「人が財産」――現場・経営・行政書士、すべてを経験したからこそ見える警備業界の未来【前編】

インタビュー

株式会社RTS 代表取締役 行政書士 増田良和氏が語る
キャリア、そして警備業界との向き合い方

警備業界では、実務に寄り添った支援を行う士業の存在が注目されつつあります。そのなかで、「現場のリアルを知る立場から、これからも警備業を支えていきたい」という思いを持ち、業界に寄り添い続ける士業がいます。
その一人が、株式会社RTS 代表取締役で行政書士の増田良和氏です。
本記事では、警備現場の実務経験、組織運営、そして士業としての支援まで、一貫して警備業に携わってきた増田氏のキャリアをたどりながら、「警備業に本当に必要な支援とは何か」を前編・後編に渡り探っていきます。

【プロフィール】

増田 良和(ますだ よしかず)様
株式会社RTS 代表取締役/行政書士事務所RTS 代表

18歳で警備業界に飛び込み、大手警備会社で現場勤務・営業・管理を経験。その後、中堅警備会社にて取締役・代表取締役を歴任し、経営の最前線にも携わる。
令和元年には、施設警備を中心とした警備サービスを展開する株式会社RTSを創業。さらに、取引先の建設業・イベント業・ビルメンテナンス業に対する総合的な支援を目指し、行政書士事務所RTSを開業。
現場・経営・法制度の三つの視点をあわせ持ち、警備業界に特化した許認可取得支援や体制整備、教育・運用サポートまで、現場に寄り添う伴走型支援を行っている。
株式会社RTS:https://rts-safety.com/
行政書士事務所RTS:https://rts-keibi.com/

「気づけば27年」──警備の現場からスタートしたキャリア

増田氏が警備業界と関わり始めたのは18歳のとき。
当時、車の免許を取得するための資金を貯めようと考え、時給の良さに惹かれて選んだのが警備のアルバイトでした。
しかし目標額を貯めた後も、当時の上司から「次はこんな業務もやってみないか」と声をかけられ、「面白そうだな」と思った増田氏は、そのまま警備業界に携わることになります。

「気づいたら27年が経っていました」

その後、正社員として警備会社に就職。現場勤務だけでなく、管理業務、営業、採用、教育と、キャリアの幅を広げていきました。30代には、ある大きな転機が訪れます。

「当時、自分の中で“35歳までに芽が出なかったら警備業界から離れよう”と考えていました。そんな折、役員の話をいただき、その後、代表取締役に就任することになりました」

やがて独立のきっかけとなったのは、2019年。

「オリンピックを前に業界が活気づく中、色々な事情があり会社を離れることとなりました。その際、取引先からも“自分でやってみたら?”と背中を押されたこともあり、株式会社RTSを創業しました」と振り返ります。

現場から経営まで一連の経験が、現在の士業としてのスタンスにも自然とつながっているように感じられました。

「現場と制度、両方を知る支援者になりたい」

行政書士を開業した背景には、中小のイベント会社などが抱える構造的な課題がありました。

「イベント業務のなかには、設営や案内だけでなくイベント警備の業務も存在します。しかし、イベント会社は警備業の認定を受けていないため、法的に警備の仕事を受けることができず、ビジネスチャンスを逃しているケースが少なくありません。なかには法令違反にあたることを知らずに業務を行っている企業もあり、そうしたご相談を多くいただいていました」

警備業務の認定を取るための書類作成・申請代理は、行政書士の独占業務。だからこそ「自分がその立場になれば、より実務に即した支援ができる」と考えたのです。

さらに、建設業や清掃、ビルメンテナンスなど警備業と関係の深い他業種にも許認可が関わってくるため、包括的な支援をしたいという想いもありました。

また、業界全体の将来を見据えた動機もあります。
現在、警備業界では「特定技能制度」に警備業を加えるべく業界団体が国に働きかけを行っています。

「現時点では、警備員として働くことができるのは身分系の在留資格(永住など)と留学生の資格外活動などに限定されており、正規の就労ビザは取れません。しかし、2027年を目標に特定技能の対象に加える動きがあります。これは業界の人手不足解消にも大きな影響を与える可能性があります」

その際に必要な手続きや就労ビザ申請などを担うのも、行政書士の役割です。
さらに、2026年1月には行政書士法の改正が予定されており、適切な申請手続きが求められる中で「士業がきちんと関与すべき時代」になると増田氏は見ています。

「人が財産」──27年間変わらない、警備業との向き合い方

インタビューの中で何度も繰り返された言葉があります。

「人が財産」

現場でも、経営でも、士業としての支援でも──増田氏の根底にあるのは「人」に対する敬意と、伴走しながら寄り添う姿勢でした。

「法律や制度だけで支援が完結するわけではありません。現場の“温度感”を理解しながら支援することが大切。だから私は“書類作成の専門家”にとどまらず、現場に根ざした“頼れる相談相手”でありたいと考えています」

警備業界の未来について尋ねると、増田氏は「現場で働く人たちが、その努力にふさわしい評価を受けられるような業界になっていってほしい」と語ります。

「大手は機械警備やAIへのシフトが進んでいますが、中小企業ではまだまだ“人の力”に支えられている部分が大きい。その分、警備員一人ひとりの質がお客様の評価、ひいては業界全体の評価にも直結します」

そうした姿勢は士業としての活動にとどまらず、経営者としての在り方にも表れています。創業から現在まで7期目を迎えた株式会社RTSは、毎期増収増益を続けており「人が財産」という考えが経営成果にも確実に反映されています。

「そして何より、多くの方に“この業界で働いていて誇らしい”と感じてもらえるよう、警備業の価値や魅力を社会にしっかり伝えていける存在でありたいと考えています」

次回(後編)では、警備業界が今直面する課題と、その解決に向けた「伴走型支援」のあり方について、さらに詳しく伺っていきます。

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