属人化をなくす!誰でも引き継げる“管制DX”の仕組みづくり

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警備会社の運営において、隊員の配置やシフト管理、欠員対応、報告の確認を担う「管制」は、現場を支える中枢的な役割です。しかし、交通誘導警備、施設警備、雑踏警備といった業務は、種類によって求められるスキルや条件が大きく異なります。そのため、管制担当者には日々、多くの情報を踏まえた高度な判断が求められます。

その結果、業務が特定の担当者の経験や勘に依存しやすく、「あの人でないと回らない」といった属人化が起こるケースも少なくありません。加えて、警備業界では人手不足や働き方改革の影響により、管制担当者の負担が増加し、業務の継続性や品質維持が課題となっています。

こうした背景から、業務の標準化と引き継ぎやすい仕組みづくりが求められており、その手段として「管制DX(管制業務のデジタル化・見える化)」に注目が集まっています。本記事では、管制業務がなぜ属人化しやすいのか、DXによって何が変えられるのかを解説します。

管制業務が属人化しやすい理由

現場ごとに必要な条件が異なり、判断が複雑になりやすい

管制業務が属人化しやすい理由のひとつは、「現場ごとに前提条件が違う」ことです。

交通誘導警備では、2号警備(交通誘導・雑踏警備などを含む業務区分)にあたる現場も多く、交通誘導警備業務2級などの有資格者が必要なケースや、周辺の道路状況を踏まえた配置が求められます。施設警備では、防犯設備の扱い方、巡回ルート、受付対応のルールなど、建物ごとの運用ルールを理解しておく必要があります。雑踏警備では、来場者の流れや導線、混雑しやすい時間帯などを踏まえた人員配置がポイントになります。

こうした条件を同時に考えながら、「誰を、どの現場に、どの時間帯で配置するか」を判断しなければならないため、経験を重ねた担当者ほど判断が速くなります。その一方で、判断の根拠が頭の中にしかない状態になりやすく、結果として属人化が進んでしまいます。

情報が散在し、判断基準が共有されにくい

もうひとつの理由は、判断に必要な情報がバラバラな形で存在していることです。

紙の日報や引き継ぎノート、Excelの勤務表、個人的なメモ、電話や口頭での申し送りなど、情報源が複数に分かれていると、新しく管制を担当する人がすべてを把握するのに時間がかかります。「この現場の注意点はどこに書いてあったか」「この隊員はどの時間帯が希望なのか」といった情報が、担当者の記憶や感覚の中に閉じてしまうと、「知っている人が一番早い」という状態から抜け出せません。

こうした構造的な要因が重なり、管制業務はどうしても属人化しやすくなってしまいます。

DXで改善される管制業務の判断と確認のプロセス

DXは、単に紙の帳票をデジタルに置き換えることではありません。判断に必要な情報を整理し、誰が担当しても同じ条件で判断しやすい状態をつくることを目的としています。

情報の一元化で、判断基準を会社の資産にする

DXによって、隊員の資格・勤務履歴・希望条件・NG条件・現場ごとの注意事項といった情報を、1つの仕組みの中で確認できるようにすると、担当者は記憶に頼らずに判断できます。
なぜこの人をこの現場に配置したのか」という判断の背景も、データとして確認しやすくなります。

こうした情報が蓄積されていくことで、「経験豊富な担当者だけが知っていたこと」が会社全体の資産として共有されるようになり、引き継ぎの際も説明にかかる時間を抑えやすくなります。

欠員調整の“探し方”を手順化し、判断のばらつきを減らす

欠員調整は、管制業務の中でも特にストレスが大きい部分です。急な体調不良や交通事情などで現場に行けなくなる隊員が出たとき、頭の中で条件を整理しながら候補者を探していくのは、時間も集中力も必要とされます。
DXでは、たとえば次のような条件を組み合わせて候補者を検索できるようにすることで、「探し方」そのものを手順化することができます。

  • 必要な資格や技能を持っているか
  • 直近の勤務状況(連続勤務になっていないか など)
  • 希望休・NG条件とぶつからないか
  • 過去に同じ現場を経験しているか
  • 勤務地との距離や移動時間は現実的か
    こうした条件が画面上で整理されていれば、担当者が代わっても、同じ基準で候補者を検討しやすくなります。

報告書の統一で、確認の精度とスピードを高める

現場からの報告は、警備品質を守るうえで欠かせない情報です。上番(開始報告)・下番(終了報告)、巡回結果、異常時の対応内容などの書き方にばらつきがあると、確認に時間がかかったり、重要な情報を見落としたりするリスクが高まります。

DXで報告書のフォーマットを統一すると、必要な項目があらかじめ決まっているため、記入漏れを防ぎやすくなります。写真や位置情報を添付できる仕組みがある場合は、自席からでも現場の様子をイメージしやすくなり、後から振り返る際の材料としても役に立ちます。

DXがもたらす現場と会社の変化

DXによって管制業務の仕組みを整えると、日々の運用や会社全体のマネジメントに、次のような変化が期待できます。ただし、これらはツールを導入しただけで自動的に実現するものではなく、運用の設計と定着のプロセスが伴ってこそ意味を持ちます。

担当者が交代しても業務が止まりにくくなる

情報が整理され、判断の基準が可視化されると、担当者が交代しても業務を引き継ぎやすくなります。急な休暇や人事異動があっても、「どこに何の情報があるか」が明確であれば、一定の時間でキャッチアップしやすくなります。
これは、管制担当者の心理的な負担を軽くするだけでなく、「特定の人が抜けると回らない」という状態を避けるうえでも大切です。

現場の品質が安定し、クライアントへの説明もしやすくなる

配置判断や報告内容が一定の基準で運用されるようになると、現場ごとのばらつきが少なくなり、隊員にとっても「どう動けばよいか」がわかりやすくなります。その結果、クライアントからの信頼につながるだけでなく、何かトラブルが発生した際にも、記録に基づいて説明しやすくなります。

データが蓄積されることで、改善の「根拠」が見えるようになる

欠員の発生しやすい曜日や時間帯、報告が遅れがちな現場、トラブルの種類や頻度など、日々の運用で蓄積されるデータを見直すことで、「何となく大変だと思っていた業務」の傾向が見えやすくなります。
これらは、教育内容の見直しや配置計画の改善など、次の一手を考える際の根拠になります。感覚だけでなく、データに基づいた判断がしやすくなる点も、DXの大きなメリットです。

現場に定着するDX導入の進め方

導入時は「どこから変えるか」を絞ることが重要

とはいえ、一度にすべての業務をDXで置き換えようとすると、現場にも管制にも負担がかかり、定着が難しくなります。そのため、導入の際にはまず、自社の業務フローを簡単に棚卸ししてみることをおすすめします。
たとえば、以下の観点で特に負担リスクが大きい部分を見つけます。

  • 欠員対応に時間がかかっているのか
  • シフト作成に手作業が多いのか
  • 報告書の確認に負荷が集中しているのか

その上で、「まずは欠員調整の判断部分」「まずは報告書のフォーマット」など、優先度の高いところから段階的に取り組む方が、現場にも受け入れられやすくなります。

現場の隊員にとっても“使いやすい仕組み”かどうかを確認する

DXは管制にとって便利なだけでは不十分です。打刻や報告を実際に行うのは隊員であり、現場からの入力がなければ仕組みは機能しません。

入力項目が多すぎないか、操作が複雑になっていないか、スマートフォンの画面でも見やすいか、といった点は、導入前から意識しておきたいポイントです。可能であれば、現場の隊員に試してもらい、負担感や使い勝手について意見を集めながら調整していくと、定着しやすくなります。

 属人化に頼らない“引き継げる管制体制”へ

警備業界では、人手不足や業務量の増加、現場ニーズの多様化などにより、管制業務の負担が大きくなっています。その中で、特定の担当者に業務が集中する属人化は、企業にとって大きなリスクとなり得ます。

DXによって、情報を整理し、判断基準を共有し、業務フローを標準化することで、「誰が担当しても一定の品質で管制を運用しやすい状態」に近づけることができます。これは、管制担当者の負担軽減だけでなく、現場の安全性やサービス品質の安定、クライアントからの信頼にもつながる取り組みです。

すべてを一度に変える必要はありません。まずは自社の業務の中で、負荷やリスクが大きい部分を見つけ、そこから少しずつ仕組みを整えていくことが現実的です。小さな改善の積み重ねが、結果として属人化しない管制体制へとつながっていきます。

管制DXは、「特定の人の努力に頼る運用」から、「会社として仕組みで支える運用」へとシフトするためのきっかけになります。自社の状況に合わせて無理のない範囲から始めつつ、将来的に“誰でも引き継げる管制”を目指す一歩として、検討してみてはいかがでしょうか。

警備NEXT(警備ネクスト)では、現場で役立つ知識や警備員の声をこれからも発信していきます。日々の勤務に少しでも役立ててもらえたら幸いです。

参考・出典一覧

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