採用活動が活発になる秋のシーズンがやってきました。新人警備員を迎える準備は進んでいますか? 警備業界は社会の安全を守る重要な役割を担っています。しかし、慢性的な人手不足や新人の早期離職といった課題に直面している企業も少なくありません。
「せっかく採用した新人が、なかなか現場に馴染めない」
「教育に時間をかけても、すぐに辞めてしまう」
この記事では、そんなお悩みを抱える教育担当者や現場管理者の皆様に向けて、新人警備員を早期に戦力化し定着率を向上させるための教育のポイントを解説します。
警備業務の質を維持しさらに高めていくために新人育成は欠かせない要素です。
警備業の新人教育を取り巻く現状と課題
警備員として働き始めるには、警備業法に基づいた教育が義務付けられています。新任教育(基本教育10時間、業務別教育10時間以上)を修了しなければ、警備業務に従事することはできません。
しかし、法定教育を終えただけでは、すぐに現場で活躍できるわけではありません。座学で学んだ知識を、実際の現場で応用し、お客様や関係者と円滑なコミュニケーションをとるためには、さらなる実践的な学びが必要です。
また、警備の仕事は交通誘導(工事現場などで人や車両の流れを整理する業務)、施設警備(商業施設やオフィスビルでの巡回や出入管理など)、雑踏警備(イベント会場や祭りで群衆の安全を確保する業務)など、多岐にわたります。それぞれ求められる知識やスキルが異なるため、新人一人ひとりの個性や適性を見極めた上で、きめ細やかな指導を行うことが重要となります。
新人警備員を早期戦力化する3つの教育ポイント

1. 現場配属前の「不安」を払拭する
法定教育を終え、いざ現場へ、という段階で多くの新人が抱えるのが「現場への不安」です。この不安を解消することが、早期離職を防ぐ第一歩となります。

座学と現場のギャップを埋めるOJT
座学で学んだ内容を、OJT(On the Job Training:実地研修)を通じて現場で実践させることが有効です。ベテランの先輩がマンツーマンで指導することで、新人は安心して業務に取り組むことができます。また、OJTではマニュアルには書かれていない「現場の空気感」や「臨機応変な対応」を学ぶことができ、より実践的なスキルを身につけることができます。この際、指導者は「ただ見せる」だけでなく「なぜそのように行動するのか」を言葉で丁寧に説明することを心がけましょう。
ロールプレイングで実践力を養う
お客様や関係者とのコミュニケーションは、警備員にとって非常に重要なスキルです。警備業は「サービス業」としての側面も持ち合わせており、丁寧な言葉遣いや状況に応じた対応が求められます。現場で起こりうる様々な状況を想定したロールプレイングを取り入れることで、新人は実際の場面でどう対応すれば良いかを事前にシミュレーションできます。
たとえば、以下のような状況を想定して練習してみましょう。
道案内
商業施設やイベント会場で道を聞かれた際、正しい道順を簡潔かつ丁寧に伝える練習です。地図を指し示したり、目印となる場所を伝えたりするなど、実践的なスキルを磨くことができます。
緊急時の初期対応
施設内で体調を崩した方を発見した、迷子を見つけた、といった緊急事態に遭遇した場合の初期対応を練習します。まずは落ち着いて状況を確認し、適切な部署に報告するまでの流れを身につけます。
車両誘導
駐車場や工事現場で運転手から無理な要求をされたり、指示に従ってもらえなかったりする場面を想定します。冷静かつ的確に状況を説明し、安全に誘導するためのコミュニケーション方法を学びます。
2. 多様化するキャリアパスを提示する
警備の仕事は、単なる監視や巡回だけではありません。経験を積むことで警備業務検定を取得したり、隊長や指導員として後輩を育成したりと、様々なキャリアパスが開けています。新人が「この会社で長く働きたい」と思えるような、明確なキャリアパスを示すことが、モチベーションの維持に繋がります。
資格取得支援制度の充実
警備員としてキャリアアップする上で、警備業務検定は不可欠なものです。資格取得にかかる費用を会社が負担したり、講習の時間を勤務時間として認めたりするなど、資格取得支援制度を充実させることは新人のスキルアップ意欲を高める上で効果的です。厚生労働省の「人材開発支援助成金」など、公的な助成金を活用できる場合もあります。積極的に情報収集を行い、制度の活用を検討しましょう。

メンター制度の導入
新人と年齢やキャリアの近い先輩を「メンター」として割り当て、定期的に面談する機会を設けることも有効です。メンターは、業務上の悩みだけでなく人間関係や将来のキャリアに関する相談にも乗ることで、新人の精神的な支えとなります。公的な相談窓口として、一般社団法人全国警備業協会でも様々な研修や教育プログラムを提供しています。

3. 先輩警備員の「教育力」を向上させる
新人教育の成否は、指導する先輩警備員の力量にかかっていると言っても過言ではありません。しかし、現場のリーダーやベテランの中には「指導の仕方がわからない」「教える時間がない」と感じている方もいるかもしれません。
指導者向けの研修を実施する
新人を指導する立場にある警備員を対象に、「ティーチング」「コーチング」といった指導方法を学ぶ研修を実施しましょう。 「ティーチング」は知識やスキルを教え込むこと、「コーチング」は相手の自主性を引き出すことを指します。新人一人ひとりの個性や成長段階に合わせて、指導方法を使い分けるスキルを身につけることで、より効果的な指導が可能になります。
<研修内容の例>
コミュニケーションスキルの向上
新人との信頼関係を築くための聴く力、質問する力、共感する力を養います。
フィードバック方法の習得
新人の良い点を具体的に褒め、改善点をポジティブに伝える方法を学びます。ただ「ダメだ」と指摘するのではなく「こうすればもっと良くなる」という具体的なアドバイスをすることで、新人のモチベーションを下げずに成長を促します。

OJTマニュアルの作成
指導者間でOJTの進め方や教える内容を統一するためのマニュアル作成演習を行います。これにより、指導者ごとのバラつきをなくし、新人がスムーズに知識を習得できる環境を整えます。
教育担当者の負担を軽減する
新人教育の負担が一部のベテランに集中しているケースもあります。教育マニュアルを整備し、誰でも一定のレベルで指導できるようにしたり、新人のOJTを複数の先輩で分担したりするなど、教育担当者一人ひとりの負担を軽減する工夫が必要です。また、OJTの進捗状況を共有する仕組みを作ることで、組織全体で新人育成をサポートする体制を構築しましょう。
まとめ:警備員の育成は、会社の未来への投資
新人警備員を早期に戦力化し定着率を高めるためには、法定教育だけでなく現場に寄り添ったきめ細やかな教育が不可欠です。
- 現場配属前の不安を解消する
- 多様なキャリアパスを提示する
- 先輩警備員の教育力を向上させる
これらのポイントを押さえることで、新人は安心して業務に取り組み、長期的なキャリアを築いていくことができます。
警備員の育成は、単に人手不足を解消するだけでなく、会社のブランドイメージを向上させ、事業の持続的な成長を支える「未来への投資」です。この記事を参考に、貴社の新人教育体制を再点検し、より良い採用活動、そして人材育成に取り組んでいただければ幸いです。
警備業界は、今後も社会の安全・安心を支える重要な存在です。優秀な人材を育成し、長く活躍してもらうための環境づくりは、企業にとっての急務と言えるでしょう。
警備NEXTでは、現場で役立つ知識や警備員の声をこれからも発信していきます。日々の勤務に少しでも役立ててもらえたら幸いです。