「建設現場からの依頼はあるのに、配置できる隊員がいない」
その結果、本来受けられたはずの案件を断らざるを得ない――。
今、多くの警備会社が直面しているのは、単なる人手不足ではなく、「受注できない」という売上機会の損失です。その背景には、建設業界とも密接に関係しながら、警備業特有の構造的な人材不足の課題が潜んでいます。
帝国データバンクが2026年2月20日に公表した調査によると、企業の52.3%が正社員不足と回答しました。4年連続で半数を超えており、人手不足は一時的ではなく“常態化”している水準に達しています。さらに、警備業と密接に関係する建設業では69.6%と、より高い水準にあります。
本記事では、人手不足の全体像を整理したうえで、警備業に起きている変化と、経営として取るべき対応を解説します。
人手不足は全業種で進行している
正社員不足52.3%と4年連続で半数超
帝国データバンクの調査では、2026年1月時点で正社員不足は52.3%となり、4年連続で半数を超えています。この水準は一時的な不足ではなく、人材確保が恒常的に難しい状態に入っていることを示しています。

建設業69.6%、警備員の確保が現場稼働を左右する
特に建設業では69.6%と、人手不足がより深刻です。加えて、2024年問題(時間外労働の上限規制)により、建設現場では工期遵守がこれまで以上に厳格化しています。
この結果、交通誘導警備は「必要に応じて手配するもの」ではなく、配置できなければ現場自体が動かない“前提条件”へと変化しています。
つまり、「建設業の人手不足が警備需要に影響する」のではなく、警備員が確保できるかどうかが、工事の進行可否を左右する構造になっています。この構造は、「人が足りない」ではなく「人がいないと売上が立たない」という経営課題に直結します。
非正社員不足54.6%、他業種は改善も現場職は高止まり
同調査では、メンテナンス・警備・検査分野において非正社員不足が54.6%とされています。この水準は全業種平均と比較しても高い傾向にあり、現場職の人材不足の深刻さが表れています。
一方で、飲食店など一部の業種では非正社員不足に改善傾向が見られており、人材供給が戻りつつある分野も存在します。しかし、警備業を含む現場職では不足が依然として解消されておらず、高止まりした状態が続いています。
つまり、他業種では改善が見られる中でも、警備業の人手不足は構造的に解消されにくい状態が続いているといえます。

人手不足が解消しない構造
働き手そのものが減少している
少子高齢化により、労働人口は長期的に減少しています。特に警備業や建設業のような現場職は担い手が限られやすく、供給不足が解消されにくい状況です。
業界をまたいだ人材の取り合い
賃上げや待遇改善により、人材は業界間で移動しています。同じ地域・時間帯で、警備・建設・物流などが同一の人材層を取り合う構造になっています。
採用だけでは埋まらない
4年連続で半数を超える人材不足の状況は、採用施策だけでは解決できないことを示しています。人手不足は短期的な問題ではなく、企業側の運用設計まで含めて見直す必要があります。
警備業の採用に起きている変化
建設業をはじめとした人手不足の影響は、警備業ではまず「採用難の加速」という形で顕在化しています。
採用難の加速
警備業は建設業などと同じ人材市場で競争しているため、条件比較が進み、従来の賃金・働き方では人材確保が難しくなっています。
人手不足による受注制限
警備業は、契約時に必要な配置人数を満たすことが前提です。そのため、人員不足はそのまま「案件を受けられない」という形で現れます。
これは単なる採用課題ではなく、売上機会の損失に直結する問題です。
現場負担の増加と品質リスク
人手不足の中で無理なシフト運用を行うと、長時間労働や教育不足が発生します。
その結果、現場品質の低下や事故・クレームのリスクが高まります。
非正社員不足による運用停滞
非正社員が不足すると、シフトが埋まらず、現場数の維持や繁忙期対応が困難になります。警備業では「現場を回す人材」が欠けると、運用そのものが止まるリスクがあります。
採用難の今こそ見直すべき4つのポイント

人手不足が続く中で重要なのは、「採用を増やすこと」だけではありません。採用・配置・教育・管理のどこに問題があるのかを整理し、運用全体を見直す必要があります。
【採用・定着】応募が集まる条件に見直す
まず見直したいのが、求人条件と実際の働き方にズレがないかという点です。賃金水準が地域相場に対して見劣りしていないか、勤務時間やシフトの柔軟性が確保されているか、若手・中高年のいずれかに偏りすぎた人員構成になっていないかを確認する必要があります。
採用が難しい会社ほど、「応募が来ないこと」だけに目が向きがちです。ですが実際には、応募後の離脱や、入社後の早期離職が人手不足を深めているケースも少なくありません。求人票の条件、面接時の説明、実際の勤務実態が一致しているかは、最優先で点検すべき項目です。
【運用体制】欠員前提で回せる配置ルールをつくる
次に確認したいのは、欠員が出たときに現場をどう回すかです。特定の隊員や管制担当者に依存している状態では、1人欠けただけで配置全体が崩れやすくなります。誰が休んだときに、誰が代替調整を行い、どこまでが許容範囲なのか。そこが決まっていない会社ほど、現場にしわ寄せが集中します。
また、繁忙期や突発案件への対応方法が、個人の経験や勘に頼っていないかも重要です。属人化が進んでいる場合、人手不足そのものよりも「回し方の限界」が先に経営課題になります。
このような運用の不安定さは、現場の負担増だけでなく、定着率の低下や離職につながり、結果として採用難をさらに深刻化させます。
【法令対応】人手不足でも崩れない教育・労務管理を整える
警備業では、人員不足であっても法令上の義務は免れません。警備業法第21条では警備員に対する教育の実施が義務付けられており、第22条では指導教育責任者の選任が求められています。人が足りないからといって、教育前の配置や教育記録の未整備が許されるわけではありません。
さらに、労働基準法上も長時間労働や不適切なシフト運用は問題になります。人手不足が続く局面ほど、法令違反は「知らなかった」では済まされません。現場を回すための運用が、結果として法令違反に近づいていないかを確認する必要があります。
こうした法令対応が不十分な状態は、行政指導や是正対応のリスクだけでなく、採用時の信頼低下にもつながり、人材確保の面でも不利に働きます。
一方で近年は、eラーニングの活用などにより、教育の効率化・標準化を進める企業も増えています。こうした取り組みによって、教育の負担を抑えながら、未経験者の受け入れやすさや早期戦力化が実現しやすくなっています。
結果として、「教育体制が整っている会社」として採用時の信頼性向上にもつながります。こうした教育体制の差は、求職者が企業を選ぶ際の安心材料としても機能します。
つまり、法令対応は単なる義務ではなく、採用競争において「選ばれる理由」の一つになりつつあります。特に、デジタル化や教育手法の見直しを進めている企業ほど、採用・定着の両面で優位に立つ傾向が見られます。
【仕組み化・DX】少人数でも回る管理体制に切り替える
人手不足を採用だけで補うのが難しい以上、管理のやり方そのものを見直す必要があります。上下番報告、勤怠確認、シフト連絡、欠員時の調整などを電話や紙、個別メッセージに頼り続けていると、管理側の負担が先に限界を迎えます。
必要なのは、「確認する管理」から「見れば分かる管理」への切り替えです。誰が出勤したか、どこで滞りが起きているか、どの現場に余裕がないかを、リアルタイムで把握できる状態をつくることが、少人数でも回る体制づくりにつながります。
管理負担が大きい環境は、働きやすさの低下につながり、採用・定着の両面で不利になる要因となります。
採用難が続く中で企業に求められる対応
今回の調査から分かるのは、人手不足が特定の業界に限られた問題ではなく、正社員・非正社員の双方で進行しているという点です。その中で警備業は、人員不足が受注制限や現場負荷、品質低下に直結しやすい構造にあります。
人手不足は、単なる採用課題ではなく、「受注できるかどうか」を左右する経営課題へと変化しています。特に警備業では、人員不足がそのまま売上機会の損失に直結する構造にあります。
今後は「人を増やす」だけでなく、少人数でも回る運用設計と、定着を前提とした体制づくりを同時に進めることが、安定した事業運営の前提となります。
警備NEXT(警備ネクスト)では、警備業界の最新動向と実務に役立つ情報を継続的に発信しています。
参考文献
- プレスリリース「企業の52.3%が正社員不足 4年連続で半数超の高水準 建設業者の7割が正社員不足、非正社員は「飲食店」など3年連続改善」(2026年2月20日公表)