師走が近づき、イベントや商業施設の警備需要が急増する年末の繁忙期は、警備業界にとって最も重要な時期の一つです。
この時期は、新人の採用や教育を短期間で集中的に行う必要があり、「教育の質を保ちつつ、どう効率よく現場に出すか」という課題に直面している教育担当者の方も多いのではないでしょうか。教育が不十分なまま新人を現場に送り出すことは、事故のリスクを高めるだけでなく、新人の早期離職にも繋がりかねません。
この記事では、警備の専門家として、年末のピークシーズンを乗り切るために、「質と効率を両立させる研修フロー」をどのように設計すべきか、具体的なポイントを解説します。現場の負担を減らしつつ、即戦力となる警備員を育成するためのヒントとして、ぜひお役立てください。
繁忙期こそ見直したい研修フローの3つの課題

年末年始は、通常の施設警備や交通誘導警備に加え、カウントダウンイベントや初売りといった雑踏警備(イベントなどで人が密集する場所の安全を確保する業務)が加わり、業務の複雑性が増します。この時期に陥りがちな研修フローの課題を確認し、対応策を考えましょう。
指導者による「教育品質のバラつき」
繁忙期は経験の浅い指導員が新人を担当せざるを得ないケースが増え、教える内容や技能レベルにバラつきが生じやすくなります。これにより、新人が特定のスキル(例:報告・連絡・相談(ホウレンソウ)の手順、無線機操作など)を習得できないまま現場に出るリスクが高まります。
「座学と実践の接続」の曖昧さ
警備業法に基づき、新規採用者には合計20時間以上の新任教育(基本教育や業務別教育)が義務付けられています。しかし、座学で法令や基本動作を学んだ後、現場でのOJT(実地研修)への移行がスムーズに行われないと、新人は「知識」と「現実」のギャップに戸惑い、不安を感じてしまいます。
スキル評価の「主観性」と「記録の不備」
研修のスピードを優先するあまり、新人の習熟度評価が指導者の主観頼みになりがちです。また、法定教育後のOJT記録や評価が不十分だと、法令遵守(コンプライアンス)上のリスクが生じるだけでなく、その後の現任教育(現職警備員に対して年度ごとに10時間以上実施)の計画を立てる際にも支障をきたします。
効果的な研修フローを設計する3つのステップ

これらの課題を解消するためには、事前に「何を」「いつ」「誰が」教えるかを明確にした、標準化された3ステップの研修フローを構築することが不可欠です。
ステップ1:座学の「実践的重点化」
法定の基本教育は必須ですが、繁忙期対応の新任教育では、特に現場で緊急性の高い知識に絞り込み、実践的なアウトプットを重視します。
緊急性の高い知識に絞り込んだ座学構成
座学の時間を効率的に活用するため、特に人命や安全に直結する項目を優先します。
- 法規・規則
- 警備業法の基本と、年末繁忙期に特に関連する法規制(例:イベント開催時の警備計画届出、交通誘導の法令上の位置づけなど)を再確認します。
- 初期対応
- 火災、体調不良者、不審者発見時の「報告経路」「初期措置」「避難誘導の手順」を、座学中に何度も口頭で確認し、反射的に行動できるようにします。
- 無線運用
- 単なる操作方法だけでなく、「明確かつ迅速な交信」のための定型文や用語を徹底的に指導します。
ステップ2:OJTを成功に導く「ツールと体制の標準化」
現場でのOJTの質を均一化するため、「誰が担当しても同じレベルの指導ができる」環境を整備します。
必須!OJTチェックリストの導入
OJTの内容を可視化し、指導者間のバラつきをなくすために、具体的な行動レベルで評価できるチェックリストを導入します。チェックリストは、単なる確認項目ではなく、「教えるべき手順書」として機能させることがポイントです。
<チェックリストの例(交通誘導・施設警備共通)>
- 対人コミュニケーション
- 来訪者(運転手含む)に接する際の第一声と表情、丁寧な説明ができているか。
- 状況把握能力
- 担当区域の危険箇所(段差、滑りやすい場所など)を5分以内に発見し、口頭で報告できるか。
- 装備品の点検
- 警笛、誘導棒、無線機のバッテリー残量確認を、始業前チェックリストに基づき実施できているか。
伴走型指導者(バディ)の任命
新人の心理的負担を軽減し、質問しやすい環境を作るために、OJT期間中はベテランや中堅を「バディ」または「メンター」として専任で任命します。これにより、新人は孤独感を覚えることなく、現場での疑問をすぐに解消でき、早期の不安払拭につながります。
ステップ3:評価と定着を連動させる「振り返り設計」
研修を終えた後、新人が定着し、現任教育へとスムーズに移行できるよう、評価とフィードバックのプロセスを重視します。
「合格」ではなく「成長の視点」でフィードバックを実施
チェックリストに基づくOJTの最終評価は、「不合格」を出すためのものではなく、「どこが伸びたか」「次に何を学ぶべきか」を伝えるための資料として活用します。
- 定期的面談
- 入社後1週間、1ヶ月の節目に教育担当者や人事担当者が新人と面談を行います。業務の習熟度だけでなく、メンタル面や職場の人間関係についての悩みを聞き出す機会を設けます。
- データ活用
- OJTチェックリストの評価データは、単に保管するだけでなく、新人の配属先選定や、次年度の現任教育のカリキュラム改善に活かします。例えば、新人が苦手とする傾向にある項目があれば、その部分の研修時間を増やすといった具体的な改善策に繋げます。
まとめ:計画的な研修フローが企業の信頼を高める
年末繁忙期は、警備員にとって最も重要であり、最もプレッシャーのかかる時期です。この時期を成功裏に乗り切るには、場当たり的な指導ではなく、事前の周到な計画に基づいた研修フローが欠かせません。
<効果的な研修フロー設計の要点>
- 座学は「緊急性」で絞り込み、実践を強く意識させる。
- OJTはチェックリストと「バディ制度」で品質を均一化する。
- 評価は定着と次のステップを見据えた「フィードバック」として活用する。
人材育成は、コストではなく未来への投資です。計画的な研修フローは、警備員一人ひとりの自信を育み、結果として企業全体のコンプライアンスと顧客からの信頼を高めることになります。
警備NEXT(警備ネクスト)では、現場で役立つ知識や警備員の声をこれからも発信していきます。日々の勤務に少しでも役立ててもらえたら幸いです。