なぜ今、防犯協定が注目されるのか
近年、地域の安全・安心を確保するうえで、自治体と警察、住民、民間企業などが協働する「防犯協定」の重要性が急速に高まっています。従来、地域防犯といえばボランティア団体や警察主導の取り組みが中心でしたが、少子高齢化や犯罪手口の巧妙化、地域コミュニティの希薄化により、限界が見え始めていました。
そのような中、より包括的かつ持続可能な防犯体制を築くための手段として「防犯協定」が全国的に推進されています。本記事では、最新の制度設計や全国各地の注目事例、そして定量的な成果を交えて、協定の広がりと今後の展望を読み解きます。
防犯協定とは? ─ 基本構造と変遷
防犯協定とは、地方自治体が警察や事業者、地域団体と結ぶ「防犯に関する連携協定」を指します。形式はさまざまで、防犯パトロールの情報共有や、防犯カメラ映像の提供、防犯啓発活動の協力など、地域特性や連携先の業種に応じた柔軟な設計がなされます。
従来の協定は、目的別(防犯/交通安全/災害対応など)に個別化されているケースが多く、手続きや管理が煩雑になりがちでした。現在は「地域安全総合協定」としてこれらを統合し、よりスムーズで広範な取り組みに発展させる動きが加速しています。
全国で進む先進的な取り組み

東京都:設置加速が進む防犯カメラ
東京都の特別区における防犯カメラ設置数は、令和5年度末時点で約6.2万台に達しました。これは5年前と比較して約2.8万台増加、増加率は82.4%にも上ります。この背景には、自治体と町会・商店街・民間業者との連携強化、防犯協定に基づく補助制度の拡充があり、制度設計と実装が連動して進んでいることを示しています。
出典|行政情報ポータル
大阪府箕面市:通学路に750台設置で犯罪半減
箕面市では平成27年度末までに、通学路に750台の防犯カメラを設置。その翌年には、市内の犯罪認知率が9.51件/1,000人から4.60件/1,000人に半減するなど、明確な効果が見られました。この事例は、防犯協定を通じた計画的な設備整備と、住民理解の両立が成功したモデルケースといえます。
出典|箕面市議会だより 第122号(平成28年2月1日発行)・大阪府警資料
千葉県×J:COM:営業職員による地域安全パトロール
千葉県では、ケーブルテレビ会社J:COMと県警の間で防犯協定が締結されており、営業スタッフが日常業務の中で地域見守りパトロールを行っています。スタッフは腕章を着用し、防犯情報を発見次第、通報・共有する体制が整っています。営業車両へのステッカー掲示など、地域住民にとっても「見える安心」として評価が高く、今後は高齢者見守りや災害対応との複合連携が期待されています。
出典|J:COM ニュースリリース(2024年3月28日公開)
熊本市×タクシー協会:ドライブレコーダーによる見守り
熊本市では、地元タクシー協会と市警察との間で防犯協定を締結。タクシー車両に搭載されたドライブレコーダー映像を、防犯目的で活用できる仕組みを構築しました。車両には協定参加ステッカーが貼付されており、地域住民への啓発効果も大きく、協定後の通報件数も着実に増加しています。
出典|熊本市「地域防犯協定」2024年9月
佐賀市:自販機連携で防犯・災害の両立
佐賀市では、防犯カメラと災害対応型自動販売機の設置・運用に関する協定を2023年に締結しました。飲料供給と同時に、防犯カメラ映像を警察と連携して提供する仕組みを構築し、「防災×防犯」の両立モデルとして全国から注目を集めています
出典|佐賀市公式ホームページ(2023年10月20日掲載)
防犯協定の政策支援と制度化

全国的に見られるのが、以下のような行政による制度的支援の整備です。
- 防犯カメラ設置への補助制度
- 地域防犯協定のひな型提供
- 協定運用のオンラインプラットフォーム化
- 推進体制として「地域安全推進課」の設置
中でも注目されるのが、大阪府豊中市の例です。令和3年度、府全体の検挙件数18,547件のうち、約6,000件(32.3%)が防犯カメラ映像の活用によるものであり、協定に基づく録画共有体制の成果とされています。このような成果指標(KPI)を明確化することは、今後の政策予算化や自治体間連携を進める上で不可欠です。
出典|大阪府警察 令和3年度検挙統計
今後の課題と展望
防犯協定は制度として拡大していますが、運用面では以下の課題も残ります。
- 定期的な協定見直し(PDCA)の未整備
- 地域主体(自治会など)の担い手不足
- 情報共有・映像提供に関するプライバシーとの両立
- 多数の団体間での役割分担の曖昧さ
これに対し、政府や自治体では以下のような対応策を講じ始めています。
- 包括協定化による手続き簡素化
- 地域安全協議会を常設化し、評価指標を導入
- デジタル協定管理システムの開発・導入
今後はAIを活用した映像分析や、協定のクラウド管理、IoTと連携した見守り体制など、技術進化を組み合わせた新たな協定モデルの構築が求められます。

防犯協定が描く地域社会の未来像
防犯協定は、地域の安全・安心を底支えするインフラであり、その意義は単なる犯罪抑止にとどまりません。災害時の共助、孤独死防止、高齢者の見守りなど、「生活安全」を軸にした多目的連携へと進化しています。
今後、自治体が果たすべき役割は「協定の締結」ではなく、「運用と成果の可視化」にシフトしていきます。多様な地域資源をつなぐプラットフォームとしての防犯協定。その未来は、地域社会全体の力を結集する“共創のかたち”なのです。
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