はじめに:警備現場が直面する課題とDXへの期待
警備業界ではいま、慢性的な人手不足や業務の高度化、そして労働環境の改善といった複数の課題が同時に押し寄せています。とくに深刻なのが「人材の確保」です。2023年時点で警備員の平均年齢は50歳を超えており、高齢化が進む中で若年層の就業者数は伸び悩んでいます。
加えて、商業施設やオフィスビル、病院、学校、イベント会場など、警備対象となる施設や環境も年々多様化しており、それぞれに応じた柔軟な警備体制が求められるようになってきました。
こうした状況を受けて注目を集めているのが、「AI警備ロボット」の導入です。これまで人間が担っていた巡回や監視といった業務を、一部または補完的に担う存在として、少しずつ実運用が進んでいます。
本記事では、AI警備ロボットの基本的な機能や種類、導入時のポイント、実際の事例までを網羅的に解説し、警備業務のDX化を検討する企業担当者の皆さまに向けた導入ガイドとしてお届けします。
AI警備ロボットの基本機能とその特徴
AI警備ロボットとは、センサーやカメラ、AI処理技術を搭載し、施設内外の警備業務を担うロボットのことを指します。主に施設警備(建物内の巡回・監視)、雑踏警備(イベント会場などでの混雑対応)を対象に導入が進められており、24時間365日稼働が可能なため、人的警備を補完しながら効率化を促す存在として注目されています。
自律巡回・監視機能
AI警備ロボットは、あらかじめ設定したルートを自動で巡回する「自律移動」が可能です。GPS、SLAM(自己位置推定・地図作成)、LIDAR(レーザー測距)といった技術を組み合わせることで、人間と同等かそれ以上の精度で施設内を移動し、異常の有無を確認します。
映像分析と異常検知
搭載されたカメラは、高解像度かつ赤外線対応のものが一般的です。夜間や暗所でも確実に撮影が可能で、AIによる映像解析によって不審者や不審物の検知、転倒者の発見、火災の兆候などをリアルタイムで判断できます。たとえば、廊下に長時間置かれた荷物を自動で検知し、一定時間経過後にアラートを出すといった動作が可能です。
音声対応・アラート機能
不審者への警告や緊急時の避難誘導など、音声による対応も重要な機能のひとつです。人の接近を感知して「ここは立ち入り禁止区域です」と警告したり、非常時にはスピーカーを通じて指示を出すなど、現場対応力を持ち合わせています。
多言語対応・対話機能
近年では、外国人来訪者にも対応できるよう多言語対応の音声ガイド機能も増えてきました。施設案内や道案内、落とし物対応など、簡易な接客機能を持つモデルも登場しており、警備業務とホスピタリティの両立を図ることができます。
活用事例:AI警備ロボットが現場にもたらす価値
AI警備ロボットは、実際にどのような現場で活躍しているのでしょうか。ここでは導入事例を紹介しながら、その具体的な効果やメリットを整理します。
大型オフィスビル
東京都内にある延床面積約3万平米のオフィスビルでは、夜間巡回をAIロボット1台に任せることで、警備スタッフ1名分のシフトを削減。その結果、年間で約400万円相当の人件費を抑えるとともに、巡回映像の自動保存により報告業務の効率化にもつながりました。
商業施設
複合商業施設では、日中は子ども向けの“話しかけられるロボット”として館内案内を担当し、夜間には監視機能を活用して自律巡回を実施。利用者の安心感向上と夜間の無人化を同時に実現しています。とくに来館者からは「ロボットがいると安心できる」との声も多く、ブランディングにも貢献しています。
ロボット導入の注意点
一方で、段差のある環境やエレベーター連携が難しい建物では、移動範囲に制限が生じることもあります。また、悪天候時の屋外移動や、通信障害への備えも重要な検討項目です。**人間とは異なる“得手・不得手”**があることを理解したうえでの導入判断が求められます。
導入時に確認すべき5つのポイント
AI警備ロボットの導入は、単なる機器の購入ではなく、現場の運用体制全体を見直す重要なプロジェクトです。そのため、機能や性能だけでなく、運用環境や既存システムとの相性、現場スタッフの対応力、費用対効果、トラブル時のサポート体制など、多角的な視点から検討する必要があります。
以下では、導入前に必ず確認しておきたい5つのポイントを解説します。これらをチェックすることで、自社のニーズに合った最適なロボットを選定し、円滑な運用につなげることができます。
1. 対象施設の環境に合ったモデルか
屋外対応が必要か、バリアフリー構造か、階段移動は必要かなど、施設環境に応じて選定しましょう。たとえば屋内専用モデルと全天候型モデルでは価格帯も機能も大きく異なります。
2. 他システムとの連携性
入退室管理、監視カメラ、建物管理システムなど、すでに導入されているシステムとの連携が可能かどうかも重要なポイントです。API対応の有無や、クラウド連携の方式も確認しておくとよいでしょう。
3. 操作性と教育体制
現場のスタッフが扱いやすいUIかどうか、マニュアルやサポートが整備されているかも導入の成否を分ける要素です。可能であれば、実機デモや試験導入で現場スタッフの反応を確認しましょう。
4. 導入コストと維持費用
1台あたりの導入費用は300万円〜700万円程度が一般的ですが、月額利用型(サブスクリプション)やリース形式もあります。初期費用とランニングコストを総合的に評価し、ROI(投資対効果)を見積もることが重要です。
5. 保守・トラブル対応体制
故障や通信障害が発生した際のサポート体制が整っているかも確認を。24時間対応のコールセンターや、代替機の貸し出しサービスの有無もチェックしておきましょう。
警備DXの第一歩としてのAIロボット導入
AI警備ロボットは、すべての警備業務を代替するわけではありません。むしろ「人にしかできない判断や接遇」を残しつつ、単純な巡回や監視といった業務を自動化することで、人的リソースをより重要な業務に集中させるという考え方が主流です。
現場に導入する際は、スタッフの理解と納得が必要不可欠です。事前に丁寧な説明と研修を行い、現場の声を反映しながら運用ルールを整えていくことで、AIロボットと人との“共存”がスムーズに実現します。
また、「まだ自社にはハードルが高い」と感じている中小企業や小規模施設でも、短期レンタルやスポット利用といった選択肢を活用することで、まずは限定的な業務から導入を試すことができます。DXは一気に進めるものではなく、段階的に「現場に合った形」を見つけていくことが何より重要です。
導入前の選択肢として「労務管理システム」の活用も
AI警備ロボットは非常に魅力的な選択肢ではあるものの、実際の導入にはコストや社内体制の整備が伴い、特に中小規模の警備会社にとっては「敷居が高い」と感じることも少なくありません。
そのような場合、まずは既存の業務を可視化・効率化できる「労務管理システム」の導入から始めてみるのも、警備DXの第一歩として有効です。
警備業界では、人員の配置やシフト作成、日報管理など多くの業務が属人化しており、管理者の負担が大きいのが現状です。こうした状況に対応できる労務管理システムを導入することで、現場の業務負担を軽減し、AI警備ロボット導入に向けた「土台づくり」が可能となります。
ここでは、警備業務に適した労務管理システムを3つご紹介します。
プロキャス警備

警備業務に特化したクラウド型労務管理システムで、シフト作成・勤怠管理・日報管理・配置計画までを一元管理できます。警備業界特有の「隊員ごとの資格管理」や「現場ごとの配置要件」にも対応しており、配置ミスの防止や法令順守の徹底にも寄与します。モバイル端末での入力にも対応しているため、現場からリアルタイムで情報共有できる点も特長です。
ジョブカン勤怠管理

汎用型の勤怠管理システムながら、警備業向けにカスタマイズ可能で、拠点・現場単位でのシフトや勤務時間の管理が行えます。スマートフォンからの打刻やGPS連携にも対応しており、遠隔地にいる隊員の出退勤把握も容易です。導入規模に応じた柔軟なプラン設計が可能な点も、中小規模の企業にとって魅力です。
jinjer勤怠

警備業を含め幅広い業種で導入実績のあるクラウド型勤怠・労務管理システムです。GPS打刻やシフト管理、アラート機能や労働時間自動集計までを備えており、法律違反リスクの早期検知と現場の働き方改革をサポートします。特に、アプリベースで現場の操作負荷が軽い設計となっており、多様な警備体制に対応可能な点が強みです。
こうしたシステムの導入を通じて、人員配置の見える化や業務の標準化を図ることができれば、のちにAI警備ロボットを導入した際もスムーズな連携が可能になります。「DX化=ロボット導入」だけではありません。まずは自社の課題や運用体制に即した、小さな改善から始めることが、継続的な業務改革につながっていきます。
まとめ:AI警備ロボットは“ともに働く新たな仲間”
AI警備ロボットは、警備業務のDX化において非常に有効なツールです。人手不足という構造的な課題を抱える今だからこそ、人とロボットが役割を分担しながら、安全で効率的な現場運営を目指すことが求められています。
単なる設備投資ではなく、「現場の働き方そのものを見直すきっかけ」として活用することができれば、AI警備ロボットは強力な“仲間”となってくれるはずです。導入を通じて得られるのは、単なる効率化だけでなく、安心・安全の質を高めるという本質的な価値です。
まずは、自社の課題を明確にし、AI警備ロボットがその課題をどう補完できるのかを検討することから始めましょう。単なる「ロボットの導入」ではなく、「働き方改革」の一環として捉えることで、より実践的で効果的な活用につながるはずです。