今回は、警備の現場で働く皆さんが、より長く、安心して働ける職場をつくるためのヒントとして、「心理的安全性」についてお伝えします。警備の仕事は、人々の安全と安心を守る、非常に重要な役割を担っています。しかし、その一方で、長時間労働や夜勤、責任の重さからくるプレッシャーなど、心身ともに負担の大きい仕事でもあります。このような背景から、警備業界全体で人材の確保や定着に課題を感じている方も少なくないのではないでしょうか。
特に、若手警備員の離職率の高さは、多くの警備会社にとって頭の痛い問題です。新人警備員が仕事を覚える前に辞めてしまう、ベテランのノウハウが次世代に引き継がれない、といった状況は、業界全体の成長を妨げる要因にもなりかねません。
なぜ、こうした問題が起こるのでしょうか。その原因の一つに、「心理的安全性の低い職場環境」があると考えられています。心理的安全性とは、簡単に言うと、「チームの中で、自分の意見や質問、懸念点を気兼ねなく発言できる状態」のことです。「こんなこと聞いてもいいのかな…」「もし失敗したら、怒られるんじゃないか…」といった不安を抱えながら働いていると、パフォーマンスは低下し、新しい挑戦も生まれにくくなります。何よりも、職場にいることが辛くなってしまい、離職につながる可能性が高まります。
この記事では、警備の現場で働く皆さんが、心理的安全性の高い職場をつくるための具体的なヒントや事例を、現場目線でご紹介していきます。警備のプロフェッショナルとして、より良いチームを築き、持続可能な組織をつくるための第一歩を、ぜひ一緒に踏み出してみましょう。
心理的安全性が警備業界に不可欠な理由
心理的安全性が高い職場では、どのような変化が生まれるのでしょうか。それは、単に「居心地の良い職場」というだけでなく、警備業務の品質向上や組織の成長に直結する、具体的なメリットをもたらします。
たとえば、新人警備員の成長です。心理的安全性が高い職場では、新人警備員も安心して質問できます。「交通誘導のこの場面、どう対応すればいいですか?」「施設巡回でこんなことがあったのですが、報告すべきでしょうか?」といった疑問を素直に聞ける環境があれば、知識やスキルを効率よく習得できます。
また、心理的安全性はチームワークの強化にもつながります。警備業務は、施設警備、交通誘導、雑踏警備など、種類を問わずチームでの連携が欠かせません。警備隊員同士が円滑にコミュニケーションを取り、危険な兆候や課題を積極的に共有することで、事故やトラブルを未然に防ぐことにもつながります。
さらに、警備業界が直面する課題解決にも貢献します。人手不足、多様化する警備ニーズ、テクノロジーの導入など、変化の多い現代において、現場の警備員一人ひとりの「気づき」や「アイデア」は非常に貴重です。心理的安全性が担保されていれば、現場の警備員から建設的な意見が生まれ、それが業務改善や新しい警備サービスへとつながっていく可能性も高まります。
では、具体的に「心理的安全性」を職場につくり出すには、どのような要素が必要なのでしょうか。心理的安全性の提唱者である、ハーバード大学のエイミー・エドモンドソン教授は、心理的安全性を構成する4つの要素を挙げています。これらを警備業界の現場に当てはめて考えてみましょう。
- 1. 発言のしやすさ
「こんなことを言ったら、上司に怒られるのではないか」という恐れがなく、自分の意見や疑問を自由に話せる状態です。
例:「ベテラン警備員から見て、自分の誘導方法は間違っていませんか?」と素直に質問できる。 - 2. 失敗への寛容性
失敗を個人の責任として厳しく追及するのではなく、学びの機会として捉える文化です。
例:訓練中のミスに対して、「なぜそうなったのか」「どうすれば防げるか」を一緒に考える。 - 3. 助け合いの文化
困ったときに、周囲の隊員や上司に助けを求めることをためらわない状態です。
例:新人警備員が「この現場は初めてなので、もう少し詳しく教えてください」と先輩に頼める。 - 4. 批判への耐性
自分の意見や提案が否定されても、人格を否定されたと感じることなく、建設的な議論ができる状態です。
例:新しい巡回ルートを提案した際、「このルートだと、この点が課題になるかもしれないね」と冷静に意見を交わせる。
これらの要素が満たされた職場では、警備員一人ひとりが安心して働き、チーム全体で成長していくことができます。
心理的安全性を高めるための具体的な取り組み
それでは、心理的安全性を高めるために、警備会社や現場の管理者はどのような取り組みをしているのでしょうか。ここでは、いくつかの具体的な取り組み内容をご紹介します。
1on1ミーティングの導入と質の向上
「1on1ミーティング」とは、上司と部下が1対1で定期的に対話する機会のことです。多くの企業が導入していますが、警備業界でもその効果が期待されています。
- ポイント:業務の話だけでなく、個人のキャリアやプライベートな相談も
警備の現場では、業務連絡が中心になりがちですが、1on1ミーティングでは、業務以外の話にも耳を傾けることが大切です。「最近、体調はどう?」「警備員として、これからどんな仕事をしていきたい?」といった問いかけを通じて、部下の気持ちや考えを理解しようと努めます。
「心理的安全性ワークショップ」の実施
警備員全員が心理的安全性について理解を深めるためのワークショップも有効です。これは、単なる座学ではなく、参加者同士が対話を通じて、お互いの価値観や考え方を共有する場となります。
- ワークショップの例
- 「最高の失敗体験」を共有する
- 「警備員として、過去にどんな失敗を経験しましたか?」「その失敗から、何を学びましたか?」といったテーマで、参加者同士が自分の失敗談を語り合います。
- これにより、「失敗は悪ではない」「失敗から学ぶ姿勢が大切だ」という共通認識が生まれます。
- 「理想の職場」を語り合う
- 「どんな職場なら、もっと安心して働けるか」を自由に話し合います。「報連相がしやすい職場」「困ったときに助けてもらえる職場」といった意見を出し合うことで、チームが目指すべき理想像が明確になります。
- 「最高の失敗体験」を共有する
フィードバック文化の醸成
心理的安全性を高めるには、建設的なフィードバックが不可欠です。警備業務の品質を保つためにも、良い点・悪い点を明確に伝える必要がありますが、その伝え方一つで、相手の受け取り方は大きく変わります。
- 「フィードバック」と「人格否定」は違う
「お前の誘導はなってない!」と頭ごなしに叱るのではなく、「あの場面では、もう少し大きく腕を振ると、ドライバーにより伝わりやすくなるよ」と具体的に、改善点を伝えることが大切です。
良い点についても、「今日の誘導は、特に落ち着いていて良かったよ」と具体的に褒めることで、相手の自信につながります。 - 「I(アイ)メッセージ」で伝える
「あなたは〜しなさい」という一方的な命令ではなく、「私は〜と感じた」という主語を「私」にすることで、相手は意見として受け取りやすくなります。
例:「私は、あなたがいつも冷静に対応している姿を見て、信頼できると感じています」
このように、フィードバックを「成長のための対話」と位置づけることで、チーム全体のスキルアップにつながります。

心理的安全性を定着させるための組織的アプローチ
心理的安全性を高めるには、個人の努力だけでなく、組織全体での取り組みが重要です。特に、警備会社の人事や教育担当者は、制度や文化を通じて、心理的安全性を担保する役割を担っています。
評価制度の見直しとキャリアパスの明確化
心理的安全性は、「評価されることへの不安」を解消することにもつながります。
- 心理的安全性と評価制度の連携
警備業務のスキルや経験年数だけでなく、「チームへの貢献度」「新人警備員への指導力」「周囲とのコミュニケーション能力」といった、心理的安全性に貢献する行動も評価の対象とします。これにより、警備員は「周りを助ける行動も評価されるんだ」と安心して行動できるようになります。 - キャリアパスの提示
警備員は、将来的にどのようなキャリアを築けるのかが見えにくいと感じているケースがあります。「警備員として長く働きたいけれど、このままでは昇給も昇進もないのでは…」といった不安は、離職の大きな要因です。
「警備員→現場リーダー→隊長→支店長」といった明確なキャリアパスを提示し、それぞれの役職に必要なスキルや経験を可視化することで、警備員のモチベーションを維持し、長期的な定着を促すことができます。
マネジメント層への教育
心理的安全性を生み出すカギは、現場の管理者や隊長が握っています。
- リーダーシップ研修の実施
「リーダーは、指示を出す人」という従来のイメージを、「リーダーは、チームメンバーの力を最大限に引き出す人」という新しい視点へと転換させるための研修を実施します。
具体的な研修内容として、傾聴力(相手の話をじっくり聞く力)、フィードバックの仕方、部下の強みを引き出すコーチングスキルなどを学ぶことが挙げられます。 - 「心理的柔軟性」の重要性
管理者が、部下の意見や提案に対して柔軟に対応する姿勢も重要です。「心理的柔軟性」とは、自分の考えや感情にとらわれず、状況に応じて行動を変えられる能力のことです。
たとえば、ある警備会社では、ベテランの現場隊長が、若手警備員の「休憩時間を少しずらして、情報共有の時間を確保したい」という提案に対し、最初は戸惑いながらも、その意図を理解しようと努め、最終的に新しい休憩ルールを導入しました。これにより、チームの結束力が高まり、業務効率も向上したという事例があります。
まとめ:心理的安全性は「安全」を守るプロの基盤
今回は、警備業界における「心理的安全性」の重要性と、それを高めるための具体的なヒントをご紹介しました。心理的安全性の高い職場は、居心地が良いだけでなく、警備業務の品質向上、事故やトラブルの予防、そして人材の育成と定着に直結します。
警備業は、人の命や財産を守る仕事です。その重大な使命を果たすためには、警備員一人ひとりが安心して働き、最大限のパフォーマンスを発揮できる環境が不可欠です。
心理的安全性の高い職場づくりは、一朝一夕にできるものではありません。しかし、日々のコミュニケーションの取り方、フィードバックの仕方、そして組織としての制度や文化を少しずつ見直していくことで、着実に変化は生まれます。
この記事が、皆さんの職場環境をより良くするための小さな一歩となれば幸いです。警備NEXTを通じて心理的安全性の高い職場づくりを始め、より質の高い警備サービスを提供できることを心から願っています。