現在、警備業界は慢性的な人手不足という大きな課題に直面しており、中でも若手警備員の定着は、多くの警備会社にとって重要なテーマではないでしょうか。貴重な戦力となる若手の方々に長く活躍していただくためには、単に採用するだけでなく、入社後の丁寧な育成とサポートが不可欠です。
今回は、若手警備員の方々が安心して働き続けられる環境を築き、定着率を向上させるために、警備会社が具体的に取り組むべき5つのポイントを、現場目線と第三者的な中立な視点から詳しく解説していきます。
教育プログラムの充実化
若手警備員が会社に定着するかどうかは、入社後の「最初の数ヶ月」にかかっていると言っても過言ではありません。
新任研修の質の向上
警備業法では、新任警備員に対して20時間以上の新任研修が義務付けられています。しかし、この研修を「義務だから仕方なく」と捉え、形式的に終わらせてしまうだけでは、若手警備員の不安を解消することはできません。
《具体的な取り組み》
実践的な研修内容の充実: 座学だけでなく、護身術の実践、無線機の操作訓練、不審者対応のシミュレーション(模擬訓練)など、現場で役立つ実践的な内容を多く取り入れましょう。特に、若手は動画や体験型の学習に慣れているため、視覚的な教材やロールプレイングを積極的に導入することが効果的です。
「なぜそうするのか」を伝える: 単なる手順だけでなく、「なぜこの警備業務が必要なのか」「なぜこの行動が求められるのか」といった背景や目的を丁寧に説明することで、警備員の仕事の意義を理解してもらい、モチベーション向上に繋がります。
質疑応答の時間を確保: 疑問や不安を抱えやすい新人のために、気軽に質問できる雰囲気を作り、十分な質疑応答の時間を確保することが重要です。
OJTにおけるベテランとの連携
研修で学んだ知識を現場で実践するOJT(オン・ザ・ジョブ・トレーニング)は、若手の成長と定着に不可欠です。
《具体的な取り組み》
任の指導担当者を任命: 若手警備員一人ひとりに、相談しやすいベテラン警備員を指導担当者として任命しましょう。担当者は、業務指導だけでなく、精神的なサポート役も担うことで、若手が孤立するのを防ぎます。
定期的なフィードバックと対話: OJT期間中は、業務の進捗だけでなく、日々の不安や悩みを共有できる場を定期的に設けましょう。小さな成功体験を承認し、具体的な改善点を伝えることで、若手は自身の成長を実感しやすくなります。
OJTマニュアルの作成と共有: OJTの質が指導員によってばらつかないよう、共通のOJTマニュアルを作成し、指導員全体で共有・実践することが望ましいです。
公平な評価制度とキャリアパスの明確化
若手警備員が「この会社で長く働きたい」と感じるためには、自身の努力が正当に評価され、将来的なキャリアが見通せる環境が不可欠です。
評価制度の透明化とフィードバック
多くの警備会社では、評価基準が曖昧であると感じる若手警備員も少なくありません。
《具体的な取り組み》
評価基準の明確化: 警備業務の種類(例:交通誘導警備における車両誘導の正確さ、施設警備における巡回時の確認事項など)、勤務態度、コミュニケーション能力、資格取得への意欲など、具体的な評価項目と基準を明確に設定し、本人に開示しましょう。
定期的な評価面談の実施: 半年に一度、あるいは年に一度など、定期的に評価面談を実施し、評価結果を本人にフィードバックする場を設けてください。良い点は具体的に称賛し、改善が必要な点については具体的なアドバイスを提供することで、若手は納得感を持って業務に取り組むことができます。
多面評価の導入検討: 直属の上司だけでなく、同僚や警備対象先の担当者からの意見も参考にすることで、より公平で客観的な評価を目指すことも有効です。
キャリアパスの具体例の提示
また、「警備員は昇給や昇進が難しい」というイメージを持つ人も少なくはありません。
そういったイメージを抱かないためにもキャリアパスを掲示することが大切です。
《具体的な取り組み》
具体的なキャリアパスの提示: 警備員から警備隊長、教育担当者、営業職、さらには管理職へと進むキャリアパスを具体的な例を挙げて提示しましょう。各役職でどのような業務を担い、どのようなスキルが必要か、給与水準の変化なども説明することで、将来への希望を持ってもらえます。
資格取得支援の強化: 警備業務に関する資格(例:警備員指導教育責任者、機械警備業務管理者、交通誘導警備業務検定など)は、キャリアアップに直結します。資格取得に向けた研修費用や受験料の補助、合格報奨金の支給など、具体的な支援策を充実させましょう。
ジョブローテーションの検討: 経験を積ませるために、施設警備から交通誘導警備へ、あるいは異なる現場への異動を検討するなど、様々な警備業務を経験できる機会を提供することも、スキルアップとモチベーション維持に繋がります。

コミュニケーションの活性化と相談しやすい環境作り
若手警備員が抱える孤立感や人間関係の悩みを解消することは、定着率向上の上で非常に重要です。
定期的な面談とメンター制度の導入
現場での警備業務は、ベテラン警備員との連携が不可欠ですが、時に人間関係の悩みを抱えることもあります。
《具体的な取り組み》
定期的な個別面談の実施: 現場のリーダーや人事担当者による個別面談を定期的に実施し、仕事の悩みだけでなく、プライベートなこと、キャリアに関する不安など、若手が安心して話せる場を設けましょう。形式的な面談ではなく、傾聴の姿勢で若手の声に耳を傾けることが大切です。
メンター制度の導入: 経験豊富なベテラン警備員が、特定の若手警備員をサポートする「メンター制度」は、若手の精神的な支えとなります。業務上の指導だけでなく、会社生活全般にわたる相談役として機能させることで、若手は孤立感を感じにくくなります。メンターとなるベテラン警備員には、メンタリングに関する研修を行うと良いでしょう。
連絡の取りやすい環境整備: 業務連絡だけでなく、気軽に質問や相談ができるようなチャットツールやグループLINEなどを活用し、若手が孤立しないような環境を整備することも有効です。
レクリエーションや交流イベントの開催
業務外での交流は、チームの一体感を高め、人間関係を円滑にする上で有効です。
《具体的な取り組み》
懇親会や食事会の定期開催: 勤務後に上司や同僚と気軽に食事に行けるような機会を設けることで、業務中には話せない本音を共有できる場を提供します。会社が費用を一部補助するなど、参加しやすい工夫を凝らしましょう。
社内イベントの実施: バーベキュー大会、ボウリング大会、忘年会など、業務と直接関係のないレクリエーション活動を企画・実施することで、部署や年齢の垣根を越えた交流が生まれ、会社への帰属意識を高めることができます。
社内報や広報誌の発行: 会社のニュース、警備員の活躍、新人の紹介などを掲載する社内報やウェブマガジンを発行することで、警備員同士の横の繋がりを促進し、一体感を醸成できます。
働きがいと処遇の改善
労働条件や待遇は、若手警備員が働き続ける上で最も基本的な要素です。
適正な賃金と手当の見直し
警備員の賃金水準は、他業種と比較して低いと認識されがちです。
《具体的な取り組み》
賃金水準の定期的見直し: 地域の最低賃金や業界の平均賃金、物価上昇などを考慮し、若手警備員が納得できる適正な賃金水準を設定しましょう。
手当の充実: 残業手当、深夜手当、資格手当、役職手当、危険手当など、警備業務の特性に応じた手当を充実させることで、警備員のモチベーション維持に繋がります。特に、雑踏警備や交通誘導警備など、特定の環境下での業務には、その大変さに見合う手当を検討することが重要です。
柔軟な働き方の導入検討
若手警備員は、ワークライフバランスを重視する傾向があります。
《具体的な取り組み》
勤務シフトの柔軟化: シフト制の勤務において、警備員の希望を最大限に考慮したシフト作成を心がけましょう。連続勤務の抑制や、休暇希望の尊重は、心身の健康維持に繋がり、結果として定着率向上に貢献します。
多様な雇用形態の導入: フルタイムだけでなく、短時間勤務、週数日勤務、夜勤専従など、若手のライフスタイルに合わせた多様な雇用形態を検討し、募集することで、幅広い人材を確保できます。
ハラスメント対策の徹底: パワーハラスメントやセクシャルハラスメントなど、あらゆるハラスメントに対する相談窓口の設置や、厳正な対応を明文化し、従業員に周知徹底することで、心理的に安全な職場環境を確保できます。
警備業務のイメージアップと魅力発信
警備の仕事が「きつい」「大変」というイメージを持たれがちな中で、その仕事の魅力をいかに若手に伝え、誇りを持って働いてもらうかが重要です。
警備の仕事の社会的意義を伝える
警備業務は、社会の安全と秩序を守る非常に重要な仕事です。そのため、仕事の重要性を様々な形で伝える必要があります。
《具体的な取り組み》
警備の仕事の重要性を継続的に発信: 社内報やミーティングの場で、警備業務が事件や事故の未然防止、人々の安全確保にどう貢献しているかについて具体例を挙げて伝えましょう。感謝の声や成功事例を共有することで、警備員自身のやりがいや誇りを育むことができます。
感謝の機会を創出: 警備対象先の担当者から警備員へ直接感謝の言葉を伝えてもらう機会を設けたり、社内表彰制度を充実させたりすることで、警備員の日々の努力が報われる機会を増やしましょう。
地域貢献活動への参加: 防災訓練への協力や地域イベントへの参加など、警備会社として地域社会に貢献する活動に積極的に参加することで、警備員が「自分たちの仕事が社会に役立っている」という実感を持ちやすくなります。
また、若手警備員が「この会社に入ってよかった」と思えるような情報を積極的に発信することも重要になってきます。
ポジティブな情報発信と広報活動
現代は、SNSを使用した情報が主流となっております。そのため若手警備員が「この会社に入って良かった」と思えるような情報をSNSにて積極的に発信しましょう。
《具体的な取り組み》
採用動画の活用: 実際の現場の様子、警備員の笑顔、研修風景などを収めた採用動画を作成し、求人サイトや企業のSNS(XやInstagramなど)で公開しましょう。若手警備員がインタビューに答える形式も有効です。
SNSでの情報発信: 若手警備員が日常的に利用するSNSを活用し、会社の雰囲気、警備員の日常、福利厚生、イベントなどを積極的に発信しましょう。リアルな情報発信は、応募者にも企業の良いイメージを与えます。
警備員の成功事例や成長ストーリーの紹介: 入社後の成長、資格取得の達成、困難な現場での活躍など、警備員個人のポジティブなストーリーをウェブサイトや採用資料で紹介することで、「自分もこうなりたい」というロールモデルを提供できます。
まとめ
警備業界における若手警備員の定着は、一朝一夕で実現できるものではありません。今回ご紹介した5つのポイントは、それぞれが独立したものではなく、互いに関連し合い、相乗効果を生み出すものです。
◦丁寧な新人教育で基礎を築く
◦公平な評価とキャリアパスの明確化で将来への期待を持たせる
◦コミュニケーションの活性化で安心感を育む
◦働きがいと処遇の改善で安定した基盤を提供
◦警備業務のイメージアップで誇りを持たせる
これらの取り組みを継続的に行うことで、若手警備員は「この会社で長く活躍したい」と感じ、結果として定着率は着実に向上していくことでしょう。若手警備員への投資は、警備業界全体の未来を築くための重要な投資です。ぜひ、状況に合わせてできることから一つずつ実行に移してみてください。
今後も「警備NEXT」では、警備業界の採用・育成・教育を支援するための情報を提供していきますので、気になったものが1つでもあれば参考にしていただき、実践に移してみてください。