経営と現場をつなぐ!マネジメント層が押さえるべきコミュニケーション術

人材育成

近年、警備業界では、少子高齢化による労働力人口の減少や、警備員の高齢化といった問題から、人材の確保と育成が喫緊の課題となっています。特に、警備員が安心して長く働ける環境を整え、スキルアップをサポートすることは、企業全体の成長に直結すると言えるでしょう。
しかし、現場を束ねるマネジメント層の中には、「日々忙しい業務の中で、個々の隊員とじっくり向き合う時間が取れない」「どのようにコミュニケーションを取れば、隊員のモチベーションが上がるのかわからない」といったお悩みをお持ちの方もいらっしゃるのではないでしょうか。
今回は、人材の定着・育成・教育を支援するために不可欠な「現場コミュニケーション」のスキルに焦点を当て、その重要性や具体的な方法について、現場目線、そして第三者的な中立の立場で考察していきます。

警備員の定着・育成を妨げる「コミュニケーションの壁」

警備業務は、チームで動くことが基本です。特に、大規模なイベント会場での雑踏警備や、工事現場での交通誘導、商業施設での施設警備など、様々な現場で多くの隊員が連携して業務にあたります。安全を確保するためには、密な情報共有とチームワークが不可欠です。
ところが、マネジメント層と現場の隊員との間に「コミュニケーションの壁」があると、以下のような問題が発生しやすくなります。

指示の不徹底とミス

マニュアルや警備計画書の内容を一方的に伝えるだけでは、現場の状況に合わせた臨機応変な対応が難しくなります。また、隊員が疑問や不安を抱えたまま業務にあたり、思わぬ事故やトラブルにつながるリスクも高まります。

モチベーションの低下

自身の意見や提案が聞き入れられないと感じると、隊員の仕事に対する意欲は低下しがちです。「どうせ言っても変わらない」という諦めが、責任感の希薄化を招き、最悪の場合、離職につながることもあります。

新人教育の停滞

新人警備員にとって、先輩や上司との関係性は、業務を習得し、警備員としての自信を育む上で非常に重要です。しかし、コミュニケーションが不足していると、新人は孤立感を感じ、成長の機会を失ってしまう可能性があります。

これらの問題を解決し、警備員の定着率を向上させるためには、マネジメント層が意識的に現場との「コミュニケーションの壁」を打ち破る努力をすることが求められます。

マネジメント層が身につけるべき3つのコミュニケーションスキル

では、具体的にどのようなスキルを身につければ良いのでしょうか。ここでは、明日からすぐに実践できる3つのスキルをご紹介します。

1. 傾聴力(アクティブリスニング)

まず最も重要なのは、相手の話を真摯に聞く「傾聴力」です。単に聞くのではなく、相手の言葉の裏にある感情や意図まで汲み取ろうとすることがポイントです。
たとえば、ある隊員が「最近、体調がすぐれない」と話してきたとします。ここで、「休んでいいぞ」とだけ返すのではなく、「何か原因があるのかな?」「仕事で負担に感じていることはないか?」など、さらに深く尋ねてみることが重要です。

相槌やあいづち、うなずきを意識的に行う

相手が話しやすい雰囲気を作り、「あなたの話を聞いていますよ」というメッセージを伝えます。

オウム返しをする

相手の言ったことを繰り返すことで、理解を深めるとともに、相手に「自分の話が伝わっている」という安心感を与えます。

質問を投げかける

「それは具体的にどういうこと?」など、さらに話を深掘りする質問をすることで、問題の本質を掴みやすくなります。

2. 承認力(ポジティブフィードバック)

警備員の方々は、日々、安全という「当たり前」を守るために尽力しています。しかし、その功績が認められないと、やりがいを感じにくくなってしまいます。日々の業務の中での小さな成功体験や努力を積極的に「承認」し、伝えることが重要です。

具体的な行動を褒める

「今日の交通誘導、危ない場面をうまく回避してくれて助かったよ」というように、漠然とした褒め方ではなく、具体的な行動に言及することで、隊員は自分の何が評価されたのかを理解し、次へのモチベーションにつながります。

感謝の気持ちを伝える

「いつも暑い中、警備ありがとう」といった日々の感謝の言葉は、隊員との信頼関係を築く上で非常に効果的です。

成長を評価する

「新人だった頃に比べて、判断力が格段に上がったね」など、過去と比較して成長した点を伝えることで、自身のキャリアアップを実感させることができます。

3. 伝える力(目的・背景を共有)

指示を出す際、単に「あの場所で立哨(りっしょう)してくれ」と伝えるだけでは、隊員はなぜその指示が出されたのかを理解できません。
立哨」(対象を警戒監視するために、特定の場所に立ち続けること)の重要性や、その背景にある「この場所は不審者が侵入しやすいから」といった目的を明確に伝えることで、隊員は指示の意図を理解し、自律的に状況判断を行えるようになります。

結論から話す

最初に最も伝えたいことを簡潔に伝え、その後に詳細な情報を付け加えることで、聞き手の理解度を高めます。

5W1Hを意識する

 いつ(When)、どこで(Where)、誰が(Who)、何を(What)、なぜ(Why)、どのように(How)を明確にすることで、指示内容の漏れや誤解を防ぎます。

相手の理解度を確認する

「今の説明で不明な点はないかな?」と問いかけ、隊員が正しく理解しているか確認することが大切です。

コミュニケーションを促す組織的な取り組み

ここでは、企業や組織が取り組むべき具体的な施策をいくつかご紹介します。

新任教育におけるコミュニケーション研修の強化

警備業法に基づき、警備員には新任教育(基本教育および業務別教育)が義務付けられています。この教育課程に、警備業務の専門知識だけでなく、コミュニケーションスキルの基礎を組み込むことが有効です。例えば、報連相(報告・連絡・相談)の具体的な方法や、チームメンバーとの連携の重要性、お客様への適切な接遇(せつぐう)方法などを、ロールプレイング形式で学ぶ機会を設けます。これにより、新入社員は初期段階からコミュニケーションの重要性を認識し、現場での円滑な人間関係を築く第一歩を踏み出せます。

定期的な社内アンケートや意見交換会の実施

現場の隊員が日頃抱えている不満や要望、業務改善のアイデアなどを吸い上げるための仕組みを構築することも大切です。

無記名の社内アンケート

誰が回答したか特定されない形式にすることで、率直な意見を集めやすくなります。

現場ミーティング・意見交換会

定期的に現場の隊員全員が参加できるミーティングを開催し、特定のテーマについて自由に意見を交換する場を設けます。マネジメント層は、ここで出た意見を真摯に受け止め、改善に向けて動く姿勢を示すことが信頼関係の構築につながります。

キャリアパスの明確化と育成プログラムの導入

警備員が自身の将来像を描けるよう、キャリアパスを明確に提示することも、モチベーション向上に大きく影響します。

等級制度の導入

警備員としての経験年数や取得した資格(例:交通誘導警備業務検定、施設警備業務検定など)に応じて、給与や役職が上がる等級制度を導入します。

スキルアップ研修

専門知識や技術を習得するための社内研修や、外部研修への参加を支援します。特に、現場を管理する立場を目指す隊員には、マネジメントスキルやコミュニケーション能力を伸ばすための研修を積極的に提供します。厚生労働省の「キャリアアップ助成金」など、人材育成を支援する国の制度も活用しながら、会社として警備員のキャリア形成をサポートしていくことが求められます。これらの取り組みを通じて、現場の声を経営層まで届けるパス(経路)を明確にすることが、組織全体の活性化に寄与します。

 マネジメント層のコミュニケーション改革に向けた考察

上記2つの事例からわかるように、コミュニケーションの改善は、警備員の定着・育成に不可欠であり、チーム全体のパフォーマンス向上にもつながります。しかし、多忙な業務の中で、どのようにコミュニケーションの時間を確保し、質を高めていけば良いのでしょうか。

1. 短時間でも「質の高い」コミュニケーションを
毎日の業務連絡の際に、ほんの数分でも隊員一人ひとりと向き合う時間を作りましょう。「今日の調子はどう?」といった軽い声かけからでも構いません。この積み重ねが、隊員との信頼関係を築き、いざという時の相談や報告をしやすい雰囲気を作ります。

2. 定期的な「1on1ミーティング」の導入
月に一度、15分から30分程度の短時間で構いませんので、隊員と個別で話す場を設けることをお勧めします。業務に関する話だけでなく、キャリアプランやプライベートの悩みまで、ざっくばらんに話せる機会を作ることで、隊員のエンゲージメント(会社への愛着や貢献意欲)を高めることができます。

3. 会社全体での「コミュニケーション研修」の実施
マネジメント層だけでなく、全社員を対象としたコミュニケーション研修を実施することも有効です。これにより、互いのコミュニケーションスタイルを理解し、円滑な人間関係を築くための共通認識を持つことができます。

警備業協会や、様々な研修機関が提供しているマネジメント層向けの研修プログラムを活用することも一つの方法です。

まとめ:警備業界の未来を創る「人」への投資

人材不足が続く警備業界において、警備員一人ひとりが安心して、そしてやりがいを持って働ける環境を整えることは、事業の持続的な成長のために最も重要な要素の一つです。マネジメント層の「現場コミュニケーション」の質を高める取り組みは、単なる業務改善に留まらず、警備員の定着率向上、ひいては警備業界全体のイメージ向上にもつながる、未来への大切な投資と言えるでしょう。
今回ご紹介したスキルや事例が、皆さまの現場におけるコミュニケーション改善の一助となれば幸いです。
警備NEXTでは、今後も人材育成や教育に関する情報をお届けしていきます。ぜひ、今後の記事もチェックしてみてください。

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