警備業は人が主役の労働集約型産業であり、日々のシフト作成、勤務変更への即応、勤怠確認、報告書の回収、請求・給与計算など、膨大な事務業務が発生します。
なかでも管制は現場稼働の中枢であり、業務量の増加はそのままミス・長時間労働・人材離職へつながります。
業界の高齢化が進むいま、従来型の電話・紙台帳・Excelを中心としたアナログ管理では、持続可能な運営が難しくなりつつあります。
ここで注目されているのが管制DXです。DXは単なる便利なツール導入ではなく、
- 労働時間削減
- 品質向上
- 人材定着
- 組織力の底上げ
につながる経営課題の解決策と言えます。
本記事では、一次データに基づく課題背景、現場で起きた変化、導入プロセス、成功ポイントをまとめ、「会社が変わる仕組みづくり」へのステップとして紹介します。
DXは“効率化”だけではない――組織を強くする仕組みづくりへ
管制DXの大きな価値は、単なる事務軽減ではなく 「人が動ける組織」をつくる起点になることです。
DX導入で得られる代表的な効果
- 勤怠・配置・連絡の一元化で業務コストを削減
- 電話・紙・手入力の削減によりミスが減少
- 本質業務(教育・採用・営業)に投資できる時間を創出
- 人が改善に向けて動く“余白”が生まれる
DXは目的ではなく、強い会社を作るための土台です。 現場判断が早まり、属人化から脱却し、組織が前に進める状態を実現します。
警備業界を取り巻く現状と制度背景
警備業は慢性的な人材不足に直面しており、人が確保できない現場では管制・事務スタッフが業務を肩代わりする構造になりがちです。
- 公益社団法人全国警備業協会「警備業実態調査報告書」(2023)
警備員の36.7%が60歳以上と高齢化が顕著
- 働き方改革関連法(労働基準法第36条、2020年より中小企業へ適用)
残業削減が義務化。長時間労働の放置は是正勧告や罰則の対象
- 内閣府「DXレポート」(2021)
DXにより労働生産性が20〜30%向上し得ると示されている
人材供給が増えない現状で、同じ業務量をアナログで処理し続けることは現実的ではありません。
アナログ運用のままでは負担が加速していくため、DXによる効率化は「人手不足を前提とした新しい運営モデル」への転換策であり、コスト削減・リスク低減・品質向上の観点から合理的な経営判断と言えます。
導入企業で起きた変化

ここからは、管制DXを導入した企業で実際に起きた変化を4つのケースで紹介します。
① 勤怠〜請求処理の時間が月30時間→12時間に
勤怠打刻→Excel転記→請求照合が定例工数となっていた企業。
DX化後は打刻・勤怠修正・報告書がリアルタイム連動し、二重確認が不要に。
→ 年間216時間削減=管制1名分相当の稼働創出
② 高齢隊員を含む組織で2週間で運用定着
20〜76歳の隊員が所属する企業では、導入前に「スマホが苦手で不安」という声が多く上がっていました。
そこで、以下のような施策を実施しました。
- 操作研修を複数回に分けて実施
- 手順書・動画マニュアルを整備
- 導入初期は問い合わせ窓口を一時的に増強
この結果、2週間ほどで基本的な運用が定着。
電話確認が大幅に減少し、現場責任者の心理的負担も軽減されました。
③ 欠員対応速度が向上し、受注ロスを防止
緊急の人員配置が必要になった際、従来は次のような流れでした。
- 手帳やExcelを見ながら、空き人員を電話で1件ずつ確認
- 資格・場所・残業時間などは担当者の“頭の中”に依存
DX導入後は、
- 稼働状況・資格・拠点距離・残業時間などがシステム上で可視化
- 条件を絞って検索することで、数分で候補者を選定
結果として、急な依頼を断らずに対応できるケースが増加し、信頼向上と売上維持に寄与しました。
導入企業からは「断らずに受注できた案件が年間で十数件あった」という声も聞かれています。
④評価と教育がデータ化され、公平性が向上
新人の勤務回数、遅刻・報告ミスの有無、改善スピードなどをデータで可視化した企業もあります。
- 評価基準が“主観”から“客観データ”へシフト
- 昇格や手当の説明に説得力が生まれ、納得感が向上
- 改善の早い隊員に適切な機会を提供しやすくなる
これにより、公平な評価ができる環境が整い、離職防止にもプラスに作用しました。
DXの価値は単なる削減工数だけでは測れず、制度化・標準化・人材育成の質向上へ波及することが重要なポイントです。
成功させるための導入ステップ
DX導入はツール購入で終わりではなく、運用設計と現場定着が成果を左右する取り組みです。
ここでは、管制DXを成功させるための4つのステップを紹介します。
STEP1 現状棚卸し
- 転記・二重確認・報告回収など、「時間がかかっている業務」をリストアップ
- 誰が・いつ・どの作業に何時間かけているかを見える化
そのうえで、削減効果が大きい領域から着手するのがポイントです。
STEP2 スモールスタート
いきなり全業務をDX化しようとすると、現場に負荷がかかりすぎます。
- 勤怠・配置・連絡など、影響が大きく効果が見えやすい領域から開始
- 1〜3ヶ月程度で改善成果を確認しながら、対象範囲を広げる
小さな成功体験を積み上げることで、現場の理解と協力も得やすくなります。
STEP3 教育と定着施策
DXを「現場を助ける仕組み」として根づかせるには、教育とサポートが欠かせません。
- マニュアル・動画・Q&Aを整備し、誰でも復習できる環境を整える
- 導入初期は質問窓口を設け、高齢隊員・新人にも届く支援を行う
- 現場責任者が率先して使い、ロールモデルとなる
「現場のつまずき」を潰していくことが、定着の鍵になります。
STEP4 データ活用フェーズ
運用が安定してきたら、次はデータを活かした改善サイクルに移行します。
- 稼働率・欠員率・教育成果・ミス件数などをKPIとして設定
- 定期的に振り返り、改善 → 標準化 → 評価 → 再改善の循環を回す
この段階に入ると、管制DXは単なる効率化ツールではなく、 「会社の運営レベルを底上げする仕組み」へと進化していきます。
まとめ:管制DXで未来に備える
アナログ管理は長時間労働・ミス・属人化を生みやすく、制度面でも継続が難しくなりつつあります。
対してDXは、業務効率と品質を同時に上げ、管理者の時間を「改善・教育・戦略」へ移せる投資です。
DXは現場を楽にするだけではなく、組織が前へ進む余白をつくる取り組みです。まずは成果が見えやすい管制業務から小さく始め、成功体験を積み上げていきましょう。小さなDXが未来を変える第一歩になります。
警備NEXT(警備ネクスト)では、今後も現場実務に役立つ知見や警備員・管理者の声を発信してまいります。日々の業務改革や将来の体制づくりに、少しでもお役立ていただければ幸いです。