が孤立しやすい
研修期間中はフォローが手厚くても、現場配属後に一気に関わりが減ってしまうケースは少なくありません。警備業務の特徴として、新人が一人で過ごす時間が長くなりやすい点は見過ごされがちです。
単独配置や少人数体制の現場では、勤務中にほとんど誰とも会話をせず、一日が終わることも珍しくありません。
業務自体はこなせていても、
「これで合っているのだろうか」
「もし何かあったらどう対応すればいいのか」
といった不安を抱えたまま、誰にも相談できない状態が続いてしまいます。
新人の多くは、強い不満や不安をすぐに口にするわけではありません。
「もう少し頑張ってみよう」「慣れれば大丈夫かもしれない」と自分の中で抱え込み、周囲からは問題なく働いているように見えることも多いのです。
その結果、育成側が気づいたときには、新人がすでに退職の意思を固めているというケースが起こります。
現場配属後の孤立は、最も見えにくく、かつ離職につながりやすい要因と言えるでしょう。
離職理由④ 勤務条件・生活リズムの認識ズレ
警備業務は、シフト制勤務や早朝・夜間業務など、生活リズムに影響を与える要素が多い仕事です。
採用時に条件説明をしていても、新人が実際の生活への影響まで具体的に理解できているとは限りません。
待機時間の考え方や拘束時間の感覚は、経験がないとイメージしにくく、「こんなに時間を取られるとは思わなかった」という不満が、入社後しばらくしてから表面化することがあります。
このギャップは制度の問題というよりも、説明のタイミングや伝え方の問題である場合が多く、春採用後に離職が増えやすい一因となっています。

新人警備員の早期離職を防ぐために育成側ができること
配属前に「現場のリアル」を具体的に伝える
働きやすさややりがいを伝えることは大切ですが、警備業ならではの大変さや、現場ごとの違いも事前に共有しておくことが重要です。
良い面だけでなく、「実際にはこういう場面がある」「慣れるまではこうした点が大変」と具体的に伝えることで、入社後のギャップを減らすことができます。
配属後1か月は“育成期間”としてフォローする
現場配属をもって教育が終わるわけではありません。
とくに配属後1か月程度は、新人が不安や違和感を最も抱えやすい時期です。
人事・教育担当者が意識的に声をかけ、「困っていることはないか」「不安に感じている点はないか」を確認するだけでも、新人の心理的負担は大きく軽減されます。
現場責任者と人事・教育担当の役割を分けて連携する
新人の定着を個人の努力や現場の善意に委ねてしまうと、育成が属人化してしまいます。
業務面は現場、精神面や不安のケアは人事・教育担当と役割を分け、情報を共有することが重要です。
フォローを“仕組み”として設計することで、新人だけでなく、現場責任者の負担軽減にもつながります。
まとめ|春採用後の離職を「仕方ない」で終わらせないために
春採用後に新人警備員の離職が増えてしまう背景には、「本人の覚悟不足」や「適性の問題」といった単純な理由では説明できない、育成設計や現場運用、情報伝達のズレが存在しています。
多くの場合、離職の原因は大きなトラブルではなく、日々の業務の中で感じる小さな不安や違和感の積み重ねです。
人材育成を担う立場として重要なのは、「なぜ辞めたのか」を個人の問題として終わらせるのではなく、「どの段階で期待と現実が食い違ったのか」を振り返り、次に活かす視点を持つことです。
春採用は、警備業界にとって将来を担う人材と出会える貴重な機会です。
新人が安心して現場に立ち、長く働き続けられる環境を整えることが、結果として現場の安定やサービス品質の向上にもつながっていくはずです。
警備NEXT(警備ネクスト)では、現場で役立つ知識や警備員の声をこれからも発信していきます。日々の勤務に少しでも役立ててもらえたら幸いです。