【2024年改正対応】現場が押さえるべき!労働安全衛生法のチェックポイント総まとめ

業界ニュース

2024年、労働安全衛生法の施行規則が改正されました。この改正は、現場で働く労働者にとって「命と健康」に直結する重要な内容です。特に猛暑下での作業が避けられない警備・建設・運輸といった業種では、熱中症リスクの高まりに伴って、職場での安全管理がますます求められるようになりました。
これまで「努力義務」とされていた熱中症対策は、今回の法改正により多くの項目で「義務化」され、企業や現場責任者は法的責任のもとで対策を講じる必要があります。その背景には、ここ数年の異常気象や記録的猛暑、そして熱中症による労働災害の増加という深刻な社会課題があります。
また、今回の改正は単なる一過性の取り組みではなく、「職場の安全文化をどう築くか」という視点での変革も求められています。企業にとってはコストの問題だけでなく、労働力確保や離職防止、企業イメージの向上といった側面でも大きな影響を持つことになります。
本記事では、2024年改正のポイントをわかりやすく解説するとともに、現場ですぐに役立つチェックポイントや導入事例を紹介します。現場責任者や管理者、そして現場で働くすべての人が「安全で健康な働き方」を実現するために、今一度基本を確認しましょう。

労働安全衛生法とは?

法の概要と目的

労働安全衛生法(通称:安衛法)は、労働者の安全と健康を守るために1972年に制定された法律です。厚生労働省が所管し、全国の事業場を対象に安全衛生のルールを定めています。事業者には、労働者の危険防止、健康保持、快適な作業環境づくりなどが義務付けられています。
この法律は、労働者の命と健康を守る最後の砦とも言える存在であり、近年は特にメンタルヘルスや長時間労働、過重労働対策なども視野に入れながら改正が進んでいます。従業員の多様化、高齢化、働き方の変化などを背景に、労働安全衛生の考え方も広がりを見せています。

対象となる業務・業種

この法律の対象は非常に幅広く、製造業や建設業はもちろんのこと、事務職やサービス業、警備業なども含まれます。特に「危険を伴う作業」や「屋外作業」が多い業種、たとえば建設業、運送業、警備業などでは、熱中症、転倒・墜落、過重労働といったリスクが高く、日々の業務の中で安衛法の遵守が強く求められます。
警備業においても、交通誘導や雑踏警備、巡回警備といった屋外勤務が多く、猛暑・寒冷・雨天などの環境要因と常に向き合っているため、特に熱中症対策の必要性が高まっています。加えて、高齢化が進む現場では、年齢や健康状態による個別のリスク対応も求められるようになっています。2023年の全国警備業協会の調査によると、警備員の平均年齢は57.4歳。高齢化が進む警備業にとって、安全対策の徹底は喫緊の課題です。

2024年法改正のポイントまとめ

熱中症対策の義務化

これまで「努力義務」とされていた熱中症対策が、2024年6月からは原則「義務化」されました。特に、作業場所のWBGT(暑さ指数)が28℃を超える場合、具体的な対策が必須となります。
企業には以下の対応が求められます:

  • 作業計画の見直し(高温時間帯の作業制限)
  • 水分・塩分補給の指導
  • 作業者の健康状態のチェック
  • 空調服やミストシャワーなど冷却機器の配備
  • 暑さに慣れていない新入社員や高齢者への特別対応
  • 異常時の対応マニュアルの整備と共有

WBGTの測定は「日々の安全確認」として重要視され、測定器の導入や携帯アプリでの確認も奨励されています。中には、日報にWBGTの記録欄を設けて「見える化」を徹底する企業も増えています。

管理体制と教育の明確化

法改正では、単に「暑さ対策をしよう」ではなく、誰が、何を、どのように管理するのかという責任体制の整備も求められています。これには、管理者による巡回確認や日誌記録の義務、教育訓練の実施、労働者の健康観察などが含まれます。
また、教育については「形式的に研修を行った」だけでは不十分であり、実際に行動変容が促されるような研修設計や現場でのOJT(On-the-Job Training)と組み合わせた取り組みが期待されています。
さらに、教育内容は単に座学で終わるのではなく、ロールプレイや映像教材などを活用し、より実践的で記憶に残りやすい形に進化しています。現場での「熱中症初期対応訓練」を実施している企業もあり、実際の緊急時に備える意識が高まっています。

高齢者・新人への個別対応

熱中症のリスクは個人差が大きく、特に高齢者や経験の浅い労働者は注意が必要です。改正後は、そうした労働者に対して個別の声かけやフォローを行うことも管理者の責務とされます。
定期的な健康診断結果や、作業後のフィードバックを活用することで、現場ごとの対応精度を高めることができます。たとえば「いつもより疲れているようだ」と感じた場合にすぐ声をかけたり、同僚が異変に気づいたときに報告しやすい環境を整えることが、事故を未然に防ぐカギになります。
また、現場では「水分摂取の声かけ運動」や「冷却タイムの一斉実施」など、誰でも実行できる簡単な工夫から始めてみることが重要です。

実践で使えるチェックリスト導入のすすめ

チェックリストは、現場での安全対策の「見える化」を促す有効なツールです。改正法対応を機に、企業や管理者は独自のチェック項目を設定し、定期的に点検・更新していくことが望まれます。
以下は熱中症対策の一例です:

  • WBGT値を毎日測定して記録しているか?
  • 十分な休憩時間が確保されているか?
  • 水分・塩分の摂取環境は整っているか?
  • 空調服や冷却用品の配備と着用確認はされているか?
  • 異常時の緊急対応フローが周知されているか?

チェックリスト導入の手順

  1. 対象業務の洗い出し:熱中症リスクのある業務や現場を明確にします。
  2. 項目の作成:法令や自社の安全方針に基づき、チェック項目を整理。
  3. 現場への展開:朝礼や安全会議などで共有し、従業員と一緒に活用法を確認。
  4. 定期的な見直し:季節や業務内容の変化に応じて更新します。

デジタルチェックリストのメリット

近年は、紙のチェックシートに代わり、スマートフォンやタブレットを使ったチェックリスト運用が広がっています。以下のような利点があります:

  • 書き忘れや記録漏れの防止(アラート機能付き)
  • 過去の記録を検索・集計しやすい
  • 写真や動画による報告の添付が可能
  • クラウドで管理者がリアルタイムに進捗確認

特に中小規模の事業所でも、無料または安価なツールが多数存在するため、導入のハードルは高くありません。実際に、警備会社や建設業者での導入事例も増えており、「現場任せ」から「全社的な安全管理」への転換が加速しています。

取り組みやすい実践例から学ぶ

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法改正に対応するには、必ずしも最新のハイテク機器を導入する必要はありません。ここでは、多くの現場で今日からでも取り組める、実践的な方法をいくつか紹介します。

1. 朝礼での気温共有と注意喚起

毎日の朝礼で、気温や暑さ指数(WBGT)を確認し、その日の注意点を共有するだけでも意識は大きく変わります。気温が高い日は「こまめな水分補給を」「15分ごとに日陰での休憩を」といった一言を添えるだけでも効果的です。

2. クールダウンタイムの導入

午後の最も暑い時間帯(13時〜15時など)に10〜15分の「クールダウンタイム」を設け、休憩所で扇風機や冷却スプレー、冷感タオルなどを使って体温を下げる工夫をします。短時間でも、意識的に涼む時間を作ることで事故リスクが下がります。

3. 安全目標の「見える化」

「今月の熱中症ゼロ!」といったシンプルな目標を掲げ、休憩所や詰所など目に入りやすい場所に掲示することで、職場全体の意識を高める効果があります。現場の声を反映したアイデアを貼り出すのもよい方法です。

4. 自作の安全チェックカード

市販ツールに頼らずとも、紙1枚のカードに「水分をとったか?」「体調に異変はないか?」といったチェック項目を設け、作業前・作業中・作業後に確認する習慣をつけることも安全意識の向上につながります。

これらの方法は、費用や時間をあまりかけずに始められるものばかりです。大切なのは、「できることから少しずつ」現場とともに取り組む姿勢です。自社に合った方法を選び、小さな改善を積み重ねることが、やがて安全文化の礎になります。

安全文化の定着と継続的改善へ

法改正はゴールではなく、スタートラインです。最も大切なのは、現場で働く一人ひとりが「安全は自分ごと」として捉えられる職場文化を育てることです。
安全管理は、企業の信頼性や生産性にも直結します。継続的な改善を進めるには、以下のような取り組みが有効です:

  • 月次の安全衛生会議の実施
  • 改善提案制度の導入
  • 現場ヒアリングや匿名アンケートの活用
  • 年間計画に基づく教育と訓練

さらに、今後想定される法改正の見通しとしては、メンタルヘルス対策の義務化や、デジタル労災記録管理の導入などが挙げられています。これらに先んじて準備を進めることで、企業の法令順守力と労働環境の質が一層高まるでしょう。
また、中小企業にとっては「人材も時間も足りない」という悩みがつきものですが、例えば地域の労働局や中小企業支援機構が提供する無料の安全教育ツールや、自治体の補助金制度を活用することで、負担を軽減しつつ現場改善に取り組むことが可能です。
今回の改正をきっかけに、安全への取り組みを「制度」から「文化」へと昇華させることが、企業の未来を支える大きな一歩となるでしょう。

おわりに

2024年の労働安全衛生法改正は、「暑さ」とどう向き合うかという日本社会全体の課題へのアンサーとも言えます。これまでのように「各現場の努力」に頼るのではなく、「制度として守る」時代が始まっています。 法令順守にとどまらず、現場の声をくみ取り、使いやすく実効性のある形で運用していく。その積み重ねが、“命を守る現場づくり”につながっていきます。

警備の”今”と”これから”を考えるメディア「警備NEXT」を参考にしてみはいかがでしょうか。

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